第六百話:練習パーティ
本編でも600話達成です。ありがとうございます。
それからしばらくして、叙爵式の日程が決まった。
それを見る限り、どうやら社交パーティの後と言うことになってしまったらしい。
本来であれば、社交パーティよりも早く叙爵して決闘の話を持ち込むつもりだったが、どんなに早くとも社交パーティよりも後になってしまうようだった。
つまり、その社交パーティの日に限っては、私に声をかけ放題と言うわけである。
私が叙爵しなければ王様も命令を出せないからね。
「これ、絶対何かしらの妨害があったよね」
確かに一か月後とは言っていたが、あの時点での一か月後だったらまだ社交パーティよりも早かったはずだ。
スムーズに事が運んでいたのなら、恐らく社交パーティよりも早く叙爵していたはずである。
それなのに、わざわざ後にされたということは、私を狙った貴族達が何かしらの圧力をかけて邪魔をしたってことなのだろう。
これに関しては王様も頭を悩ませているようで、何とかその日だけは乗り切ってほしいと頼まれた。
まあ、叙爵式は王様だけがいればいいと言うものではないし、それなりに要職に就いた貴族を呼ばなくてはならない以上は時間はこれ以上早められないのだろう。
このことに関してはお兄ちゃん達にも報告したが、私が叙爵するということよりも私が結婚するかもしれないということに腹を立てているようだった。
お父さんの反応に似ている気がする。みんな私に離れて欲しくないんだね。
ユーリにいたっては何やら思いつめたような表情でぶつぶつと言っていた。
かなり不安にさせてしまったらしい。まあ、一応恋人だし、結婚されるのは嫌か。
こちらとしても、結婚できるならユーリがいいんだけどなぁ……。
まあ、ないものねだりしても仕方がないか。
「それにしても、パーティってこんな感じなんだね」
今現在、私はドレスを着て校庭に用意された会場にて突っ立っている。
本物の貴族が来る本番まではまだあるが、流石にぶっつけ本番と言うわけにはいかないので、それまでの授業で先生方が貴族に扮した練習パーティが何度か開かれるのである。
まあ、練習とは言っても、先生方は大半が本物の貴族なので本番と言っても差し支えはないが、気安さと言う点ではこちらの方が圧倒的に楽である。
普段から接しているからね。初対面の貴族を相手にするより何倍もましだ。
「ハク、そのドレスお似合いですわ」
「これ、王都の最新モデルではなくて? お高かったでしょう?」
「シルヴィア、アーシェ。うん、ありがとね」
サリアとエル、いつもの二人と一緒にぼーっとしていると、シルヴィアとアーシェに話しかけられた。
二人とも、普段の制服姿ではなく、煌びやかなドレスを纏っている。
二人のドレスを見たのは音楽祭以来だろうか、二人ともお嬢様って感じがして似合っている。
「見たところ、サリアさんもエルさんも同じタイプのドレスですけど、一緒に買ったのかしら?」
「ああ、これは買ってもらったんですよ」
一応は社交パーティなので、私達もドレス装備だ。
もちろん、私はドレスなんて持っていなかったけど、王様が必要になるだろうと用意してくれた。
どうやらこれも学園に通うための経費の一環ということらしい。
お抱えらしきデザイナーを呼んでいたり、何十色もある布を選ばされたり、専属の針子がいたり、明らかに貴族のお買い物だったけど、経費らしい。
これ絶対金貨十枚とか二十枚とかするよね? それを三着もただでもらってしまって少し申し訳ない。
まあ、今後一生着ることはなさそうなドレスのために金貨を出すのも面倒だから助かったけどさ。
「買ってもらったって、こんないいものを一体誰に……」
「あっ、わかりましたわ。アルト王子ですわね!」
「いや、王子じゃなく……いや、王子なのかな?」
このドレス、渡してきたのは王子なのだ。
多分お金を払ったのは王様だけど、ドレスを作るためにサイズを測る時も王子はいたし、もしかしたら王子が払った可能性もある。
そういう意味では、王子に買ってもらったと言ってもいいのかもしれない?
いや、多分違うけどさ。
「やっぱり! 流石はアルト王子ですわね」
「もう成人しましたし、アルト王子と結婚する日も近いのではなくて?」
「あはは……」
実際、王子と結婚するかもしれないというところまで行っていたからあまり笑えない。
まあ、今はその可能性はなくなったからいいんだけどさ。
「ということは、今回のエスコート役もアルト王子が?」
「エスコート?」
「ええ。今回は練習ですから同性でも構いませんけど、エスコート役と付き添うように言われていましたわよね?」
ああ、確かにそんなことを言われた気がする。
基本的に、男性が女性に付き添ってパーティ会場へ案内するわけだが、学園では男性より女性の割合の方が高いので、必然的に女性同士で組まなくてはならないことがある。
本来のパーティなら、デビュタントでは家族がエスコート役になるが、今回は学園でやる練習のためのパーティなので、わざわざ呼ぶわけにもいかず、生徒同士で組むことになっているのだとか。
ただ、先に控えた社交パーティではきちんと男性と付き添わなくてはならないらしい。練習ではあるが、実際の貴族を招いた本格的なパーティなので、ちゃんとしたエスコート役が必要になるようだ。
今回の場合、パーティはAクラスと合同でやるため、私と交流が深い王子がエスコート役なのではないかと聞かれたわけだね。
……うん、完全に忘れてたよ。
思い返してみれば、王子がそんなことを言っていたような気もする。
その時は叙爵式の日程の事で頭がいっぱいで聞き流していたかもしれない。失敗した。
王子は……ああ、エレーナさんに捕まったらしい。
うん、まあ、一人にならなくてよかったんじゃないかな。
「あー……私はエルがエスコート役をやってくれたので……」
「なるほど、やっぱり仲がよろしいですわね」
エスコート役一人に対して私とサリアで女性が二人いていいのかと思ったけど、まあ、そんな格式高いパーティでもないし別にいいんじゃないかな。
うん、本番の時は王子に頼もう。ちょっと申し訳ないし。
それに、王子がエスコート役ならそんなに近寄ってくる人もいないでしょう。
エスコートとは護衛役、しっかりと守ってもらおう。
「そろそろ始まるみたいだぞ」
サリアの声に振り返ると、ちょうど主催者役の先生が挨拶をするところだった。
このパーティは立食パーティ。授業中に合法的に食べられるのは嬉しいが、マナーも結構多いので気を付けなければならない。
挨拶が終わり、パーティが始まる。
さて、私はどうしようかな。
「ハク、今のうちに言っておきますけど、くれぐれも下手な言動はしないようにしてくださいね?」
「貴族は平然と会話しているように見えて色々なところを観察しています。優位に立ちたいなら、隙を見せない方がいいですわ」
シルヴィアとアーシェがそう忠告してくれた。
まあ、それは何となくわかっている。隙を見せないことは大事だ。
それが簡単に出来たら苦労しないけど。
「では、ハクお嬢様、これからどうしますか?」
「うーん、とりあえず、適当に食べてから誰かと話そうかな」
練習と言うだけあって、壁の花でいるだけで終わることはない。
生徒にはそれぞれノルマが課せられており、それが出来なかった者は減点対象にされる。
まあ、ノルマと言っても誰かと話すとか簡単なものだけどね。
それができない人もいるとは思うけど。
お皿に料理をよそいながら、誰と話すか目星をつけるのだった。
感想、誤字報告ありがとうございます。




