第五百四十三話:ユニークスキル?
勉強会を始めてから大体一時間ほど。飽きっぽい人ならそろそろ投げ出してもおかしくない時間帯だ。
だから、この休憩はちょうどいいタイミングだった。お姉ちゃんも多分狙っていたんじゃないだろうか。
私は一応まだできるけど、シルヴィアさん達は少し筆が遅くなっている気がしたし。
「ところで、ユーリさんはどういう経緯でハクさんの家に?」
「あ、それは私も気になりますわ」
話題は急遽勉強会に加わったユーリのことになった。
まあ確かに、気にはなるだろう。私の家族は両親を除けばお兄ちゃんとお姉ちゃんしかいないということは言ったことがあるし、私の家族でないということはどこからか拾ってきたのかと言うことになる。
竜人と言う種族のせいか、ユーリは20歳を超えているのに見た目は10歳程度だし、一体どこの子なのかと気になるのは当然のことだ。
この辺の設定に関しては、ユーリをここに連れてきた時に大体考えている。
筋書きはこうだ。
ユーリはトラム大陸の出身で、辺境の小さな村に住んでいた。しかし、そこに盗賊が襲い掛かり、ユーリの両親はユーリを逃がすために一人で森へ走るように言った。その結果、ユーリは盗賊に殺されることはなかったが、道がわからず迷子になってしまう。
その時、偶然通りかかった私の知り合いに保護され匿われるが、両親は行方不明になってしまい返すに返せない状態に。
どうしようかと思っている時に私が訪れ、少し世話を焼いていたら私の事を気に入ったらしく、ぜひ連れて行ってほしいと言ってきた。
幸い、その時にはすでに家を持っていたし、だいぶ懐いているようなのでそのまま連れてきた、と言うわけだ。
盗賊に襲われた云々は嘘だが、私の知り合いと言える竜に保護されたのは本当だし、記憶を取り戻すために色々と奔走していたのは本当なので完全な嘘というわけでもないだろう。
この設定に関しては何度もユーリと話し合って決めたので、ユーリもきっちり把握している。なので、それらの事を話すと「これは本物ですわ……」とかよくわからないことを言っていた。
「ハクは私の事を受け入れてくれました。今では相思相愛です!」
「お熱いですわね。ハクさんのどんなところが好きなんですの?」
「それはもうたくさんありますよ。例えば……」
「ユーリ、それは言わなくていいから……」
ユーリは私の話となるとかなり饒舌になる。
まあ、一応は命の恩人だから色々とフィルターがかかってるんだとは思うけど、あんまり褒め倒されても困る。
そりゃ、何も思われないよりはましだけど、こんな人前で言いふらされたら恥ずかしい。
相思相愛って……確かに家族に接するように話せるようになはったけれども。
同性同士って時点でおかしいんだよなぁ……。
私的にはアリではあるけど、他の人にとっては……いや、シルヴィアさんとアーシェさんなら許容範囲内か。なんか私とサリアの本まで書いたみたいだし。
「ユーリさん、巷では聖女と呼ばれているみたいですけど、治癒魔法が得意なんですか?」
「私は治癒魔法は使えませんよ?」
「え、でも、町ゆく人達はみんな聖女様に怪我や病気を治してもらったと言っていましたが」
「あ、ああ、それは、ユニークスキルみたいなものなんですよ、多分」
キーリエさんが突っ込んだ質問をしてくるが、流石に怪我や病気を自分の身体に移し替えることができる能力なんて知られたらまずい。
いや、もう色々とやらかしちゃっているし今更かもしれないけど、キーリエさんは知らないようなので知らない人は多い方がいいだろう。
私が適当な理由をでっちあげると、ユーリはちらっとこちらを見た後、そうなんですよと頷いてくれた。
「ユニークスキルですか!? 凄く貴重な人材じゃないですか!」
「そ、そんなに貴重なんですか?」
