第五百六十五話:アクセサリー作り
第十七章開始です。
期末テストも無事に終わり、長期休暇へと入った。
きちんと勉強していたおかげもあって、遅れた分の知識はきちんと吸収できたように思える。それぞれの力を発揮できれば、来年昇格することも容易だろう。
ただ、一番心配なのがミスティアさんだ。
ミスティアさんはヴィクトール先輩のために発表会までの間ずっと研究に没頭していた。
もちろん、途中からは勉強会にも参加するようになってはいたが、研究への情熱は激しく、出席日数が足りている授業に関しては意図的にさぼることによって研究の時間を捻出していた。
出席日数は確かに一定の日数出席していれば留年することもないが、昇格には大いに関わってくる。
きちんと毎日休まずに授業を受けた人と出席日数分だけ授業を受けて後は適当の人が同じように昇格するのは難しいだろう。授業を聞いていないということだし、仮に自主勉強で補っているとしても先生からの評価は低くなる。
なので、もしミスティアさんが昇格しようとなったらテストで相当いい点を取らないといけないのだ。
昇格の基準として、日頃の勉強態度はもちろんのことだが、テストでの成績優秀者、すなわち全教科の平均点が80点以上の者が昇格できるという目安がある。
割合としてはテストが大半を占めるので、テストで、特に魔法関連のテストでいい点さえ取れれば昇格は現実的だ。
出席で評価が悪くなっているミスティアさんは少なくとも平均点90点以上は取らないと厳しいと思われる。
いくら中堅どころのCクラスとはいえ、上から数えた方が早いクラスである。そのテストで90点以上となると相当な難関だ。
みんなで昇格しようと約束した手前、ミスティアさんだけが取り残されそうな状況は少し不安ではある。
まあ、今更喚いたところでどうしようもないんだけどさ。
「んー、こんなもんかな」
授業が終わってしまった以上、もう私達にできることはない。
留年が確定していて、どうにか昇級させてくださいと先生に縋りつく、と言うのだったらなくはない気もするが、流石にクラスの昇格を泣きつくわけにはいかないからね。
そもそも、貴族が多く通う学園でそんなみっともない真似をする人はそうはいない。そんなことをしたら、仮に上がれたとしても後ろ指を指され続けることになるだろうし。
そういうわけで、不安を払拭するためにも私は少し内職に手を出すことにした。
具体的には、ホムラから貰って【ストレージ】に有り余っている宝石類を使ったアクセサリー作りだ。
もちろん、私は別に宝石職人と言うわけではないし、カットの仕方とかを知っているわけではない。
ただ、この世界の宝石っていうのは結構粗削りなものが多いのだ。
いわゆるブリリアントカットなんて技術はなく、アクセサリーとしての宝石は板型やキューブ型が基本的な形で、しかも結構歪なものが多い。
特に硬度が高いダイヤモンドなんかは魔法くらいでしかまともに加工できないので、相当大雑把だ。
まあ、それでも綺麗ではあるので貴族達はそれを身につけることもあるが、主な使用目的は魔法の触媒としてであり、アクセサリー目的と言うことはあまりないのだ。
だから、見様見真似でも綺麗にカットできればそれなりのものができるんじゃないかと思ってやってみているわけである。
水の刃を使えばカット自体は簡単だし。
「美しい切り口でございますね」
「綺麗だね」
とりあえず作ってみた宝石を見て、エルとユーリが感想を言ってくれる。
一応、ブリリアントカットと言われる切り方を試してみたのだが、あれは光の屈折率とかを考えて一番綺麗に輝くようにしているらしいので、多分見様見真似では本物とは天と地ほどの差があると思われる。
しかし、この世界で販売されている宝石と比べたら相当綺麗であることは間違いないので、これでも十分っちゃ十分だ。
「ハク、それどうするの?」
「別にどうもしないけど……欲しいのなら上げるよ?」
「え、ホントに?」
とりあえず作っては見たが、別にこれを売ろうとかそういう考えを持っていたわけではない。
本当に純粋な興味で、綺麗にカットできるかなぁと考えた結果暇つぶし的にやった行為である。
もちろん、アクセサリーを作ると宣言した以上はきちんと作るつもりではあるけど、これで失敗しようが成功しようがあまり関係はない。
もし欲しいという人がいるならタダで上げたっていいくらいだ。
「うん。完成したら上げるね」
「ありがとう! えへへ、ハクからのプレゼント……」
「エルも欲しい?」
「ハクお嬢様の下さるものなら何でも喜んで頂戴いたします」
控えめではあるけど、エルもなんだか欲しそうな雰囲気を感じる。
暇つぶしのつもりだったけど、これは他のみんなに上げることも視野に入れてたくさん作ってもいいかもしれない。
そうなると、宝石をはめるものを何にするかな。指輪かブレスレットか、あるいはペンダントとか?
そんなに複雑な加工ができるわけではないし、ペンダントが一番楽か、多分。
流石にチェーンまで宝石で作るわけにはいかないし……ミスリルでも使うか。余ってるし。
なんか世に売りだしたらとんでもない値が付くそうな気がしないでもないけど、まあ別に構わないだろう。
もし盗難とかが心配なら探知魔法で探せるようにマーキングしておけばいいし、何なら結界でも搭載しておこうかな。所有者に害成す攻撃を自動的に防ぐみたいな。
あ、でも、常に結界を張り続けるとなると宝石とはいえ流石に魔力が足りないか。
うーん……攻撃時のみ結界を張るようにして、その他の時は休眠モード的なものにできればいいかな?
割と設定が面倒くさそうだけど、みんなの安全を守るためと考えれば悪くはないだろう。
大丈夫、防御魔道具を見たことがあるからなんとなく仕組みはわかる。
「よし、それじゃあ張り切って作りますか」
本当なら、せっかくの休みなのだからギルドで依頼を受けたり竜の谷に遊びに行ったり聖教勇者連盟の人達と仲良くなったりと色々やるべきなのかもしれないが、発表会まで忙しかったこともあり、今はあんまりやる気が出ない。
別に絶対にやらなければいけないという用事はないし、たまには家でまったりするのも悪くはないだろう。
そのまったりの方法がアクセサリー作りっていうのも変だが、これはこれで趣味に没頭している感じがしていいんじゃないかな。
「あ、そろそろお部屋の掃除をしないと。それじゃあハク、楽しみにしてるからね」
そう言ってユーリは去っていった。
ヴィクトール先輩が開発した特製の魔法薬によってユーリを目当てにやってきた病人達は大抵が完治したのでユーリの仕事もだいぶ減っている。
いや、別にあれは仕事ではないけど、もはや聖女と言う仕事と言ってもいいくらいには働いてると思う。
だけど、例の魔法薬のおかげで病人の数は徐々に減ってきているので、そのうちユーリが治すのはとっさの切り傷とか掠り傷くらいになりそうで安心だ。
今はまだ一部の貴族達だけのようだが、いずれはスラムの子も自由に利用できるくらいに普及させたいとヴィクトール先輩も言っていたし、現状を見る限りそれはそう遠くない未来な気がする。
私はそんなことを考えながら、次々と宝石をカットしていった。
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