表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
684/1583

第五百九十一話:成人の儀

 第十八章開始です。

 冬も終わり、春の暖かな陽気にうきうきと気持ちが持ち上がってくる頃。

 私達はシルヴィア達と共に王都へと戻ってきた。

 もうかれこれ四回目となる卒業式ではヴィクトール先輩が卒業することとなり、ミスティアさん達と共に別れを済ませた。

 これで魔法薬研究室はヴィクトール先輩がいなくなり、私達が引き継ぐことになった。

 一応、会長となるのはミスティアさんであり、これからも様々な魔法薬を作っていくと意気込んでいたから多分まだ大丈夫だろう。

 本当の意味で大変なのは私達が卒業した後だね。後輩達はあまりやる気がないようだし。まあ、以前の発表会のようなやる気を見せてくれたら別だけど。

 出来ることなら、今年か来年あたりに新入生が欲しいところだね。


「成人の儀って、ここでやるの?」


「ええ、そうですわ。教会から神官が派遣されて、五年生全員に聖貨を渡すことになっていますわ」


 現在は体育館に来ている。

 まあ、ほとんどの場合は校庭を使うのでここが使われるのは主に行事の時だけど、一応雨の時に使うこともあるので体育館で合っているだろう。

 そんな体育館には今年五年生となった生徒達が集まっており、先生の話を静かに聞いている。

 成人の儀と言うのは、この世界の成人である15歳になった時に、教会が主導になって行う儀式の事で、成人した子供達にはその証として聖貨と呼ばれる銀貨が贈られるらしい。

 成人の儀を行うことは義務付けられており、15歳になった子供は必ず受けなくてはならないものらしい。

 これを受けない者は碌な仕事に就けないどころか、国によっては農奴として酷使されることもあるらしいので、必ず受けるべきだと言われている。

 だから、貴族の間では色々と爪はじきにされているサリアも聖貨は持っているらしい。流石にエルは持っていないらしいが。


「具体的には何をするの?」


「特に難しいことはやりませんわ。ただ、神官と一緒に聖句を読んで、神様に15歳になりましたと報告するだけよ」


「一応聖貨は神様から賜るものらしいけれど、そう言われているだけで実際はただの銀貨ですわね」


「へぇ」


 割と簡単なものらしい。

 それにしても、この世界の宗教についてはあまり学んでこなかったなぁと思う。

 一応、授業の一環で多少の知識は学んだが、そこまで詳しくは学んでいなかった。

 その知識だと、まずこの世界は多神教らしい。

 創造神をはじめとして、知恵の神や戦の神など様々な神が存在し、人々はそれぞれが信じる神を崇めているようだ。

 教会も、崇める神の数だけ存在しているが、最も勢力があるのは創造神を崇める教会であり、他の教会と比べても建物が大きいようだ。

 国民は大抵誰かしらの神を信仰しており、無宗教はあまりいい顔をされないとのこと。

 ちなみに成人の儀で報告する神様は成長を司る神ドロウだそうだ。

 正直、私は宗教に関しては特に興味はない。

 元々私の前世では仏教が主流ではあったけど、その割にはクリスマスやらハロウィンやら色々な宗教のお祭りをやっていたし、特に何かを信仰しているっていう意識はなかった。

 神様だって、万物すべてに宿っているとかそんな感じだったしね。

 だから、いきなり崇めろと言われても誰を崇めればいいのかよくわからない。


「あ、始まるみたいですわ」


 そうこうしていると、話が終わったようだ。

 気が付けば、数名の神官が前に立っており、分厚い本を開いている。

 どうやら今から聖句とやらと唱えなくてはならないらしい。

 神官が詠唱する後に続いて言えばいいということなので、無難に普通くらいの声で詠唱した。


「そなたらの報告は成長の神、ドロウ様にしかと届いたことだろう。その証拠に、人数分の聖貨を賜った。これより授けるので名前を呼ばれた者は前に出て受け取るように」


 そう言って、一人ずつ名前が読み上げられ始めた。

 どう見ても持ってきた袋から出したようにしか見えないけど、今授かったということにしたいらしい。

 まあ、神様だって成人する度に銀貨を作るんじゃ大変だろうし、何も上げないんだと成人したという実感がないだろうしで銀貨と言う形が一番なのだろう。

