第五百七十三話:町へ到着
そこからその絶対に負けたくない人の愚痴が始まった。
その人はどうやらシルヴィアさんの実家がある町に住んでいるようで、男爵家の子息らしい。
いわゆる幼馴染に当たる様なのだが、昔からやたらと衝突が絶えず、常に競い合っていたようだ。
相手も音楽貴族と言うこともあって、音楽の技術で競い合うこともあったが、技術はよほどの差がなければわからないので決着がつかなかった。
しかし、初めて音楽祭を見た時に、この場ならばきちんと順位が付くし、決着がつけられるとお互いに思ったようだ。
それ以来、音楽祭に向けて音楽に傾倒するようになり、技術を磨いてきたというわけだ。
「ですが、魔法学園に入学することになって、楽器を練習する機会がめっきり減ってしまったのが少し心配ですわ」
「向こうも学園に入学しているので条件は同じですけれどね。負ける気は毛頭ありませんわ」
学園ではどうやらDクラスに在籍しているらしい。
魔術師としての腕はあまり高くないようだ。
それにしても、同じ町に住む幼馴染で、常に競い合って成長してきたとかどこの青春漫画だろうか。
学園ではクラスが違うようだからそこまで話題に出てこなかったけど、確かに言われてみればいつもシルヴィアさん達に突っかかってくる人がいたような?
私を見たらすぐにどっか行っちゃってたけど。
「それじゃあ、その人に負けないようにこちらも頑張らないといけませんね」
「もちろんですわ! 数の暴力で押し潰してしまいましょう!」
「数の暴力って……相手は一人で演奏するんですか?」
「はい。いつも一人で演奏していますわ」
「ちなみに、使う楽器はピアーノと言う大型の楽器ですわ」
ピアーノ、ピアノかな? ピアノあるんだ。
ピアノソロなんて相当技術力が要りそうだけど、どんなものなのだろうか。ちょっと見てみたい気もする。
まあ、それはそれとして、相手一人に対してこちらは六人で挑むことになるのか。それって割と反則なような気もするけど……。
いやまあ、人数が揃えばよくなるってわけでもないだろうし、ソロにはソロに魅力があるだろうから絶対にずるってわけでもないかもしれないけど。
でも、もし仮にこれで相手が負けたら正々堂々勝負しろとか言われそう。正々堂々勝負してもこっちは二人だけど。
「……ふぅ、少し喋りすぎましたわ」
「水でよければありますけど、飲みます?」
「いただきますわ。ありがとうございます、ハクさん」
ポーチから革袋に入った水をコップに移して渡してあげる。
革袋に入った水は革の匂いが移って結構臭いのだけど、私はきちんと消臭魔法をかけているので問題はない。
と言うか、ただ携帯するだけだったら水筒擬きを作った方がいいのではないだろうか。木をくりぬいてやれば割と簡単にできそうな気がする。
携帯性を気にしないなら硝子でもいいし。あるいは、ヒノモト帝国で見た竹を使うのもいいかもね。
まあ、それは追々作るとして、そんなふうに楽しく話しながら馬車は進んでいく。
そして、出発から一週間ほど経過してようやくニドーレン侯爵領へとやってきたのだった。
ここに来たのは三年ぶりくらいだろうか。相変わらず美しい町である。
音楽が盛んな町だけあって、ふと耳をすませばどこからか楽器の音色が聞こえてくるような場所だ。
私達はニドーレン侯爵夫妻に迎えられ、この町に滞在する間世話をされることになった。
嬉しいことに、ニドーレン侯爵夫妻は私達の事を覚えていてくれたらしい。毎年毎年帰る度にシルヴィアさん達が私達の事を話していたからと言うのもあるようだが、単純に気に入っているようだった。
今回は七人と言う大所帯なこともあって、部屋割りはお兄ちゃん以外三人ずつで二部屋を使うことになった。精霊の二人は見えないので除外。
