第五百八十話:身勝手な理由
執事さんが聞いていたのは、今日は音楽祭の参加登録に行くということだけのようだ。
どうやら、助っ人が参戦したということも知らないらしい。登録した時の事を話したら、目を丸くしていた。
執事さんが知らないってことは、ラージュリエス家が密かに用意した助っ人と言う線は消えたかな。
これを用意するには少なくとも助っ人を欲しがっていたことを知っていなければおかしいし。
恐らく、今日、もしくは昨日あたりに見つけてそのまま登録に来たのだと思われる。
そうなると必然的に犯罪の匂いがしてくる。あの後攫って行ったってことなんだろうか?
ひとまず、探さないと。
私は探知魔法でヘクター君の居場所を探す。しかし、どうやらこの周辺にはいないらしく、姿を捉えることはできなかった。
「みんな、ひとまず劇場に戻って目撃者を探しましょう。探知魔法の外にいるみたいです」
「ハクさんの探知魔法の外となると、かなり離れていますわね」
「わかりましたわ。みんなで手分けして情報を集めましょう」
「いったいどうしたんですか?」
「ああ、実はですね……」
訳がわからないと言った様子の執事さんに事情を説明する。
すると、ようやくまずい状況なのを理解したのか、顔を青ざめさせていた。
「す、すぐにご主人様にお伝えしなければ!」
「出来ればそちらでも探してみてください。こちらもこちらで探してみます」
「わかりました。無礼ながら、ここで失礼させていただきます」
そう言って執事さんは家の中へと走っていった。
さて、私の探知魔法外となると、考えられる可能性としては町の外に出たか、あるいはかなり端っこにいるかと言ったところだ。
ここからなら、多分商店街当たりなら範囲外になるんじゃないかな。
私達は急いで移動し、道行く人達にヘクター君を見ていないかを尋ねて言う。
「ああ、それなら向こうの方へ歩いていったのを見たよ」
ヘクター君とシルヴィアさん達のやり取りは割と有名らしい。そこそこの人がその姿を捉えていた。
方角的にはヘクター君の家とは逆方向だ。そして、商店街と言う線が消えた。これは町の外に出ているな。
「皆さん、恐らくヘクター君は町の外に出ています。私は先に行きますので後から来てください」
「了解ですわ」
「ハクさん、お気を付けて」
「サリア、連絡係お願いね」
「わかったぞ」
私はエルと共に駆け足で移動する。
町の外に出たということは、恐らく奴らの目的はヘクター君の殺害じゃないだろうか。
いくら町の付近とはいえ、森には普通に魔物がいる。適当な理由を付けて森に入り、置き去りにすれば証拠を残さず殺害することが可能だろう。
一応、Dクラスとはいえ魔法学園の生徒なのだからそうそうやられることはないとは思うが、それでも数に囲まれたらどうしようもない。
それに、殺すのが目的なら何かしら置き土産をしていきそうだしね。
「見えた!」
移動するにしたがって、探知魔法にヘクター君の反応を確認できるようになった。
場所からして、私の予想通り森の中にいるらしい。そして、そこから離れていく三人の反応。間違いなく奴らだ。
それとは別に、ヘクター君の方には二つほど反応があるのが見える。どうやらヘクター君の方は大丈夫そうだし、私達は三人組を捕らえるとしよう。
「エル、先攻して足止めしておいて」
「了解です!」
その瞬間、風のような速さで飛び出していくエル。
素の速度なら私の方が速いけど、流石に本気出すわけにはいかないからね。
シルヴィアさん達はまだ遥か後方にいる。
理想はみんなが到着した時に全部解決してることかな。
「さて、ちゃっちゃと捕まえちゃいますか」
エルが三人組と接触するのが探知魔法で見えた。
あの三人組、実力自体は多分そんなに高くない。
いや、変身魔法をかけているであろうローブの奴はそこそこ腕が立ちそうだけど、変身魔法を維持するのに精一杯のようだから多分魔力が多いだけだろう。
