第五百七十話:集まったメンバー
その後、サリアの家に行って参加するという返事を貰った。
サリア自身の音楽スキルはほとんどなく、以前に見た横笛の音を辛うじて出せる程度のものらしい。
なので、どうしても使い物にならなければ観客に回ると言っていた。
まあ、別に必ずしも演奏者として参加しなくてはならないというわけではないし、別に構わないだろう。シルヴィアさん達もそこまで無理強いはしないはずだし。
そういうわけで、三日後に出発する旨を告げて家へと帰ってきた。
「と言うわけなんだけど、参加する?」
「私はハクが行くなら行きたいかな」
「私も。でも、演奏はいいかなぁ、観客席でハクの雄姿を眺めている方が楽しそう」
「俺もだ。楽器なんて触ったこともないしな」
家に帰ってからお姉ちゃん達に説明してみたが、みんな参加はするものの、演奏には参加せず観客に回りたいという返事を貰った。
まあ、ユーリはともかく、お姉ちゃん達は生粋の冒険者だし、楽器なんか縁のない暮らしをしていただろうから当然っちゃ当然か。
ユーリも楽器には縁がなく、せいぜい学校で習ったリコーダーやピアニカ程度のものらしい。
私もその程度なんだけどなぁ。まあ、ユーリはあまり目立ってほしくないから参加しないのは別にいいんだけどね。
「ハクの演奏かぁ、楽しみだなぁ」
「演奏するって言っても、私初心者だけどね」
「ハクならなんだかんだでできそうじゃない?」
「私もそう思うわ」
「もう、お姉ちゃんったら」
流石にできるかどうかはやってみなくてはわからない。
私もサリアと同じく練習で芽が出なかったら観客に回ろうと思っているし、あんまり期待されても困るのだ。
でも、期待されている以上は頑張るつもりではある。みんなに喜んでほしいしね。
「そういうわけだから、三日後に集まってね」
「了解。それまでには依頼を片付けておくわ」
「そんな数もないからすぐに終わるだろ」
これで誘えそうな人はみんな誘ったことになる。
全部で五人、そのうち演奏に参加する人が二人。私とエル、シルヴィアさん、アーシェさんを入れれば六人だし、ちょっとした楽団程度だったら十分な数じゃないだろうか。
シルヴィアさん達の知り合いがどれくらい来るかはわからないけど、仮に来なくてもなんとかなりそうではある。
まあ、元々はシルヴィアさんとアーシェさんの二人でやっていたようだし、私達は完全なお邪魔なんだけどね。
「さて、少しは練習してみようかな?」
「うん? ハク、お前楽器なんて持ってるのか?」
「前に買ってたね。それ以来一度も吹いてないけど」
お兄ちゃんの質問にアリアが答える。
【ストレージ】の肥やしとなっていた横笛。フルートに似ているけど、これ名前なんて言うんだろう。
「横笛か。名前は何て言ったかな」
「? フルートですよね、これ」
「ああ、なんかそんな感じの名前だった気がする」
ユーリがきょとんとした様子で言っている。
まあ、フルートだよね、これ。私も詳しい形状を知っているわけではないけど、多分合ってると思う。
しかし、お兄ちゃんは少し納得していない様子。やっぱり呼び方が違うんだろうか。
まあ、それは後で調べればいいだろう。
私は軽く拭ってから吹き口に口を付け、息を吹き込む。
笛の中を通った空気が甲高い音へと変換され、部屋の中にその音を響かせた。
時間が止まってるんだから当たり前だけど、劣化はしてないみたい。
とりあえず何か一曲演奏してみようか。
「ちょっと吹いてみるね」
「ハクの演奏会だ!」
気が付けばアリアに続いてミホさんまで姿を現している。
精霊まで聞く気満々とかちょっと照れるんだけど……。
とりあえず、知っている曲から簡単なものを選んで演奏してみた。
手が小さいので穴に指が届きにくく、少し演奏しにくかったが、音が途切れるということはなく、不格好ながら最後まで演奏することができた。