こうなると何が問題って、誰が私と一緒の部屋にするかと言う話で言い争いが起こることだ。
なんか以前も似たようなことがあった気がするが、そんなに私と一緒に寝たいんだろうか。
結局、最終的に私と一緒になったのはエルとカムイだった。
お姉ちゃんとユーリは最近私と一緒に寝ることが多かったし、サリアは「僕はいつでも一緒に寝れるからな!」と謎の余裕を発揮して譲っていた。
まあ、確かに寮で一緒の部屋だから一緒に寝てるっちゃ寝てるけども。
あと二年で卒業したらそれも叶わなくなるということをわかっているんだろうか? まあ、それは卒業後の進路にもよるけど。
ちなみに、部屋割りの争奪戦に関してはなぜかシルヴィアさんとアーシェさんも参加していたりする。
あなた達は自分の部屋があるでしょうに。
結局勝ち残ることはなかったが、夜は一緒に話しましょうねと部屋に来る気満々のようだ。
まあ、別にいいんだけどさ。
「さて、今日のところはひとまず旅の疲れを癒しましょう。疲れたまま練習しても後々響きますからね」
「明日から練習を開始しますわ。準備をしておいてくださいね」
「「「はーい」」」
現在時刻はお昼過ぎ。割と早めに着くことができたから結構時間がある。
ずっと馬車に乗りっぱなしで体が固まってしまっているし、ここは街へと繰り出してウィンドウショッピングでもして体を慣らした方がいいだろうか。
「みんなはどうする?」
「私達は一度ギルドへ挨拶に行くわ。いるってことは知らせておかないといけないし」
「万が一魔物が襲ってくることがあったら出なきゃいけないだろうしな」
お姉ちゃんとお兄ちゃんはギルドへ行くようである。
冒険者が拠点を移した場合は一度その町のギルドへ挨拶へ行くのが基本だ。
ギルドとしても、優秀な冒険者が来てくれたら今まで片付けられなかった依頼を受けてもらいたいだろうし、有事の際の戦力として招集することもできるからなるべく存在は明かしてほしいのである。
まあ、音楽祭までは後一か月くらいあるらしいし、参加しないのならそれまでずっと私達の練習に付き合わせるわけにも行けないだろうから適度に依頼をこなせるほうがいいかもしれないね。
私も一応冒険者ではあるけど、二人が行くなら私はいいかなぁ。どうせ練習で依頼は受けられないだろうし、緊急依頼が出たらお姉ちゃん達についていけばいいだけだし、そもそも早々出ないだろうしね。
「私は街を見てみたいです。王都以外の町は久しぶりなので」
「それなら僕も行きたいぞ。ハクも行くよな?」
「まあ、そうだね」
ユーリとサリアは街へ出る気のようだ。
まあ、私も元々ウィンドウショッピングする気だったし、二人が一緒に行く分には問題ない。
ただ、ユーリは目を離すとすぐに怪我を引き受けてしまうので目を光らせておく必要があるが。
「カムイはどうする?」
「悪いけど私は部屋で休んでいるわ。ちょっと気分が悪いの」
カムイも行くかと思ったが、どうやら馬車酔いしているらしい。
まあ、あの馬車は貴族が使う豪華な馬車と違って学園の貸し馬車だからそこまで性能はよくない。揺れもそこそこ激しいので、酔う人がいても不思議はないか。
いや、一般に使われている馬車よりはよっぽど乗り心地はいいけどね。たまたまカムイが少し乗り物に弱かったってことだろう。
「私達も行きますわ。せっかくだから案内して差し上げますわよ」
「以前も紹介しましたけれど、この町の魅力はあんなものではありませんから」
そう言って、シルヴィアさんとアーシェさんも付いてくることになった。
まあ、確かに綺麗な町ではあるよね。ゴミもあんまり落ちてないし。
「それでは、行きましょう」
先導するシルヴィアさん達の後に続き、家を出る。
何か珍しいものはあるかな?
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