第五百四十四話:身長の差
ユーリが不法滞在者だったというトラブルはあったが、王子の手も借りて穏便に済むことになった。
これからは冒険者となったので、定期的に依頼を受けていれば問題はない。私が合間合間に同行すれば多分大丈夫だろう。
「お帰りなさい。どうでしたか?」
「大丈夫でしたよ。ちょっと視線が痛かったけど……」
部屋に戻り、みんなに無事に登録できたことを告げる。
ただ、私は知っての通り身長が低いのでかなり幼く見られやすく、ユーリもまた10歳くらいにしか見えないので、私達が並ぶと子供の姉妹かなにかにしか見えない。
もちろん、冒険者は10歳からなることができるので別に登録を拒否られるということはないけれど、酒場にいた冒険者からの視線が痛かった。
あれは絶対幼い子を見て見守りたくなったという目だ。
ユーリはともかく、私の事は知っているだろうに。もう三年くらい王都にいるんだから。
「ハクさんもユーリさんも可愛らしいですからね。確かに冒険者には見えないかもしれないですわ」
「もう四年生になりますけど、ハクさんは一年生の頃から身長があまり変わっていないようですしね」
「うぐっ……」
確かに、入学当初から比べるとみんな身長が伸びている。
一番小さいアーシェさんと比べても私とは20センチメートル近く差があるし、王子にいたってはもう180センチメートル近くある。
成長していないのは私とエルくらいだが、エルは元々そこそこ背が高いからあまり違和感はない。
だから、私だけが浮いてしまっているのだ。
精霊の身体だから姿が変わらないと言われた時はこういう場面もあると覚悟していたけど、いざ言われるとちょっと悲しい。
いや、一応偶然手に入れたスキルを使えば身長の誤差も誤魔化すことはできそうだけど、それをやってしまうとずっと隠し通さなければならないのが少し面倒くさい。
時が経つ度に外見を微妙に変化させるってイメージするのが大変そうだしね。
ただ、いつかはやらないといけないだろうなとは思う。タイミングが難しいな。
「大丈夫ですわ。まだ成人も迎えていませんもの、きっとこれから成長しますわ!」
「ええ、あと半年もありませんけど希望を捨てるのは早いですわ!」
「は、はは、ありがとうございます」
私達は現在14歳。サリアにいたってはもう19歳だ。
この世界での成人は15歳だからもう来年からはみんな立派な大人と言えるだろう。いや、シルヴィアさん達は誕生日的にもう15歳か。
身体が成長するのは当たり前で、みんなそれを当然のように受け入れている。なのに、私だけ10歳にも満たないような幼い体のまま。なんか寂しいなぁ……。
魔法やスキルで誤魔化せるとは言っても、やっぱり気にはなる。特にサリアにいたってはもう完全に女性の体つきで私とは隔絶した何かを感じる。
なんだかなぁ……。
「身長談義もいいですが、そろそろ勉強を再開しませんか? もう結構休みましたし」
「そうだな。まだまだ学ぶ範囲は終わってないしな」
もやもやした気持ちを抱えていると、エルとサリアが話題を変えてくれた。
私の気持ちを察してくれたんだろうか。なんだか気を使わせてしまって申し訳ない。
さて、いつまでもくよくよしてもいられないので勉強に集中しよう。
「それもそうですわね。まだテストまで間があるとは言っても、研究発表会もありますから早めにやっておいた方が楽ですわ」
「発表会の事も考えなければいけないから後期は大変ですわね」
そういえば、研究発表会についても考えなければならないのか。
私が所属する魔法薬研究会は一年の時の事件をきっかけに無難なものしか発表していない。
もちろん、無難とは言っても局所的には使い道があるかな、程度のものを紹介しているので見る人が見れば割と好評ではあるのだが、やはりインパクトがないので年々予算は削られて行っている。
薬草はともかく、魔石は高いものもあるので予算が削られるのは少々痛い。
ただ、魔石に関しては私が全属性変換できるのでそれでなんとかなっているという感じだ。
私がいる間ならいいけど、私が卒業した後あの状態じゃかなり厳しいと思う。任せる後輩に辛い思いはさせたくない。
まあ、後輩と言ってもあれから入ってきたのは今の学年で二年生が二人と、一年生が一人だけだけどね。それも私目当てで入ったらしく、魔法薬に関してはからっきしの素人達ばかり。
多分、私がいなくなったら潰れるだろうな、うん。
「そういえばー、ハクに相談したいことがあるんだけどー?」
「相談、ですか?」
ふと、唐突にミスティアさんがそう言ってきた。
ミスティアさんから頼み事とは珍しい。いつも一人で何とかしてしまう人だから頼まれるイメージがないんだけど。
「今年の発表会のためにー、ちょっと遠出をしたいんだけどー、付き合ってくれるー?」
「遠征ですか? それは構いませんけど、何を探すんです?」
「んー、その辺は後で話すよー」
「はぁ、わかりました」
確かに、魔法薬研究会では素材調達のために自力でダンジョンに潜ったりして薬草を集めることもある。
ミスティアさんもよくヴィクトール先輩に付き合って行っているからそれは別に不思議でもないんだけど、いつもは私に声をかけることはないんだけどな。
ヴィクトール先輩には内緒ってこと? よくわからないけど、まあ頼られて悪い気はしないし協力はしようか。
「よろしくー」
そう言ってミスティアさんは勉強に戻った。
さて、私も勉強に戻ろうか。次の範囲は……このページかな。
「うーん、ハクさんのノートがないのが悔やまれますわね」
「四年生の範囲はともかく、三年生の後期はずっといませんでしたからね」
私は去年は聖教勇者連盟に攫われていたので授業に出ていない。なので、当然ノートも取っていない。
確かに痛いけど、範囲に関してはミスティアさんが先生に聞いてまとめてくれているし、教科書を見れば大体のことは把握できるのでそこまででもない。
ただ、私のノートはみんなにとっては使いやすいらしく、それがないのが痛手と言うことらしい。
「ハクさんのノートは先生が言ったちょっとした知識まで全部書いてありますし、書き方もわかりやすいですから復習がとても楽なんですわ」
「私も同じように書こうと努力はしていますけど、やっぱり難しいです」
「まあ、記憶力には自信がありますから」
授業では教科書はあるものの黒板はないのですべて先生の口頭で説明される。なので、ノートを取るのは結構難しい。
黒板を導入してくれたら嬉しいけど、チョークの素材とかあるのかな。よく知らないけど、石灰? だよね? それならありそうなものだけど。
素人視点では黒板自体も結構簡単に作れそうだし、言ったら作ってくれないかな。
いや、今言ったところで私が在学中には無理だろうけど、今後の勉学の向上に繋がるなら割とありかもしれない。
うん、後で学園長あたりに言ってみよう。
「勉強は大変ですわ」
「まったくです」
まあ、気持ちはわかるけど、それを言ったら元も子もないと思うけどね。
一応、見せられる箇所は私のノートを公開して勉強は進んでいった。
午後の時間を丸々使った形になったけど、みんなよく頑張ったと思う。
しかし、これは始まりに過ぎない。テストまでの間は休みの日はこうして集まることが決定している。
これでカムイの学力が上がってくれたら嬉しいんだけどね。
そんな話をしながら、みんなで寮まで帰っていった。
感想、誤字報告ありがとうございます。




