第五百九十四話:成人したせいで起こる問題
社交術の授業に苦痛を感じながらも日々授業をこなし、五年生も順調に進んでいると思われた頃、不意に王様に呼び出された。
王子とは何度か話をする機会はあったけれど、王様とは久し振りかな?
いや、お茶会の途中でたまに顔を出すことがあるから全然会ってないというわけではないんだけど、こうして直に呼び出されるのは久しぶりかもしれない。
迎えによこされた馬車に乗り、王城へと向かう。
一緒に行くのはエルとアリアだけだ。まあ、アリアは姿を消しているから実質二人だけどね。
一体何の用なんだろう。特に問題らしい問題は起こしていないと思うのだが。
私は過去の事を振り返ってみる。
ちょっと大きな事件と言えば、私が聖教勇者連盟に攫われた時の事だろうか。
あの時は、オルフェス王国への迷惑も考えてわざと捕まり、自力でどうにかしたわけだけど、その後は特に目立った行動はなかったと思う。
聖教勇者連盟には色々介入していたけど、オルフェス王国自体には特に何もしてないよね? 多分。
サリアを呼んでいないということはサリア関連でもなさそうだし、全く見当がつかない。
「まあ、会えばわかるか」
そう思って、私はそれ以上考えるのをやめた。
しばらくして、王城へと着き、いつもの廊下を通って応接室へと向かう。
今回も個人的な相談らしい。部屋に入ると、王様と王子、そして近衛騎士のカミルさん達がいた。
「おお、よく来てくれたな。まあ座ってくれ」
王様はいつもの調子で私達に席を勧めてくる。
しかし、王子までいるのは意外だな?
今は放課後だし、城から通っているのだからいてもおかしくはないけども。
ちらりと様子を窺うと、少し思いつめたような、そんな表情をしていた。
うーん? どういうこと?
「今回呼んだのはハク、そなたの婚約についてだ」
「……はい?」
いきなり突拍子もないことを言われて思わず空返事を返してしまう。
婚約も何も、私は今後一切結婚するつもりはない。
私は今でこそ女性だが、前世は男性であり、その価値観は未だに残っている。
だから、男性を恋愛対象として見ることはできないし、子作りなどもってのほかだ。
そもそも、私は元が精霊だから子作りができるかどうかすらわからない。
一応、体は人間寄りだからそういう器官はあるし、やろうと思えばやれるだろうけど、モデルが7歳くらいの未熟な体で子供を産めるかと言われたら未知数だ。
まあ、仮にできたとしてもやりたくないけど。
「いきなりこんなことを言われても困惑するだろう。だが、一応理由があるのだ」
「それは?」
「うむ、まずはハク、そなたの立ち位置について説明しよう」
そう言って、王様は説明を始めた。
まず、私はこの国の貴族からはかなり有用な戦力として見られているらしい。
王都の危機を救ったり、闘技大会で優勝したり、エルフを軽々とひねったり、幼い身ながら重要な戦力として傍に置きたいと思っている貴族はたくさんいるのだという。
今までは、未成年だったし、一応学園と言うコミュニティに入っていたからまだ問題はなかった。
しかし、今年で五年生となり、成人の儀も終えて正式に成人となった今、私は結婚できる身となった。
貴族達は私の戦力が欲しい。だから当然、自分の子供と結婚させるべく動こうとする。
王様としてはあまり私にちょっかい出されるのは面白くないようだが、私も合意の上で結婚するのであればそれはそれで問題ないと思っているようだ。
「しかし、ここでそなたの種族が問題になってくる」
私は王様に対して自分の正体は竜だと説明している。しかし、これを知っているのはほんとに一部だけであり、さっき言ったような貴族達は私が竜だということを知らない。
見た目だけなら人間なのだから問題はないと思うかもしれないが、そう簡単に事は運ばない。
なぜなら、竜が番となって生まれた子は皆竜人となってしまうからだ。
私は元は精霊だし、人間寄りの身体ではあるが、竜の血を色濃く受け継いでいる。だから、もし私が子を産むとなれば恐らく竜人になってしまうだろうとのこと。
そうなってしまえば、もれなく私の正体が竜だということがばれてしまう。
いくら他種族を受け入れる態勢の整っているオルフェス王国と言えど、流石に上級貴族が竜人となると体裁が悪い。
それはすなわち、国に竜が入り込んでいるということに他ならないのだから。
「しかし、今の状態ではハクに手を出すなとは言えん。今のハクはサリアのお目付け役と言うだけのただの平民に過ぎないからな」
いくら私が国に貢献していると言っても、書類上はただの平民である。
一応、今までの功績に報いて爵位を与えるということもできなくはないが、それではむしろ相手に隙を与えてしまう結果となるだろう。
上級貴族に取って平民と結婚するなどあまりよく思われない行為である。だからこそ、大っぴらにお誘いが来ないのであって、ここであからさまに爵位を与えてしまったら余計に問題が大きくなるだろうとのこと。
しかし、学園では社交術の授業のテストをするために、学期末には実際に社交パーティを開いて多くの貴族と交流する場が設けられる。
つまり、合法的に私に接触できる機会が得られるわけだ。
そこで私が頷いてしまえば、後はもうされるがまま。平民と言う身分も、適当な貴族家の養子にされて解消され、晴れて婚約と言う運びになるだろう。
「もし、ハクが貴族との結婚を望んでいるのならそれはそれで構わない。我が国の貴族と結婚してくれれば、私としてもそなたがこの国を離れない理由となって嬉しい。さて、ハクは貴族との結婚を望むか?」
「えーと……できれば遠慮したいです」
この国が私の事を欲しがっているというのはわかった。
まあ確かに、闘技大会で優勝した時もぜひ自分達の国に来てくださいというお誘いは割とあったし、強い冒険者が国にいるっていうのは安心感にも繋がるのだろう。
私としても、すでにかなりの年月を過ごしているこの国には愛着もあるし、この国に在籍するというのは別に問題はない。
ただ、貴族と結婚と言うのは流石に看過できない。
さっきも言ったけど、私は男と結婚するつもりはない。生理的に無理だ。
貴族と結婚なんてしたら、後継ぎを産む義務が生まれてしまうだろう。私が結婚することによってその貴族家が途絶えることになったら私も困る。
もちろん、愛人としてと言うのもダメだ。
と言うか、私みたいな子供を相手にする時点でその人ロリコンでしょ。使命感から後継ぎを作ろうとしているのだとしても、そんな人相手にするの嫌だよ。
「そういうと思っていた。そこで提案がある」
「なんですか?」
このままでは、私は貴族達につけ狙われることになる。そうなれば、穏やかな生活など望むべくもないし、回避できる方法があるのならぜひ知りたいところだ。
私はごくりとつばを飲み込んで、王様の言葉を待った。
「それは……アルトの側室となることだ」
王様は隣にいる王子の肩を叩きながら、厳かにそう告げた。
なるほど、そう来るかぁ……。
感想、誤字報告ありがとうございます。




