第六百五話:カンバラス家
その後、王様に手紙のことを報告したら、謝罪を受けた。
どうやら、私に対する手紙と言うのはすでに何十件もあるらしい。
しかし、そのほぼすべてが貴族関連のもので、中には悪質なものも混ざっているため、私への手紙はすべて検閲され、審査を通ったものだけが私の下に届けられているようだった。
まじか、そんなことされているとは初耳だ。
一応、私も手紙を書くことはある。テトとかラルス君とかにね。
幸い、それらの返信は特におかしな部分はないのでいいけれど、後で注意しておいた方がいいかもしれない。
転生者であることとか、あんまりばらさない方がいいだろうしね。
まあ、それはそれとして、そんな検閲があって私の下にほとんど手紙が届かないと知った貴族達はこっそりと会ったり直接手紙を届けようと思ったようだ。
しかし、それも暗部が動いているらしく、ほとんどがシャットアウトされていた。
けれど、たまたまその網をすり抜けた人がいて、その結果私の下に一通の手紙が届くことになったようだ。
「そのカンバラス家? ってどんな家なんですか?」
「カンバラス伯爵家。町の治安を守る警備隊の管理を担当している家で、王都からスラムをなくそうという目標を掲げている家だな」
話を聞いた限りでは、なんだかいいことを言っているように思ったけど、どうやら実態は全く違うらしい。
と言うのも、スラムをなくそうというのは、貧しい人達に仕事を与えたりして根本的になくそうというものではなく、スラムの人達を皆殺しにして文字通りなくしてしまおうという考えらしい。
あまりに衝撃的な事実に私は思わず呆けてしまった。
いや、王都のスラムは確かにそこまで規模が大きくないとはいえ、皆殺しにするとなればかなりの人数が犠牲になることになる。
確かに、この世界では命は安いけれど、それは魔物に襲われて亡くなるなどの理由があるからだ。
間違っても、人々を守るべき警備隊によって摘まれていい命ではない。
「もちろん、私はそれに反対している。その計画は白紙に戻すように何度も言っているのだが、言ってもまた忘れた頃に話を持ってくるのだ」
どうやらカンバラス家にとって、スラムの人間とは町の治安を脅かす者であり、即刻排除すべきだという考え方らしい。
しかし、警備隊を管理しているとはいっても警備隊の力だけではスラムの人間をすべて排除することはできない。
なので、騎士団にも協力するように何度も王様に掛け合っているのだとか。
「そんなことしたら余計にスラムが広がると思うんですけど」
「私もそう思う。だから通すわけにはいかないのだが、困ったことに国民達の何割かはそれに賛同しているのだ」
仮に騎士団にも協力してもらってスラムを排除しようと動けば、スラム街に留まっていた人達が出てくることになる。
当然、すべてを捕らえるなんてできるわけないし、何人かは逃げ延びて行き場を失うことになるだろう。
そうなった人達が何をするかと言えば、生きるために犯罪を犯す。
窃盗や暴行、あるいは放火してからの火事場泥棒などをして、どうにかして金銭や食料を得ようとすることだろう。
そうなれば、それによってお金や行き場を失った人達が増加し、結果的にスラムの人間が増えることになる。
もちろん、その都度検挙していけばいずれは犯罪は減っていくかもしれないけど、町の治安は悪くなるだろうし、警備隊の仕事は格段に増えることになると思う。
そもそもの話、スラムの人達は何かしら罪を犯したというわけではない。
もちろん、その日を生きるためにちょっとしたスリや置き引きなんかはしているかもしれないけど、処刑されるような真似はしていないはずだ。
そんな彼らが最後に辿り着いた場所までをも奪おうとするのはどう考えても間違っている。
もし、スラムをなくしたいというのならば、排除するのではなく、支援すべきだ。
そんな方法でスラムをなくせたとしても、いずれまたスラムが出来上がる。
であれば、スラムの人間達を支援してきちんとした生活に戻してあげた方が根本的な解決になるし、印象もいいだろう。
それが考えられないで賛同している人達は、ただ目先の利益に飛びついているだけだ。
「恐らく、ハクを取り込んでスラムの排除計画を進めるつもりだったのだろう。ハクが手に入れば、騎士団の手を借りる必要もなくなるだろうからな」
「そんなこと命令されたら私はその家を潰しますけどね」
なんで私がスラムの人達を殺さなくてはならないのか。
そもそも、私は殺しが苦手だし、悪人でもない人を殺す趣味はない。
と言うか、金貨100枚ぽっちで制御できると思われているのがむかつく。
もしその計画を進めるのだとしたら、その百倍くらいはかかるだろうに。
「それで、その家はどうなるんですか?」
「今のところはどうにもできんな。これまで奴らがやったことは、ハクに勧誘を仕掛けただけ。まだ叙爵も済ませていないし、この手紙だけではせいぜい注意することくらいしかできん」
明らかに不条理なお誘いではあるけど、貴族が平民相手にやると考えればそこまで不自然なことでもないし、ただの平民である私にそういう手紙を送るなとも言えない。
もちろん、無理に話を進めようとするのなら裁くことはできるが、今のところは特にそういうこともしていないため、どうにもできないとのこと。
うーん、まあ、仕方ないか。
「とにかく叙爵までの間、すべての誘いは断るように。もし何か約束してしまえば、私でも庇いきれないかもしれない」
私にできることは、言質を取られないように注意することくらい。
当日はフォルテさんがエスコート役として傍にいてくれるとはいえ、すべての貴族達を退けることはできないし、私がしっかりするしかない。
叙爵して諦めてくれればいいけど。
「そうだ、当日注意した方がいい貴族とかっていますか?」
「そうだな……大抵は危険だが、特に危険なのはこ奴らだな」
そう言って、いくつかの貴族家を教えてくれる。
どうやら、私を勧誘する貴族の中でもいくつかグループがあるようで、一つは国の利益になるから国に留めておくために誘ってくる人達。
これらの人達は純粋に国を想って行動しているようで、私が国に留まるのだと確定してくれれば特に危険はない穏健なグループのようだ。
もう一つが私を手に入れて成り上がろうとする人達。
貴族は何かしら功績を残せば陞爵することがあるので、私がその家で結果を残せば、私に便乗して家も偉くなれるかもしれないと狙っているようだ。
もちろんその他にも、私と言う戦力を見せつけて権力を主張したり、子を産ませて強い子孫を作ろうとしたりと色々と考えているらしい。
当然、危険なのは後者で、一部の上級貴族と下級貴族が加担しているようだ。
どちらにしても私の事を道具のように見ているのが癪だけど、後者の相手には絶対に関わりたくないね。
「当日は私は行くことはできん。大変だろうが、頑張ってくれ」
「わかりました」
王様が来てくれたら心強かったけど、これは仕方ないよね。
パーティまで残り僅か。せいぜい頷かないように気を付けていこう。
感想、誤字報告ありがとうございます。




