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第七話:行商人

 馬車の御者台に乗っていたのは30代くらいの商人風の男性だった。そして、馬車に追随するように20代くらいの冒険者風の男性が立っている。

 見たところ、行商人とその護衛のように思える。しかし、なぜ立ち止まったのかわからない。

 目をぱちくりとさせていると、商人風の男性が御者台から降り、私と目を合わせるように屈んで話しかけてきた。


「君、こんなところで一体どうしたんだい?」


「え、えっと……」


「こんなにボロボロになって、盗賊にでも襲われたのか?」


 ああ、なるほど、そういうことか。

 私の今の格好は捨てられた時と同じボロ布みたいなワンピース姿だ。魔法を覚えてからは洗うようにしてたけど、それでも一年もずっと着っぱなしとなるとその状態は酷いもので、あちこちに穴が空いたりしている。

 うん、とても人様に見せられるような状態じゃなかったね。


「よく無事だったな。君一人だけか?」


「え、あ、はい……」


「そうか……。いや、君だけでも助かったと喜んでおこう」


 実際はアリアがいるから一人じゃないけど、どうせこの人からは見えないし一人と言っていいだろう。それより、勝手に盗賊に襲われたとか思ってるみたいだけど、どうしたものか。

 まあ? 結果的に見れば服以外身ぐるみ剥がされて捨てられたようなもんですし? 盗賊に襲われたと言っても差し支えないとは思うけどね。


「とにかく、君一人では危険だ。近くの町まで送っていこう」


「あの、いいんですか?」


「もちろんだとも! むしろ、君のような子供を見捨てたとあっては世間から後ろ指を指されかねない」


 町まで歩いていくつもりだったんだけど、乗せていってくれるのならありがたいことだ。アリアがいると思われる方に顔を向けたが、特に反応がないので問題ないということだろう。


「ああ、俺はロニール、こっちは護衛のリュークだ」


「よろしくな、お嬢ちゃん」


「私はハクです。よろしくお願いします」


 ロニールさんはとにかく陽気な人のようだ。私を御者台の隣に乗せると道中ずっと話しかけてくる。おかげでいろいろなことが分かった。

 ロニールさんは行商人であり、今は商業都市カラバに向けて積み荷である釘を売りに行くところなのだとか。

 この道10年以上のベテランで、夢は自分の店を持つことらしい。

 見た目はまだ若そうに見えるけど、顎にある髭は見栄えを気にしているのかしっかりと剃られているのがわかる。商人としての風格というか、威厳のようなものを感じる。


 対してリュークさんはまだ新米と言った感じの様子だ。常にキョロキョロと辺りを見回しているし、小さな物音一つで腰に佩いている剣を抜こうとしている。

 そんなに警戒してたら疲れるだろうに。まあ、役職上仕方のないことだとは思うけど。

 なんでも、冒険者ギルドであぶれていた所をロニールさんが声をかけたらしい。新人への未来の投資と言って護衛を任せたのだとか。

 ロニールさん、割といい人なのかもしれないね。


「ハクちゃん、町についたらどうする? 行く当てはあるのかい?」


 ロニールさんが話を振ってくる。そういえば、町についたら何をしようって結局決めてなかったな。

 うーん、冒険者になる? 採取した食料があるし、その気になればどこでだって寝られるけど、いつまでもそんなサバイバル生活というわけにもいかない。今の私は親切な行商人に助けられてしまうくらいには酷い状態だ。

 となると、お金を稼がなければならない。しかし、11歳でつける職は限られている。その中で、最も簡単なのが冒険者だ。

 冒険者はギルドで申請すれば簡単になることができるし、村のヒーロー的立ち位置だった冒険者には憧れもある。

 冒険者として生計を立てるのもいいかもしれないね。


「冒険者になってみようかと思います」


「冒険者だって? その年で?」


 驚いたような声を上げるロニールさんに思わず首を傾げる。

 村では10歳になって魔法の適性があれば町に出て冒険者となるのが普通だ。だから、この年で冒険者になることは特に珍しいことでもないはずなのだが。

 ロニールさんははっと何かに気付いたようにかぶりを振ると、私の頭に手を乗せてそっと撫でてきた。


「そうか、頑張れよ。ずっとカラバにいるわけじゃないが、困ったら俺のことを頼ってくれ」


 なんだかよくわからないが同情されていることはわかった。うーん? 冒険者ってそんなにやばい仕事なの?

