幕間:ネタを探して2
主人公の友達、カムイの視点です。
住んでいた者の手記らしきものは意外と簡単に見つかった。
書斎らしき部屋があり、そこの本棚に普通に入っていた。
まあ、確かに本と言えば本棚に収まっているのが普通かもしれないけど、こういうのってなんか隠されたりしてるのが普通じゃない?
いやまあ、別に簡単に見つかる分には文句ないんだけどさ。
「わかったことは、一番最初に住んでいた家族の間には幼い娘がいたけど、病で亡くなったってことくらいかしらね」
周辺の貴族との関係性や仕事に関する愚痴なんかも書いてあったけど、多分それはあんまり関係ないと思う。
娘はどうやらひとりっ子だったようで、両親は娘の事を溺愛していたようだ。しかし、数年後に病にかかり、それで亡くなったらしい。
死んだ後も離れるのが嫌だったらしく、遺体は家の庭に埋葬されたとのこと。
「なーんかきな臭いわよねぇ……」
私は元々オカルトを信じていたわけじゃないけど、転生してファンタジーな世界に来たことでだいぶ理解を示せるようにはなってきた。
例えば、この世界では人が亡くなった場合、火葬する、あるいは浄化魔法をかけてから土葬する決まりがある。
これは、死者の魂は死後もなお現世に留まっており、とくに強い想いを持って死んだ魂はきちんと浄化して送り出してあげないと輪廻の輪に入れず、ずっと地上をさ迷い続けることになるということから来ている。
そうして地上に留まった魂はいずれ死体に宿ってゾンビとなったり、魔力を吸いこんでレイスになったりする。しかし、彼らに自我はあまりなく、魔物として本能のままに人を襲ったりすることもあるので、きっちり浄化しないと罰せられることもあるのだ。
火葬でもいいとされているのは、火はアンデッドに対して浄化の作用があるとされているから。まあ、本当のところは教会に浄化を頼めない貧民層のための手段だろうけどね。
まあそういうわけで、浄化もされず、火葬もされず、そのまま家の庭に埋葬されたっていう娘さんが未だに現世に留まって何かしらの悪霊になっている可能性はなくはない。
多分、当時はまだそういうルールがなかったから許されていたんだと思うけど、もしこれが本当だとしたらとんでもない置き土産をしてくれたものだよね。
「とりあえず、その墓を見てみましょうか」
墓は庭にあるという。だから一度屋敷を出ようと思ったんだけど、なぜか玄関が開かなかった。
まさか、閉じ込められた?
「ちょっと、勘弁してよね。こんなところで死ぬなんてごめんよ」
体を炎に変じて隙間を通り抜けようとしても、扉自体を焼こうとしても通れなかったしびくともしなかった。
どうやら娘さん(仮)は私を返すつもりがないらしい。
どうしろと……。
「勝手に家に入ったことは謝るわ。ごめんなさい。でも、私には帰らなければならない場所があるの。だから帰してくれない?」
娘さんが悪霊化して家に憑りついていると仮定して呼びかけてみるが、返答はない。
喋ることができないのか、そもそも予測が間違っているのかはわからないけど、このまま玄関の前にいても埒が明かなそう。
「何が望みなの? 私にできることならやってあげる。だから、姿を見せてくれないかしら?」
再度呼びかけるが返答はない。
仮に娘さんが家に憑りついているとして、いくつかの疑問がある。
例えば、家族の失踪。
娘さんがこの家を守るために入ってきた人達を襲っているのなら、一番最初に失踪した家族はなぜ襲われたのか。
家族として溺愛されていたはずなのに、なぜ手を出す? それとも、最初の家族だけは本当に自力で失踪していて、娘さんは関係ないとか?
