第五百六十七話:ウィーネの用件
「ウィーネさん、これは?」
「これは我が国の開拓調査団がとあるダンジョンから見つけてきたものだ」
ウィーネさんの話では、ヒノモト帝国は領土的にはかなり小さく、島とはいえまだまだ未開拓の場所があるらしい。
なので、定期的にそこに開拓調査団を送り、そこにある資源などを調査して住めるかどうかを判断し、住めそうなら開拓する、と言うようなことをしているらしい。
そんな開拓調査団が偶然にもダンジョンを見つけたので潜ってみたところ、独特な形の地形であり、魔物も相当強く、開拓調査団は早々に調査を諦めて戻ってきた。
しかし、手ぶらで帰るというのもあれだったので、何とか見つけた宝箱の中身を持って帰ってきた。
その中身と言うのが、この鉄の塊だそうだ。
「……開拓調査団ってヒノモト帝国の人達なんですよね? その人達が苦戦するほど強い魔物が出たんですか?」
ヒノモト帝国は皇帝であるローリスさんが魔物に転生してしまった可哀そうな転生者を救うために作り上げた国だ。
そこに住むのはほとんどが魔物に転生した転生者かその関係者であり、転生者の恩恵なのか、ほとんどがAランク以上の強力な魔物である。
私達が行った時に同行することになった花崎さんだって、ミズガルズと言う災厄レベルの大蛇だ。正直、大抵のダンジョンなら彼一人でも攻略できそうな気がする。
なのに、何人かのパーティであったであろう調査団が苦戦するほどだったと考えると、かなりやばいダンジョンだと思う。
「どうもそうらしい。主に出てきたのはアイアンゴーレムのようだが、いずれも通常種よりも相当硬く、もしかしたらミスリルゴーレムだったかもと言う証言がある。ただ、仮にミスリルゴーレムだったとしても、あいつらなら余裕のはずなんだがな」
「魔力がとても濃いとかですか?」
「いや、魔力は比較的薄かったらしい。だから、魔力が原因で変異した、と言うわけではないはずだ」
ダンジョンの魔物は基本的にその土地に出現する魔物である。ゴーレムだったということは、そこはゴーレムになれるだけの鉱石と魔力が蓄積されていたということであり、魔力の濃度によっては強力な魔物になることも一応ある。
しかし、実際はそうではなかった。
一応、魔力が薄くても魔石があればゴーレムが生まれないことはないけど、いたとしてもせいぜいマッドゴーレムとかだろう。ミスリルゴーレムがいたというのは不自然だ。
なんか気になるね。
「関係あるかはわからないが、そのダンジョンはどうやら遺跡風だったらしいな」
「遺跡風?」
「ダンジョンは基本的にその土地に見合った地形で生成されるから洞窟型や森型なんかが一般的だが、遺跡風、つまり人工的に作られたかのような壁や天井、通路だったということらしい」
「つまり、元々そこにあった遺跡がダンジョンに変化したってことですか?」
「恐らくは」
遺跡ねぇ……。
確かに、古代文明の跡と言われる遺跡は世界各地でそこそこの数が発見されている。
石板なんかも見つかっているようだが、古代文明独自の言葉で書かれているのか詳しいことはわかっておらず、描かれている絵などを見て、なんとなく想像しているに過ぎない。
しかし、いずれにしてもダンジョン化しているものはなく、ただ風化した建物などが残るのみ。ダンジョン化するなんて相当稀だろう。
「と言うことは、これは古代文明の遺品ってことですかね」
「ダンジョンの宝箱の法則はよくわかっていないから断言はできないが、もしかしたら。だから、長命であり、昔の事も知っているであろうエルに話を聞きに来たのだ」
なるほどね。そこでエルの出番と言うわけか。
しかし、いくらエルがエンシェントドラゴンとは言っても古代文明が栄えたとされるのは1万年くらい前の話。流石のエルもその時は生きていないんじゃないかな。
「どうだ、何かわかるか?」
「うーん、1万年前ですよね? 流石にその頃はまだ子竜だったのでよく覚えてないです」
「えっ……」
「おや、どうしましたハクお嬢様?」
「あ、いえ、なにも……」
まさかの普通に生きてました。
てことは、少なくともエルって1万歳以上なのか。でも、子竜だったってことはエルの年齢は大体その辺り?
「そうか、残念だ」
「お役に立てず申し訳ありません」
「いや、エンシェントドラゴンにわからないなら誰にもわからないだろう。地道に調査するしかないな」
頭を下げるエルに気にするなと手を振るウィーネさん。
まあ、この錆びた鉄の塊が本当に1万年前のものかはわからないけどね。
だって、この鉄の塊、錆びているとはいえきちんと加工がされている。つまり、その頃には精錬技術があったということだ。
しかし、この世界で鉄の精錬が始まったとされるのはおよそ3000年前だと授業で聞いた気がする。
どう考えても、1万年前に精錬できているのはおかしい。
それに錆び具合からしても、そんな数千年単位の時間が経っているとは思えない。
ダンジョンの宝箱の中と言う特殊な環境にあったからと言う可能性もあるが、どっかその辺で拾った鎧の破片と言われた方がまだしっくりくる。
「要件はそれだけだ。邪魔をしたな」
そう言って立ち上がるウィーネさん。
古代遺跡のダンジョンなんて少し興味はあるけど、わざわざ調べようとは思わないかな。
確かに、古代文明なんてなんとなくロマンを感じる響きだけど、調べたところで何かが変わるというわけでもない。せいぜい古代文明についての知識が増えるくらいだろう。
もちろん、今は失われた魔法を発見したりできるかもしれないけど、魔法はイメージ次第で理論上は何でもできるし、現状そこまで困っているわけでもないので特に興味は惹かれない。
いやまあ、例えばもっと興味深い魔法陣とかそう言うものが見つかったなら考えないでもないけど、今のところは少なくとも向こうで調査が終わるまではパスかな。
「あ、そうそう、陛下がいつ遊びに来るのかと言っていたぞ。今は休みなのだから、顔を出したらどうだ?」
「嫌ですよ。もう襲われたくありません」
「そうか。連れていくつもりなら無理矢理にでも連れていけるが、陛下はあくまでハクからくることを望んでいるからな。まあ、あまり放置しすぎて業を煮やしたらわからんが」
「ひぇっ……」
ローリスさんは正直言ってかなり苦手だ。
だって全裸だし、ロリコンだし、こっちの力を封じてくるし。
あの人の前では私はただの幼女でしかないのが怖すぎる。せめて自衛の手段が確立できるまではいきたくない。
あの能力、一体どうやってるんだろうか。条件さえわかれば対策も立てられそうなもんだけど。
「では、また何かあったら連絡させてもらう」
そう言って、ウィーネさんは去っていった。
それにしても、あの謎の塊は何だったんだろう。
何かの部品? それとも紋章的な?
偶然的に星形になることはないと思うから意図的にあの形にしたんだと思うんだけど、使い道がよくわからない。
「まあ、考えても仕方ないか」
気になることは調べる質だけど、この件に関してはなんだかあまり気乗りしない。
なんでかはわからないけど。
私はふぅと息をついた後、応接室を後にした。
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