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第五百九十五話:八方塞がり

 側室っていうのは、簡単に言えば妾の事だ。

 正妻以外の妻の事。あるいは愛人の事を指す。

 まあ、王子はいずれ王様になる人だし、後継ぎの重要性は他の貴族よりもかなり高い。

 だから、正妻との間に子供が出来なくてもいいように、側室を娶り、子を成すことで王族の血筋が途絶えないようにするのだ。

 さて、私は結婚する気はないんだけど、一体どういう経緯でそういう考えに至ったのかな?


「どういうことです?」


「うむ。一番の目的は、そなたに言い寄る貴族達に対する抑止力の意味がある」


 正妻ではないものの、王子の側室となればおいそれと手を出してくる貴族は減る。

 より多くの貴族からの誘いを断る口実として、王子の側室となるというのはかなり効果が高い方法だろう。

 正妻でないのは、やはり子供の問題がある。

 私が産む子供は竜人となってしまう可能性が高いから、流石に竜人を王子とするわけにはいかないため、正妻は普通の人族を選ばなくてはならない。

 それに、正妻と側室ではその責任はかなり違う。多少の融通を聞かせるためにも、側室と言う立場は有用なのだ。


「そなたとアルトの仲は知っておる。ハクも見知らぬ貴族の男と結ばれるよりは、見知ったアルトと結ばれる方がましであろう?」


「それは、まあ……」


 確かに、王子は私の正体を知っているし、一応同年代だ。

 見知らぬおっさんとかに娶られるよりはかなりましな部類である。

 まあ、だとしてもできればあまりとりたくない方法ではあるが。


「もちろん、側室と言っても名前だけだ。そなたを束縛することはないし、後継ぎのことなどは気にしなくてもいい」


「それは助かりますけど、一つ問題があります」


「ふむ、その問題とは?」


「側室になったら、城に住まなくちゃならないですよね?」


 王子の側室となれば、様々な貴族からのお誘いをシャットアウトできて、それなりの自由も手に入るだろう。

 しかし、その自由は城の中だけのものとなるだろうことが容易に想像できる。

 考えても見て欲しい。側室とはいえ、王子の、引いては王様の妻が普通に町で暮らしてたらおかしいでしょう?

 絶対につけ狙う奴は出てくるだろうし、それを防ぐための警備もかなり面倒なことになるのが目に見えている。

 だから、もし側室となるのだったら城に住まなくてはならないだろう。

 そうなれば、お姉ちゃん達とも一緒にいられなくなってしまう。

 何のために家を買ったと思っているのだ。お兄ちゃんやお姉ちゃんと一緒に暮らすために買ったんだぞ。

 学園を卒業したら、家でみんな仲良くのんびりと過ごす予定だったのに、それを台無しにされたらかなわない。

 だから、この話をそのまま飲むわけにはいかないのだ。


「なるほど。そなたは家族との暮らしを望むというわけだな?」


「はい。なので、申し訳ありませんがお断りさせていただきます」


 まあ、王様なりに色々考えてくれたんだろう。

 もちろん、王様とて私が他国に行ってほしくないと思っているのはある意味当然で、王子の側室にすることでちゃっかり繋ぎ止めようとしていたのはよくわかったけど、それでも私の意思を最大限に尊重してくれていた。

 別にそんなことしなくても他国に移籍するつもりはないし、いらない心配ではあるんだけどね。でも、何かしらの証がないと不安になるのはわかる。


「そうか。それは残念だ」


「せっかく色々考えていただいたのに申し訳ありません」


「いや、構わぬ。しかし、するとどうするか……」


 一応、家族ごと城に住まわせてもらうとか方法がないこともないけど、私はできれば自由な暮らしをしたい。

 城暮らしとなれば絶対に気を使われるし、誰もかれもが傅くような生活は送りたくないからね。

 ただただ、自由に平穏に暮らしたいのだ。


「その貴族達って、私がこの国にずっといることが証明できれば黙りますか?」


「いや、仮にそなたが何らかの要職について国に仕える身となったとしても、独身である限りは言い寄る輩は出てくるだろうな」


 例えば、以前にも言われた宮廷魔術師に私がなったとしても、言い寄る貴族はいなくならないわけか。

 もちろん、オルフェスの貴族である以上、オルフェスの利のために行動している人達もいるだろうけど、大半の人達は私を手に入れることによってより強大な権力を得ることを目的としているようだ。