「ユニークスキル持ちはかなり希少だと言われている。そんなユニークスキルを持つものばかりを集めているのが聖教勇者連盟だとも言われているな」
私の疑問に王子が答えてくれる。
確かに、ユニークスキルはその人だけが持つ唯一のスキルではあるけど、私の周りには結構ありふれているからあまり凄さを感じなかった。
だって、サリアもそうだし、アリシアやテトだってそうだろう。私自身も当てはまるかもしれない。
それに、聖教勇者連盟の転生者達も言うなればユニークスキル持ちと言えなくもないしね。
本来は突然変異的に生まれるものらしいんだけど、探せば割といっぱいいそうな気がする。
「ど、どんなユニークスキルなんですか? 私見てみたいです!」
「こら、ダメだよー」
「んにゃっ!?」
ユーリに詰め寄るキーリエさんをミスティアさんが頬を引っ張って止める。
正直止めてくれて助かる。実践してくれと言われても、ユーリの能力は怪我や病気がなければ意味のない効果だし、この場では見せられないけど、キーリエさんなら教えたら自傷くらいしそうで困る。
良くも悪くも、興味のあることにはとことん突っ走るタイプだからなぁ。
「何するんですか、ミスティア!」
「人のスキルを詮索するのはー、ご法度だよー?」
「うっ、それはそうですけど……でも、ミスティアも気になるでしょう?」
「気にはなるけどー、困らせるようなことはしちゃだめだよー」
ミスティアさんの言うことは冒険者の界隈では割とありふれたものだ。
冒険者に必要なのは戦闘力が一番だけど、その戦闘力を引き出すための技術も重要視される。
特に、鍛錬して手に入れたスキルは切り札ともいえるようなものなので、むやみに人に教えることは自分の能力を下げることにも繋がる。
だから、冒険者は相手の事を深く詮索してはいけないし、自分もあまり手の内を晒すようなことはしてはいけないのだ。
まあ、有名冒険者ともなると手の内は知れ渡ってしまうことも多いけどね。あくまで暗黙の了解なのだ。
「うー、わかりましたよ。ユーリさん、詮索してごめんなさい」
「いえいえ、気にしてないですよ」
ひとまず、ユーリのスキルがみんなにばれることがなくて一安心である。
出来ることなら、このまま大きな怪我もなく平穏無事に過ごしてユーリの出番がなくなることを祈る。
「……一つ思ったのだが、ユーリは他国の出身とのことだが、滞在証かギルド証は持っているのか?」
「滞在証?」
「ああ。自国民以外が町に滞在する場合、滞在証かギルド証が必要になるはずだが、どちらか持っているのか?」
「あ……」
そういえば、そんなルールもあったなと思いだす。
ユーリは竜の背に乗って空から町に入ってきたので当然門など通っていないし、滞在証なんて発行する機会はなかった。
さらに言えば、なるべく人目につかせないように置いておく気満々だったので、当然ギルド証も持っていない。
あれ、これ結構まずいのでは?
「……ハク、今のうちにギルドへ行ってギルド証を作ってあげなさい。これまでの不法滞在はこちらで何とかしておくから」
「すいません……今すぐ行ってきます」
まあ確かに、前世でも外国に滞在する場合はきちんとした許可が必要だもんな、異世界だからとその辺を失念していた。
よくもまあ一年近くもばれなかったものだ。あれだけ目立っていたというのに。
いや、逆に目立っていたからこそ、誰も気にしなかったのかな? やっていたことは治療行為だったわけだし、むしろ違法でもいてほしいと思っている人が多かったのかもしれない。
とにかく、さっさとギルド証を作って憂いを払ってしまおう。
私は一時勉強会を抜け出し、ユーリと共にギルドへ向かうことになった。
ちなみに、私の口添えと今までの活躍が功を奏したのか、ユーリのランクは初めからDランクとなりました。
まあ、低いよりはましかな。
感想、誤字報告ありがとうございます。