いや、家族は娘さんと離れてくないがために家の庭に埋葬したのだ。失踪する理由がない。
娘さんが侵入者を襲う基準がわからない。
「話が出来ればまだ糸口がつかめそうだけど……返事してくれないのよね」
喋れないにしろ聞こえてないにしろ、これでは八方塞がりだ。
他になにか手掛かりはあっただろうか? 見つけられたのは手記程度で他には特に見当たらなかったが。
「……そういえば、名前は何ていうのかしら」
ずっと娘さんと呼んでいたけれど、人なんだから名前があるはずである。
確か手記に……あった、これだ。
「えっと、アンナちゃん? もし私の声が聞こえていたら返事をしてくれる?」
手記には娘とも書かれていたが、何度か名前で書かれているところもあった。
その名前を呼んでみると、不意に目の前の空間が歪み始める。
しばらくしてそこに現れたのは、ゴスロリのような姿をした4歳くらいの少女だった。
『私の名前、私の名前、知ってるの?』
鈴の転がるような声で目の前の少女が口を開く。
どうやらこの子がアンナちゃんで間違いないらしい。
とても悪霊には見えないけど、この感覚、相当な魔力を持っていることがわかる。
今までの犠牲者は調べた限りで20人程度。彼らの魔力を吸収していると考えれば妥当な量だろうか?
「あなたがアンナちゃん? 私はカムイよ、よろしくね」
『カムイ、カムイ。素敵なお名前ね』
キャッキャとはしゃぐアンナちゃん。
どうやら敵意はないように思えるが、一応油断はしないでおく。
この家はアンナちゃんの腹の中のようなものだからね。いつ消化されてもおかしくない。
「アンナちゃん、あなたはこの家に憑りついているの?」
『私は夢の妖精、私は夢の妖精。ここは私の帰る場所。だからずっとここにいるのよ?』
「それじゃあ、今までにもいろんな人が入ってきたと思うんだけど、その人達はどうしたの?」
『ここは私の帰る場所、ここは私の帰る場所。奪われるのは許せない。でも、お父さんが人には優しくしなさいって言ってたからみんな夢を見てもらったよ』
「夢? 眠らせたってこと?」
『私は夢の妖精、私は夢の妖精。夢を見せるのが私の役目。悪夢のない素敵な世界。みんなみんな感謝してくれるわ』
いくつか質問をしてみて、なんとなくアンナちゃんのことがわかってきた。
恐らく、何らかの理由で膨大な魔力を吸い取ったアンナちゃんは急激に成長し、強力な魔物、本人曰く妖精へと至った。
彼女は自分の事を夢の妖精だと自覚し、侵入者を眠らせて監禁し、家を守ってきたってことなんだろう。
ギルドのランクに当てはめれば、その犠牲者の多さからして多分BとかAになるんじゃないだろうか?
攻撃方法はわからないけど、妖精並みの力を持っているなら抵抗するのは難しい。一度眠らされた時点でもう勝ち目はないだろう。
まあ、家に入らなければ何もしてこないのだから入りさえしなければ無害ではあるだけましだけど、私はどうしたらいいだろうか。
このままだと、私もいずれ眠らされて永遠にこの家に閉じ込められることになりそう。
どうにかして脱出しないと……。
「その眠らせた人達は今どこにいるの?」
『私の中、私の中。私の身体は夢の塊。みんな私の中で夢を見続けるの』
「その人達を起こすことはできる?」
『嫌、嫌。私は夢の妖精。夢を見せるのが私の役目。起こすのは悪いことだわ』
犠牲者が今も生きているのかどうかはわからないけど、助けられるのなら助けたい。
でも、体の中と来たか。一体どういう構造なんだろう。
まあ、妖精は魔力生命体と言うし、色々な不思議が詰まっていてもおかしくはない。
夢の妖精だから夢を見せるのが仕事で、起こすのは悪いことか。
歪んだ考えではあるけど、幼い子供だからこその思考だろうか。
でも、もし子供であるなら、まだ説得は可能かもしれない。
私は一度深呼吸をして慎重に言葉を選んで話し始めた。
感想ありがとうございます。




