第五百四十一話:集まったメンバー
その後、カムイに確認を取ったが、アーシェさんの言う通り二つ返事で了承してくれた。
名目上は勉強が遅れてしまっているカムイに前期の範囲を教えてあげるという内容だが、他の人達も去年あまり学べなかった部分を復習し、今年のテストに活かそうという考えがある。
特に魔法に関しては日々の繰り返しが大事なので、その練習もしたいところだ。
その他に関しては、一年の時から続けている座学と選択で取った錬金術、そして刻印魔法。まあ、刻印魔法に関してはミスティアさん達は取っていないから、そこらへんは各自勉強することになるだろう。
と言っても、刻印魔法で気を付けることなんて刻印する魔法陣を暗記するのと刻印するための技術くらいしかないけどね。
「それじゃあ、休みの日にハクさんの家に集まって、と言うことでよろしいかしら?」
「はい、大丈夫です」
結局、勉強する場所は私の家と言うことに決まった。
図書館でもよかったけど、図書館は休みの日でも意外に人の出入りが多いので集中できないかもしれないということで学園からもそこそこ近い私の家でやることになった。
すでにお姉ちゃん達から許可は貰っているので、問題はない。せいぜい、もてなすためのお茶菓子の補充をしておくくらいか。
「ハクさんの家に行けるなんて夢のようですわ!」
「ええ、本当に。とっても楽しみですわ!」
私の家はあまり人が来ない。
サリアやアリシアなんかはよく来るけど、学園関係者で他に来る人と言ったらたまーに王子が来るくらいか。
思えば、友達を家に招くというのは結構新鮮な体験かもしれない。少しテンション上がってきた。
「私のために勉強会なんて開いていただいてすいませんね」
「いえいえ、私達のためでもありますし、友達として一緒のクラスになりたいというのは当然の願望ですわ」
「友達……えへへ、ありがとうございます」
カムイは最初こそおしとやかな感じがしていたけど、私に対する態度が全然違うからすぐに化けの皮は剥がれてその本性は広く知れ渡っている。
獣人の編入生と言うだけでも珍しいのに、その上二重人格でさらにドジっ子とくればその話題性はかなりものだ。
当然、キーリエさんもそれをネタにして記事を書いたことがある。
おかげでカムイは学園ではちょっとした有名人だ。
「勉強の範囲はー、私がまとめておくよー」
「ミスティアさん、お願いしますわ」
「任せてー」
碌に勉強できなかったと言っても、ミスティアさんは割とましな方だったようで、ある程度はノートにメモを取っているらしい。
まあ、それでも重要と思われる部分しかメモしてないので後から読んでみると何の暗号? って感じの文章になっているようだけど、ミスティアさん自身はわかるらしいので多分何とかなるだろう。
もしどうしようもなくなったらその時は先生に助けを求めればいい。特にクラン先生やアンジェリカ先生辺りは快く教えてくれそうだ。
「では、また休みの日に集まりましょう」
「はーい」
大方の予定を決め、その日は解散する。
そういえば、ユーリは勉強はできるのだろうか?
ユーリはどことも知れない山奥で生まれたと聞いたことがある。
両親からある程度のことは教わったと言っていたけど、山奥で暮らしているような俗世から離れた家族が教える知識だからそこまで期待はできそうにない。
その後は大陸を転々としていたようだし、多分学ぶ機会なんてなかったんじゃないだろうか? もしかしたら、文字すら読めないのかもしれない。
そう考えると、教えてあげた方がいいのかな。
どうせ勉強会を開くんだし、ちょうどいい機会かもしれない。
私はユーリもメンバーに加えようと密かに計画を立てた。
後日、休みになったので家に集まることになった。
メンバーは誘った人達に加え、なぜか王子がいる。
どうにも、キーリエさんから話を聞いたらしく、せっかくならと一緒に勉強することにしたそうだ。
まあ、確かに王子は現在Bクラスで元はAクラスだったから私達より高度な勉強をしている。わからないところがあったら聞く要員として優秀かもしれない。
「まあ、急な増員はあったけど、やることは変わらないから楽しく勉強していきましょう」
「「「はーい」」」
「あ、そうそう、ついでだからみんなと一緒に勉強させたい子がいるんですけど、いいですか?」
「誰ですか?」
「うん、ユーリ、おいで」
私の呼びかけに、ユーリが部屋に入ってくる。
もちろん、隠蔽魔法で翼と尻尾は消してある。まあ、この人達ならたとえ晒したとしても何も言ってこないとは思うけど一応ね。
「ユーリです。ハクの、恋人です!」
「なっ!?」
「恋人ですって!?」
「そんな……で、でも、結構可愛いですわね」
「これは意外とアリなのでは?」
ユーリの爆弾発言に場が騒然となる。
まあ、間違っちゃいないけどさ……。できれば隠していて欲しかった。
「ユーリ、変なこと言わないの。気にしないでくださいね」
「い、いや、気にするわよ! ユーリ? 待って、確かユーリって……」
「はい、カムイはそこまでね」
聖教勇者連盟はユーリの情報も流れている。もちろん、カムイもそれは知っているはずなので、ユーリの正体に気付いてもおかしくはない。
ぐぬぬ、と苦い顔をしているのが少し可愛い。
他の人はよくわかっていないのか、頭にはてなマークを浮かべていた。
「待って、ハクさんはサリアさん推しだったはず。それがここにきて真打登場ってやばくありません?」
「いえ、エルさんやアリシアさん、テト先輩やカムイさんの事を考えると不思議はありませんわ。やっぱり、ハクさんはとてつもない人たらしです」
シルヴィアさんとアーシェさんは顔を赤らめながら二人でこそこそと話し合っている。
人たらし、なのか? 確かに私はいろんな人と交流を持っているけど、それは普通に常識の範囲内だと思うんだけど。
なんだか納得いかないけど、まあ楽しそうだし放っておいていいかな。
「ユーリっていえば、王都の聖女じゃないですか! そんな人がハクさんと恋人同士? これはスクープですよ!」
「ハクも隅に置けないねー」
キーリエさんはスクープだと騒いでいる。
流石自称記者だけあって王都の情報には詳しい。しかし、そうなるとちょっと面倒かもしれない。
ユーリの存在はできればあまり知られたくはないし、記事にでも書かれて人が集まってきたら困る。
後で釘を刺しておかないと。
「ま、まあ、恋人とは言っても女の子同士だし、私にもまだチャンスはあるだろう……」
王子はなんだか言い聞かせるように自分の胸に手を当てている。
まあ、恋人同士とは言っても女の子同士では結婚はできないからね。と言うか、王子はなんだか吹っ切れたような雰囲気があったんだけど、まだ狙っていたのか。
いくら狙おうが私が王子と結ばれるエンドはないけどね。残念だけど諦めて欲しい。
そんなこんなでユーリを加えたことで波乱が起きているが、正体を知っているカムイはともかく他の人は割とすんなりユーリを受け入れてくれたようで何よりである。
さて、そろそろ勉強会に移ろうか。
感想、誤字報告ありがとうございます。