笛から口を離し、辺りを見回す。そこには、微笑ましい顔でこちらを見てくる皆の姿があった。
「なかなかよかったよ、ハク」
「いや大したもんだ。これなら音楽祭とやらも上位を狙えるんじゃないか?」
口々に褒め称えてくれるのが少しむず痒い。
ほんとにごく簡単な演奏だったんだけどなぁ。音程も何回もミスったし、吹き直しも何回もやった。
お兄ちゃんは上位を狙えるんじゃないかと言っていたけど、流石にそれは無理だろう。どう考えても、レベルが違いすぎると思う。
でもまあ、このくらいの難易度の曲だったら練習すれば何とかなる気もする。
まあ、流石にもうちょっと難しい曲だとは思うけど。
「当日はその笛で行くの?」
「さあ、どうだろう。そもそもみんなが何の楽器を使うのかも決まってないし、場合によっては変わるかも」
一応、カムイがドラム、エルがギターができるとのことだけど、合わない楽器もあるんじゃないだろうか。
まあ、そこらへんはシルヴィアさん達と相談して決めることになるだろう。
カスタネットくらいなら私でも出来るよ、うん。
「当日が楽しみだな」
「色んな意味でね」
とりあえず、今のところ私が唯一できそうなのがフルートだし、それに合わせてもらう感じにしてもらえれば嬉しいかな。
三日後に出発するとは言っても、道中は結構かかるだろうし、話す時間はいくらでもあるだろう。
楽器の用意とか聞かなきゃいけないことは色々あるし、そこで話を詰めていければいいかな。
「何とかなるといいけど」
不安も結構大きい。なにせ、初めての楽器演奏が音楽祭と言う大勢が来るであろう舞台なのだ。緊張しないわけがない。
お祭り騒ぎに乗じてと言うならともかく、このお祭りは一応順位が決まるようだし、そこには熾烈な争いがあることだろう。
そんな争いに首を突っ込んでいけるかと言われたら覚悟なんて全然足りない。
私が参加しようと思ったのは、単にシルヴィアさんが誘ってくれたからだ。
せめて無様な演奏にならないように気を付けないと。
そんな事を想いながら、出発の日を待つことになった。
そして出発の日、学園の前に止められた馬車の前にはシルヴィアさん達が待っていた。
見たところ、他には御者らしき人と護衛らしき冒険者が二人くらいしかいない。
シルヴィアさん達の方でも知り合いを探してみると言っていた気がするけど、まさか誰も来なかったんだろうか。
「おはようございます、皆さん」
「おはようございます」
近づいてみてもやはり誰もいない。サプライズで脅かそうとしているのかとも思ったけど、探知魔法で探してもそれらしき人物は見当たらない。
これはマジで誰もいなかったらしい。こんな大所帯で来た私が馬鹿みたいじゃないか。
「シルヴィアさん?」
「あ、あはは……みんな領地に帰っていたり他の事で忙しいからと断られてしまいましたわ」
私がジト目を向けるとシルヴィアさんは汗をだらだら流しながら目をそらした。
まあでも、普通はそうなるか。
貴族の中には嗜みとして音楽を習っている人もいるけど、音楽祭と言う名誉な祭典で披露できるほどの腕を持っているかと言われたらノーである。
シルヴィアさん達は幼い頃から練習しているだろうからできるとしても、それに混じって参加したいとは思わなかったようだ。
むしろ、参加した私達の方が異常なのである。周りからなんか言われないかなぁ。少し心配になってきた。
まあ、そういうわけで誘えたのはエルとサリア、カムイの三人。合わせて六人なのでまあそこそこ数は揃っている。
みんなうまくなれればなんとかなるだろう、
そんな希望的観測をしながらこの先の事を考えていた。
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