第六百三話:フォルテという人物
翌日。私は放課後に学園長室に来るように先生に言われた。
どうやら、例の学園長の息子さんが来ているらしい。
思ったより早かったなぁと思いながら一人で学園長室へと向かう。
結局、エルの調査は間に合わなかったな。まさか翌日に呼ばれるとは思わなかったから仕方ないけど。
学園長室の前に着き、扉をノックすると、学園長の穏やかな声で入りなさいと返事があった。
「ハク君、よく来たね。ああ、楽にしていてくれて構わないよ」
部屋に入ると、学園長の他にもう一人、背の高い男性が立っていた。
20代前半くらいだろうか。切れ長の目と目の覚めるような金髪はどことなく王子に似ているような気もする。
いや、目つきは王子よりきつめかもしれない。何もしていないのに睨まれているような感覚を覚える。
楽にしてくれとは言われたけど、普通の人だったら怯えて萎縮してしまうんじゃないだろうか。
「さて、先に予定されている社交パーティのエスコート役として私の息子を付けるという話は聞いているね?」
「はい、聞いています」
「その息子と言うのが彼だ。紹介しよう、フォルテだ」
「……」
学園長に紹介されたにもかかわらず、特に身じろぎすることもなくじっとこちらを見つめてくるフォルテさん。
……いや、これは【鑑定】をしてる? なんとなく、調べられている感覚がする。
だが、私は【鑑定】対策に【鑑定妨害】を自分にかけている。
そうしないと、私の種族がばれちゃうからね。
他にも称号とか、面倒事の種になりそうなものは極力表示しないようにしている。全属性に適性があるっていうのはもうばれているから隠してないけど。
「……お前、妨害しているな?」
「……えっ?」
そう思って安心していたら、まさかの突っ込んできた。
それを言うってことは、堂々と【鑑定】しましたって言ってるのと同じことだよ?
人に対して勝手に【鑑定】をすることはマナー違反だし、この人には常識ってものがないのだろうか。
私だってできる限り人は【鑑定】しないようにしているのに。
「種族のみならず、年齢も名前も称号も全部だ。【鑑定妨害】を使えるということはすでに上級魔法が使えるな? どこまで実力を隠している?」
「え、えっと……」
何この人、めっちゃずばずば言ってくるじゃん。
いやまあ、今のところ見抜いてきているのは【鑑定妨害】が使えることと、上級魔法が使えることくらいのようだからそれくらいはもうばれているも同然なので別にいいんだけど、色々詮索されるのは困る。
どうしたものかと悩んでいると、学園長が割って入ってきた。
「これ、私の生徒をいきなり脅迫するんじゃない」
「ですが父上、これは明らかに異質です。どう考えても普通の人間じゃない」
「だからどうしたというのだ?」
「むっ、ご存知でしたか」
「バスがただの平民をお目付け役に選ぶはずはないからな。それに、すでにその実力は何度か見ている」
どうやら私は学園長にも普通の人間とは思われていなかったらしい。
いやまあ、確かに私くらいの年齢の子供が上級魔法を使うのは明らかにおかしいけども、まったく可能性がないわけではないだろうに。
もしかしたら、他の部分でも何かしらの違和感を感じていたのかもしれない。
それでも追及してこないのは、王様への信頼故だろうか。
「ハク君が何者であろうと、今は私の生徒であることに変わりはない。いつもの調子で攻撃的になるな」
「……申し訳ありません」
「謝るのは私にではないだろう?」
「……いきなり【鑑定】してすまなかった」
「い、いえ……」
いつもの調子って、一体いつもは何をしている人なんだろうか。
印象的にはもうヤのつく怖い職業の人にしか見えないけど、仮にも公爵家なのだからそれはないだろう。
それとも、権力を笠に着て威張り散らすような危ない人なのだろうか?
公爵家でそんなことやったら勘当されそうなもんだけど、学園長には従順だから許されているのだろうか。
とにかく、第一印象は最悪ですね。
「……こほん。さて、バスからの要請により、社交パーティではフォルテがエスコート役をすることになった。今回は顔見せのために呼んだのだ」
「フォルテだ。よろしくな」
「は、はぁ……」
よろしくと言われても、人のことをいきなり【鑑定】するような常識知らずがエスコート役とかかなり不安である。
まあ、それでも一応公爵家の人だから貴族に対しては効果があるだろうけど、なんかころっと私の事を売りそうで怖い。
ほんとに大丈夫かなぁ……。
「そう心配しなくても、フォルテは悪い奴ではないよ。職業は事情があって言えないがね」
「そうですか……」
「まあ、どうしてもと言うのならバスに掛け合ってみるが、どうする?」
うーん、確かに不安ではあるけど、王様がせっかく用意してくれたのにそれを断るっていうのも気が引ける。
王様だって、この人なら信頼できるって思ったから頼んだんだろうし、きちんと役に立ってはくれると思う。
後は私が信用できさえすればいいんだけど……もうこの人のこと【鑑定】してやろうかな。相手もしてきたんだから、別にしてもいいよね?
「……いえ、王様の采配と言うのなら間違いはないでしょう。フォルテさんにお願いします」
「わかった。まあ、少し話して交流を深めるといい。見た目は怖いが、悪い奴ではないから」
そう言って、学園長は一旦席を外していった。
いや、この状況で二人きりで話せと? それは難易度高くないかな……。
ちらりとフォルテさんの方を見る。
表情こそ変わらないが、内心では心臓がバクバクしてる。
別に威圧自体は怖くないけど、こういうずかずかとこっちのスペースに侵入してきそうな人は苦手だ。
「えっと、ハクです。よろしくお願いしますね、フォルテさん」
「ああ、よろしくな」
「それで、えっと……フォルテさんは普段何をされてる方なんですか?」
「……詳しくは言えないが、汚れ仕事とは言っておこう」
汚れ仕事、かぁ。
公爵家の人間がわざわざ汚れ仕事をするってことは……暗殺者か何か?
あるいは、国の諜報機関の人間なのかもしれない。まさかどぶ攫いの仕事をしているわけではないだろうし。
探知魔法で見る限り、魔力もかなり高い。それに身のこなしも隙がない。相当な実力者だということが窺える。
「こちらからも質問していいか?」
「あ、はい、どうぞ」
「お前はなぜ【鑑定妨害】をしているんだ? なにかやましいことがあるのか?」
やましいこと、別にやましいことではないけど、ばれたら問題になるから言えないだけだ。
学園長はあえて追及はしてこないみたいだけど、フォルテさんはそういうのが気になってしょうがないらしい。
好奇心は猫をも殺すと言うけれど、本当にそうなりそうだね。教えないけど。
「やましいことはありませんが、王様から止められているので隠しています」
「陛下が関わっているのか?」
「はい」
「なら、もう聞くことはない」
そう言って、沈黙してしまった。
これは、もう詮索する気はないってことでいいのかな?
なぜそんな心境になったのかは知らないけど、まあ聞かないでくれるなら何でもいいか。
その後、私から簡単な質問をいくつかして交流を深めた後、学園長が返ってきたので部屋を後にした。
少し不安ではあるけど、まあ何とかなるだろう。王様の采配を信じよう。
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