第五百五十九話:種の特性
日々の社交術と言う拷問を嘆きながらも魔法薬の研究は続いていた。
研究と言っても、現在は実験段階。神星樹の種と言う素材がどのような性質を秘めているかの検証期間だ。
通常の素材に含まれている魔力とは少し違う特性を秘めていると思われる神星樹の種。これを解き明かさない限りは調合はうまくいかない。
そもそもの話、保存方法すら確立できていないのだから色々と手探り状態だ。
まずは調合する前に、この神星樹の種の秘密を明らかにする。それが問題である。
「ふむ、魔石の反応としてはすべての属性に対して相性がいいと出たか。破格の性能だな」
「魔力が多いからですかねー?」
「魔力の量のせいか質のせいかはわからないが、色々な魔法に対応できるというのはわかった。試しに既存の魔法薬の代用として使えないかを調べるのもいいかもしれない」
調合の段階で魔石を加えると、どの魔法と相性がいいかがある程度把握できる。
通常はその素材の性質に合わせて相性がいい属性が限定されているが、少なくとも神星樹の種単体で見た場合はどの属性とも相性がいいことがわかった。
どの属性とも相性がいいっていうことは、どんな魔法薬にも代用が可能と言うことでもある。もちろん、根本から性質が違うものの代用にはならないだろうが、うまくすればどの薬にも対応する万能の素材として機能する可能性がある。
まあ、いくら代用できるとは言っても神星樹の種自体が高価だから普通はこっちの代用を探すのが普通だろうが。
「テレス君、ロキシー君、今までの魔法薬の資料を出してくれ。マーク君は素材の準備を頼む」
「「「はーい」」」
ヴィクトール先輩が後輩達に指示を出していく。
私が遠征に出ている間さぼっていた後輩達だが、最近になってようやく顔を出し始めた。
ちなみにテレスさんとロキシーさんが二年生、マーク君が一年生である。
みんないい子ではあるんだけど、いかんせんやる気がない。
魔法薬研究室に入った理由が私、もしくはエルがいるからと言う理由で、合法的に一緒にいられるからと言うのが狙いらしい。
まあ確かに、私は放課後は大体研究室にいるし、そうでない時は特定の友達としか遊ばないから手段としてはありなのかもしれないけど、それだったらきちんと仕事をしてほしいものだ。
まあ、指示に従ってくれるだけありがたいのかもしれないけどね。
「ミスティア君は光と水を、サリア君は闇と風を、エル君は氷を、ハク君は雷を頼む。火と土は私がやろう」
「了解ですー」
「任せろ」
「仕方ないですね」
「はい」
この研究室にいる人員を合わせればすべての属性を網羅している。
もちろん、その人の実力によって使えない魔法とかは出てくるだろうが、不安なのはサリアの風魔法くらいで他はほとんど使いこなせているだろう。
後輩達はまだ年齢相応で魔法はあまり得意とは言えないのでまだ戦力としては数えられない。これから頑張っていってほしいところだ。
お互いに協力し合いながら神星樹の種を使って調合をしていく。
もちろん、種は貴重なのでそこまで量を使うわけではないが、今まで作った魔法薬すべてを試すとなるとそこそこの数を持っていかれそうだ。
まだストックは十分あるけど、再び取りに行く覚悟くらいはしておこうかな。
「……ふむ、これは、どういうことだ?」
数日かけて色々と魔法薬を作ってみたわけだが、意外な結果となった。
と言うのも、ほとんどの魔法薬が正常に完成しなかったのだ。
例えば、ヴィクトール先輩が作った燃える水はただの水となったし、体を発光させる薬も同じくただの水となった。
ただ、例外もあって、例えば変身薬は調整した変身時間を超過しても変身が解けることはなかったし、霜が生える薬は試した裏庭がすべて霜で覆われるほど効果が倍増していた。
「ほとんどの素材は効力を発揮せずに相殺されたが、一部の素材は相性が良く逆に効力を増加させた、ということか?」
「ハクー、効果が倍増した魔法薬に使われた素材ってわかるー?」
「ちょっと待ってください、今調べます」
ざっと調べてみた結果、いずれの魔法薬にも特別な薬草が使われていることがわかった。
この特別と言うのは、ある程度貴重なものと言う意味である。
例えば、変身薬なら七色草。この薬草には変な植生があり、様々な薬草の群生地に稀に混じっていると言うものである。
どんな薬草の群生地にも存在する可能性があるが、七色草だけの群生地と言うものはなく、見つけられるかどうかは完全に運と言う代物である。
まあ、運と言ってもそこまで珍しいものではなく、数か所回れば数個手に入るくらいの頻度ではあるらしいのだが。
その他にも、雪が降っている時にしか見つからないだとか、綺麗な川辺にしか生息しないだとか、そういう特定の条件を持つ素材ばかりが相性がいいということになっている。
アメツユ草やシラユキ草に反応してたのもこのせいかもしれない。これらの薬草も特定の場面でしか手に入らない素材だから。
「ふむ、そうなると、神星樹の種を最大限に生かすには特定の場面でしか手に入らない素材を使用する必要があるか」
「でもー、ただ希少なものだからいいってわけでもないみたいだねー」
ミスティアさんの言う通り、希少さで言えば最初に試したレア素材達の方がかなり上だ。
しかし、それらの素材は総じて効力はあまり高くなく、残念な結果になったことを覚えている。
もしかしたら一緒に混ぜ合わせた素材が悪かったのかもしれないけど、今の結果を見る限り、希少と言うほどでもないちょっと珍しい素材くらいがちょうどいい感じではある。
「この中で平癒魔法に組み合わせられそうな素材と言うとー……」
「七色草、これが一番適任だろう」
魔法薬は最後に打ち込む魔法によって効力が変化するが、だからと言って混ぜ合わせる薬草が適当でいいってわけではない。
神星樹の種の相性を満たしつつ、平癒魔法と相性がよさそうな薬草と言うと、すべての回復系の薬草の効果を備える七色草が最も適任だと思われる。
後は、それと合わせる素材をどれにするかが問題だ。
「候補としてはアメツユ草もあるだろう。最低限の効果を期待するなら普通の薬草でもよさそうだが、合わせることが前提ならこっちの方がいいと思う。少しは進んできたか?」
「後はー、うまく薬にできるかですねー」
平癒魔法としての効力を高めるための薬草の選定はこれで十分だと思う。後は、どうやって薬にするかだ。
「地道にやっていこう。まだ時間はある」
発表会まで残り一か月くらい。
発表会できちんとした発表をするのなら、効果の実証実験もしたいし、論文もまとめなくてはならないので二週間くらいは欲しい。
となると、あと二週間ちょっとで組み合わせを見つけなくてはならない。軽く無理ゲーだ。
だが、諦めるには早すぎる。私の【鑑定】だってあるし、ヴィクトール先輩やミスティアさんの知識だってある。
もう少しのところまで来ているんだ。頑張らないと。
私は気を引き締めてより一層励もうと決めた。
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