私が到着する前にエルがどうにかしてしまう気がする。と言うか、多分エルもそういうニュアンスで捉えていたと思うし。
そこまで急ぐ必要はなかったかもしれないが、ヘクター君を殺そうとしたのだからさっさと報いは受けてもらわないとね。
「くそっ、放せ!」
「なんなのよあんた!」
「この俺がこんな小娘に手も足も出ないなんて……」
私が到着すると、案の定エルに足を凍らされて動けなくなっている三人組がいた。
どうやら変身魔法も解けてしまったらしい。エルフと獣人だった二人は人間の姿になっていた。
「どうやら終わったみたいだね」
「ハクお嬢様、もちろんです。この程度の相手敵ではありません」
私は三人組の前に来ると、腕を組んで少し不機嫌気味に質問をする。
「さて、あなた達、どうしてヘクター君を置き去りにしたんですか?」
「な、何だお前。ガキが粋がってんじゃねぇぞ!」
「ヘクターなんて知らないわ! 私達には関係ない話よ!」
「善良な一般市民にこのような仕打ちをして、ただで済むと思っているのか!」
ふーん? しらを切るんだね。
まあ確かに、こいつらがヘクター君を置き去りにしたという証拠はない。多くの人がこの三人組とヘクター君が一緒にいたところは見ているだろうが、それは変身魔法で偽った姿。証拠にはなりえない。
もし証拠があるとしたらそれはヘクター君自身の証言くらいなものだろう。
どうやらこいつらはすでにヘクター君は死んだと思っているようだが、甘い。
途中で連絡を入れたから、そろそろ来るはずだ。
「ハク、連れてきたわよ」
「お姉ちゃん、ありがと」
そこに現れたのはヘクター君を連れたお姉ちゃんとお兄ちゃんだ。
恐らく、近くで依頼をこなしていたんだろう。偶然ヘクター君が襲われているところに居合わせたようだったので、そちらは任せたのだ。
まあ、たとえいなかったとしても私とエルが二手に分かれればよかっただけの話だから問題はなかったけどね。
さて、ヘクター君だが、かなり怪我をしているようだ。
体の至る所に噛み跡があり、腕にいたっては骨が見えるほどの重症である。
最低限、ポーションで治療はしたようだが、流石に治し切れなかったようだ。
「ヘクター君、大丈夫ですか?」
「は、ハクさん……は、はい、何とか……」
声が弱弱しい。これは早々に治療しないとやばそうだね。
そう思って治癒魔法をかけようと思ったが、それよりも先に三人組が声を上げた。
「な、なんで生きてやがる!?」
「足を切って置き去りにしたのに!」
「ば、馬鹿お前ら! 言うんじゃない!」
フードの人はそこそこ頭が回るようだが、他二人はあっさり自分達が置き去りにしたことを認めてしまった。
なんて馬鹿なんだろう。いくら変身魔法でごまかしても、自供したら意味ないだろうに。
「この人達に助けてもらったんだよ。それよりも、よくも置き去りにしてくれたな! 俺達は仲間だと言ったのは嘘だったのか!」
「はん! 誰がてめぇみたいなガキを仲間と思うかよ!」
「私達は音楽祭で上に上がれればそれでいいの。そのためには、あんたが邪魔だったのよ!」
どうやら、この人達も音楽祭に参加するらしい。それで、ヘクター君が邪魔だったから殺そうとしたようだ。
うーん……なんというか、馬鹿だね。
ヘクター君の実力はよく知らないけど、仮にシルヴィアさんと同じくらいの腕前だとするなら確かに上位に食い込みそうではある。だけど、無名の音楽家なんて数百人近くいるのだから、そのうちの一人を殺したところで順位が上がるとは思えない。
そんなことするくらいなら、真面目に練習して順位を上げた方が罪悪感もないし何倍もいいと思う。
私はあまりにお粗末な動機にため息を吐くと、三人組を拘束することにした。
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