 流石に、銅貨じゃ価値が低すぎだろうしね。金貨じゃコストがかかりすぎるし、銀貨が一番無難なんだと思う。

 しかし、一人一人名前を読んで渡すのか。五年生だけとはいえ、AクラスからFクラスまで合わせて多分200人くらいいると思うんだけど。

 今日は早めに終わると思っていたけど、そんなことはなさそうだ。五年生は大変だね。


「ハク!」


「ハク、呼ばれたぞ」


「あ、うん」


 呼ばれたので、私も前に出る。

 特に作法のようなものはなさそうだけど、一応神様から賜るものだからみんな恭しく受け取っているようなので私もそれに倣って両手で大事そうに受け取る。

 聖貨と言う名前だけあって、普通の銀貨とは模様が違うようだ。

 記念硬貨みたいな感じかな? なんとなく特別感は感じる。

 私は礼をしてから元の場所に戻った。


「お帰りなさい。これでハクも成人ですわね」


「そっちこそ、成人おめでとう」


 シルヴィアもアーシェも、カムイもエルもみんなこれで成人扱いだ。

 まあ、エルは15歳どころではないし、カムイももう18歳だからとっくに成人してるけどね。

 カムイがサバ読んでるって聞いた時はびっくりしたけど。あんな儚げなのにね。見た目だけは。


「これ、この後宴会とかするの?」


「いえ、特にそういうのはありませんわ」


「でも、中には結婚できる歳になったというお祝いとしてパーティを開く人もいるようですけれど」


 前世では成人したらお酒が解禁されるから、成人式の後に飲みに行くっていうのは普通だった気がするけど、この世界だとお酒を飲むのに年齢制限はないからそういうのはないらしい。

 でも、結婚できるようになったと言う意味合いがあるので、祝う人も少なからずいるようだ。

 まあ確かに、貴族なら許嫁とかがいてもおかしくないし、成人した瞬間に結婚と言うのもあるのかもしれない。

 学生の身分だと結婚できるかわからないけど。


「お祝いではありませんが、デビュタントも基本的に成人してからですわね」


「今年は実際にパーティを開いて練習する授業もありますわ」


「ああ、あれね……」


 私にとっては少し憂鬱な授業である。

 15歳で成人を迎えると、貴族の令嬢達はデビュタントがある。社交界へとデビューし、貴族としてのお付き合いを学んでいくわけだ。

 この学園に在籍している生徒はほとんどが貴族なので、社交界に出ても恥ずかしくないようにそういう授業が設けられている。

 ただまあ、これは基本的に貴族の話だ。

 平民である私がやるものではないし、実際平民の多いFクラスの人達はそこまで積極的に参加しなくてもいいことになっているらしい。

 しかし、Bクラスともなるとそうもいかないようで、平民であっても出なくてはならないようだ。

 こんなのがあるなんて想定外である。私もサリアも社交界なんてほとんど縁のない場所なのになぜそんな授業があるのか。

 おかげで四年生の時はかなり面倒くさかった。


「ハクは色々と心配ですわね」


「確かに。コロッと騙されていつの間にか婚約させられていそうですわ」


「怖いこと言わないでよ……」


 冗談のように聞こえるけど、貴族の間ではいつの間にか婚約したことになっていたなんてよくあることのようだ。


『うちの息子どうですか?』


『いい人ですね』


『それじゃあそういう方向で進めておきますね』


 これで婚約である。意味がわからない。

 とにかく言質を取られてはいけないというのが鉄則らしい。

 怖い怖い。


「大丈夫かなぁ……」


 私はこの先の授業を不安に思いつつ、貰った聖貨を眺めていた。

 感想ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  現在進行形の“成人の儀”にハクさんが丸っと意識向いているからあれだけど──しかし、Bクラスともなると──どうやら全員Cクラスからランクアップできたようで何より( ^ω^ )ハクさん的には…
[一言] ハクさんを無理矢理モノにしようと思ったら大魔王を倒さなくてはいけない( ˘ω˘ )
[良い点] 十八章がどうなっていくのか楽しみです [一言] 色々と眠気に誘われるハクちゃんですが 成人の儀の間は大丈夫だったのでしょうか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