第五百六十六話:上げる相手
宝石をカットし、ミスリルをチェーン状に加工し、アクセサリーとして仕上げる。
なんかここだけ見ると職人の仕事のようだが、やってる本人が素人なのでそこまでの気迫はない。
出来もまちまちだし、同じようにカットしたはずなのに輝きが全然違って納得のいくものにならないということも多々ある。
おかげでかなりの量の宝石を無駄に使用してしまった。
多分、売れば豪邸とまではいかなくても普通の家くらいなら建つくらいの金額なんじゃないかな。
こんだけ無駄遣いしてもまだまだ有り余ってるってもう一生お金に困らないよね。仮になくなったとしても、また取りに行けばいいだけだし。
それこそ、魔法がなくなって魔法触媒としての用途が消えるとかでない限り価値はそこまで落ちないだろう。別に多少落ちたところで売れれば問題ないし。
まあ、それはさておき。
アクセサリー自体はそこまで時間をかけずに作ることができた。
魔法が繊細な作業にも使えるっていうのはやはり便利である。
ただ、問題なのはやはり結界の方で、仕込むのにそこそこ時間がかかった。
基本は防御魔道具と同じで、強い衝撃を受けた時に自動で発動し、攻撃を防ぐという機構である。
宝石自体を魔石のように扱うことで魔力は確保できるし、部分的な結界を張るだけなら消費も少ない。
ただ、結界は基本的に覆うものであり、壁のように展開する使い方はあまりしない。だから、安定して防げる形を形成するには覆わなければならないのだ。
瞬間的に発動し、且つ攻撃箇所をすべて覆うとなると、消費が激しい気がするし、強度もどれくらいにすればいいのかも悩みどころ。
だから、実際にお姉ちゃん達に手伝ってもらいながらいい塩梅を探し、最近になってようやく納得いくものが出来上がったというわけだ。
一回できてしまえば後は楽なもの。カットの成否はあるが、魔法自体は簡単にかけることができた。
それにしても、これ完全に魔道具に喧嘩売ってるよね。
魔道具は、魔石の魔力を糧として色々な効果を発動するものだけど、その魔力を糧とするためには回路が必要となる。
だけど、私が作ったペンダントにそんなものはない。あるのは、宝石裏に仕込まれたちょっとした刻印くらいだ。
魔道具の回路と刻印魔法は多少似ているところもあるけど、どちらも結構手間のかかるものであり、私のように簡単に仕込んでいいものじゃない。
……まあ、そこらへんはあまり気にしないでおこう。
「さて、配る人はっと」
もうみんなに上げる気満々で作ったので、ペンダントの数は結構な数に及ぶ。
使った宝石も様々であり、みんなに似合いそうなものを渡していくつもりだ。
候補としては、アリア、サリア、エル、ユーリ、お姉ちゃんにお兄ちゃん。シルヴィアさん達学園の友達にアリシア、テト、ロニールさんにリュークさん、後王子も渡した方がいいかな? 他にもギルドのみんなとかアリスさんとかコノハさん達とかお父さんとか色々渡したい人はいるけど、あんまり渡しすぎてもあれだと思うのでとりあえずは特に親しい人だけに渡すつもりである。
数はあるし、他の人達は会った時に思い出したら渡すくらいでいいんじゃないかな。
「後は箱か何かを作って、それに入れようか」
以前、魔道具工房のカイルさんがマグニス家へ魔道具を納品する時、木の箱に細工を施して上品な箱に仕立て上げたことを思い出す。
流石にあのレベルを真似できるとは思わないけど、ちょっとした文様を描くことくらいだったら私にもできる。
なんだか誕生日プレゼントみたいになってるなぁ。
「んー、誕生日に渡した方がいいかな」
この世界では誕生日を祝うという習慣はあるが、一年ごとに祝うのではなく、五年ごとに祝うことになっている。
それも、好きなものを贈るというよりは将来のために役立つもの、例えば、騎士を目指しているのなら剣を贈るとかそういうことを期待されているようである。
もちろん、好きなものを贈っても別に構いはしないのだが、子供としてはやっぱり娯楽よりも将来のために必要なものを贈られた方が喜ばれるんだそうだ。
そういう観点で言うと、私の贈り物はちょっとずれてる気がしないでもない。
一応、防御魔道具擬きではあるし、魔物が跋扈するこの世界では確実に役に立つ代物ではあるが、目的とは合わない気がする。
だったら、日頃の感謝の気持ちとして軽い感じで渡した方がいいかなぁ。
「まあ、すでにユーリとかには上げちゃってるし、そのまま渡せばいっか」
そもそもの話、私はみんなの誕生日を知らないしね。と言うか、自分の誕生日すら曖昧である。
以前10歳の誕生日を迎えたっていうのはあのくそ親が私を拾った日だったわけだし。
竜は誕生日を祝う習性はないので、お父さんも私が生まれた日は覚えてないっぽいんだよね。せいぜい、この月に生まれたってことくらい。
だからまあ、誕生日なんてあんまり気にしなくてもいいのかもしれない。
まあ、もし知れたら祝うけどね。後で聞いてみるのもいいかもしれない。
「さて……ん?」
とりあえず箱でも作ろうかと思いたった時、不意に近くに強烈な魔力を感知した。
これだけ膨大な魔力なら忘れようはずもない。
先日行ったヒノモト帝国の宮廷魔術師、ウィーネのものだ。
多分、転移してきたんだろう。転移魔法は空間属性の適性がないと使えないはずなんだけど、ウィーネさんは普通に使っている。
ワーキャットで魔力が多いってだけでもおかしいのに、一体どれだけ規格外なのか。
まあそれはともかく、わざわざ近くに転移してきたってことは私に用なのだろう。
私は作業を中断し、家の玄関へと向かう。
扉を開けると、そこには待っていたと言わんばかりに修道服姿のウィーネさんが立っていた。
「ハク、久しぶりだな」
「お久しぶりですウィーネさん。本日はどういったご用件で?」
「少し見てもらいたいものがあってな。エルの知恵を借りたい」
「む、私ですか?」
一緒についてきていたエルがきょとんとした顔をしている。
てっきり私に何かやって欲しいのかと思っていたが、目的はどうやらエルのようだ。
エルに見てもらいたいものって何だろう?
「出来れば人目につかないところで見てもらいたいんだが、中に入っても構わないか?」
「あ、はい、どうぞ」
とりあえず、玄関先で見せるものでもないようなので応接室へと案内する。
見たところ何も持っていないように見えるけど……まあ、ウィーネさんの事だから【ストレージ】くらい持ってても驚かないよ。
「それで、見てもらいたいものっていうのは?」
「ああ、これだ」
そう言って、ウィーネさんは虚空に手を伸ばすと、そこから何かを取り出した。
錆びた星形の鉄の塊? 大きさとしては手のひらサイズのようだ。
とっさに探知魔法を仕掛けてみるが、妙な魔力を感じる。
なんというか、魔力溜まりで探知魔法を使った時みたいな異質な魔力? が、ごく少量ではあるけど残っているようだ。
何かはわからないけど、曰く付きの何かな様な気がする。
私はごくりと息を飲みながら、その物体が何なのかを質問した。
感想、誤字報告ありがとうございます。