 まあ、村の子供達の中でも大成している冒険者はほんの一握りだから難しいのはわかるけど。命の危険もあるだろうし、子供がやるって考えると確かにやばい仕事かもしれない? でも、子供の冒険者がやることと言えば薬草の採取や届け物の配達など割と地味な仕事ばかりだとお姉ちゃんが言っていた気がする。そこのところどうなんだろう?

 冒険者以外にできそうな仕事もないからお金を稼ぐならやるしかないんだけどね。


 カラバまではまだ二日ほどかかるという。もし、歩いていったらもっと時間がかかっているんだろうな。

 馬車の速度はそこまで早いわけではないが、私の場合体力が全然ないからかなりの数の休憩を挟まないといけなそうだし、こうして拾われたのは本当に運がよかった。

 しばらくして日が落ちてきたところで野営の準備に入る。


 この辺りは森に近いこともあって時たま魔物が襲ってくることもあるらしい。そう考えると危険な道だが、これくらいは普通の事で、むしろ出現頻度的に考えればこの道はとても安全な部類に入るらしい。魔物より、気を付けるべきは盗賊だ。

 森は身を潜めるのにちょうどいいし、見晴らしがいいから獲物を観察しやすく、即座に囲めるからだ。

 一応、付近の町が冒険者に対して盗賊の排除を依頼しているが、いくらやっても減らないらしく、手を焼いているのだとか。いなくならないという意味ではゴブリン並みの生命力だな。

 ゴブリンはホーンラビットと同じく繁殖力が強く、どこにでも生息できる生命力を持っている。武器を作る知恵があり、一匹一匹はたいして強くないが、集団で集られると苦戦する相手。たまに増えすぎたゴブリンが雪崩のように町に攻め込んでくることもあるらしい。


 そんな話を聞きながら薪を集めて火を起こす。せっかくなので火魔法で火を起こしてあげたらとても驚かれてしまった。


「お嬢ちゃん、器用だな」


「ああ。魔法が使えることにも驚いたけど、魔法を火起こしに使うなんて滅多に聞かないよ」


 魔法の主な使用用途は戦闘に使用することだ。敵を傷つけることを目的としているため、必然的に火力は高くなる。それは初級魔法であるボール系の魔法でも同じことで、魔法で火をつけようとしたら普通は黒焦げになってしまう。

 火力を最低限に落としたボール系魔法ならばできないことはないが、魔法が使える者でもそれを好んでやるような人はいない。


「魔法は少し得意なんです」


「はは、これは将来有望だね」


 私の場合は魔法陣の研究によって生活の中でも使えるレベルの魔法を開発しているから比較的簡単にできる。生活の質を向上させるために作った魔法だが、早速役に立ったようで何よりだ。


 手早く野営の準備を済ませるとロニールさんが晩御飯としてパンをくれた。馬車に便乗させてもらっているのに悪いとは思ったが、お腹もすいていたのでありがたくいただくことにする。

 勢いよく齧りつき、その硬さに思わず口を離す。表面が黒いパンはまるで石のように硬く、とても食べられたものではない。

 唸っていると、くすくすとした笑い声が聞こえてはっと顔を上げる。そこには、まるでこうなることがわかっていたかのように口を押えて笑うロニールさんの姿があった。


「それは水でふやかしてから食べるんだよ。ほら、こうやって」


 器に注いだ水にパンを付けて食べてみせてくる。とても硬そうではあったが、何とか食べているのを見て私も同じようにして食べてみる。

 硬い。硬いが、噛み切れないことはない。力いっぱい引っ張ると、ようやく一欠けら千切ることができた。

 うん、水でふやかしているせいか味はよくわからないけど、少なくとも魔力溜まりで食べていた木の実よりはいいと思う。なにせ食べても喉が熱くならないからね。

 もしゃもしゃと食べているとその様子がおかしかったのか再び笑い声が聞こえた。よく見ると、リュークさんも微笑ましそうに笑っている。そんなにおかしかったかね?

 その後も暖かな目線に晒されながらご飯を食べ、その日は眠ることになった。その際、毛布を渡されてその温かさに少し涙してしまった。

 今まで葉っぱだったからね。寒さに凍えるのが普通でしたよ。

 寝ている間もなんとなく視線を感じたが、疲れていることもあって早々に眠りについた。

 まだ順調

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― 新着の感想 ―
[良い点] ボロをまとった孤児に手を差し伸べる行商のおじさん、とりあえずヒャッハーな終末世界でない事にひと安心。 [気になる点] 黒パンに苦戦するハク(´Д` )パン焼き窯がないぐらい小さな村だったの…
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