 そこまで期待されても困るけど、私の戦力はどうやら騎士団をも凌駕するらしい。

 だからこそ、私を手に入れられさえすれば、必然的に騎士団よりも上の立場になり、より強権を振るえるようになるというわけだ。

 なんか、道具のように見られているのが癪だけど、貴族の結婚なんて政略結婚がほとんどだからそんなものか。

 しかし、独身だと言い寄られるとなると、回避するには結婚するしかないだろうけど、どうしたものだろうか。


「いっそのことハクお嬢様が竜であることを明かしては?」


 エルがそんなことを言う。

 確かに、私が竜だと知られれば、結婚したいとは思わなくなるだろうけど……。

 多分、意味ないんじゃないかなぁ……。


「それは危険だろう。すべての貴族が竜を受け入れているわけではないし、それに仮に竜だと明かしたとしても、後継ぎなどいらないから来いと言ってくる輩は出てくると思う」


 別に、私が嫁いだとして私が必ずしも後継ぎを産まなくてはいけないわけではない。

 他にも子供がいれば、その子供が別の人と結婚して子を成せばいいし、何なら私以外に妾を取って産ませても構わないわけだし。

 私と言う力が欲しいだけだったら、別にそれでもいいわけだ。

 と言うか、竜人にならない可能性に賭けて普通に襲ってくる可能性すらある。

 私の正体を明かすのはちょっとリスクがありすぎるね。


「王子と婚約するという噂だけ流してもらうというのは?」


「しばらくはそれで防げるかもしれんが、すぐにばれるだろうな。なにせアルトは今年で成人を迎え、結婚できる年齢になった。それで隠し通せるのは、学園を卒業するまでだろう」


 一応、15歳で結婚できるようにはなるものの、学園に在学中は結婚することはあまりないらしい。

 貴族の場合、結婚したら色々とやらなきゃいけないことがあるので、在学中では難しく、結婚自体は学園を卒業したらというパターンが多いようだ。

 だから、王子の許嫁として在学中はそれで防げるかもしれないが、卒業したら結局無意味とのこと。


「なら、知り合いの誰かと形だけでも結婚するというのは」


「相手がある程度の格があるなら問題はなかろう。しかし、例えば相手が平民などの場合は貴族の強権を使って寝取ってくる可能性もある」


「うわぁ……」


 本来ならすでに結婚している相手に手を出すことはご法度だが、貴族が相手の事を相当気に入ってしまった場合、相手と強制的に別れさせて自分のものにするという輩もいるようだ。

 一応違法だから取り締まれないことはないけれど、一度で終わるとも思えないし、それでは結局結婚していない時とあまり変わらない。

 つまり、貴族を黙らせるにはそれなりに格上の貴族と結婚していなければならないわけだ。

 酷い話である。


「うーん、どうしよう……」


 まさかこんな展開になるなんて思ってなかったから正直面を食らっている。

 結婚なんてしたくないけど、そうしなければいつまでも言い寄られてしまうって何て面倒な。

 何か相手を黙らせられる方法があればいいんだけど、いくら考えても思いつかない。

 他のみんなも含めて、しばらくの間沈黙が続いた。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 凄く意味不明、そもそもホムラを仮の婚約者にすればいいのに。 色々と強引過ぎる。
[気になる点] あれ… 竜だという必要はなくて… ハクは竜王と精霊女王の娘ですよね? この国から見たら他国の王族ですよね? この国の王がハクは他国の王族なので 手出しするなと貴族に通達したら 問題な…
[一言] 言い寄ってくる輩が居たら身内を全員連れて拠点を国外に移すって大々的に宣言すればいいんじゃないかなぁ
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