第五百四十話:勉強会
第十六章開始です。
夏休みも終わり、再び学園生活が始まった。
聖教勇者連盟を取り巻いていた問題も粗方片付いてきて、私が呼び出されることもだいぶ減ってきたので、ようやく落ち着いて勉学に励むことができると言うものである。
その影響か、ずっと聖教勇者連盟の方にかかりきりになっていたカムイも学園に復帰したようだ。
学園に行く合間に聖教勇者連盟のごたごたを片付けていた私と違い、カムイはずっと授業に出ていなかったので下手したら来年も降格の可能性がある。
いや、一応私が戻ってきてからは家の都合でしばらく休学する旨を告げていたから前期で何もできなかった分は評価されないとしても、後期で成績が悪ければ普通に降格する。
私としては、せっかくだから一緒のクラスのままでいたいけど、それはカムイの勉強への熱意次第かなぁ。
「ハクさん、サリアさん、それにエルさんも、おはようございます」
「ご機嫌よう、お変わりないようで安心しましたわ」
「シルヴィアさん、アーシェさん、おはようございます」
「おはよー」
「おはようございます」
教室に入ると、シルヴィアさん達が挨拶してくれる。
本来なら、私とサリア、そしてエル以外は普通にBクラスに残っていてもよかったはずなんだけど、私の事を心配するあまり勉強に力が入らず、Cクラスまで降格したという二人。
降格したのは二人だけではとどまらず、ミスティアさんやキーリエさん、それにクラスは違うが王子までもが降格したらしい。
まあ、聖教勇者連盟に罪人として捕らえられたわけだから心配してくれたというのは嬉しいけど、それで降格まで行ってしまうとなると申し訳ない気持ちになる。
あの時私がさっさと叩きのめしていればそんなことにならずに済んだってことだもんね。
まあ、そんなことしたら余計に面倒くさいことになっていたと思うから仕方がなかったと言えばそうなんだけど、悪いことをしてしまったと思う。
でも、こうしてまた一緒のクラスになれたというのは素直に嬉しいので、また一緒に頑張って上のクラスを目指すことにしよう。
「ハクさん、あれから結構忙しそうにしていますけど、きちんと休めていますの?」
「ハクさんが優秀なのは知っていますけど、休みの日も頻繁に外出しているようですし、少し心配ですわ」
「ああ、それならだいぶ片付いたのでしばらくは休めると思います」
「そうなんですの? それはよかったですわ」
聖教勇者連盟から帰還した後は、聖教勇者連盟立て直しのために色々と手を尽くしてきた。
おかげでよく転移魔法で大陸を渡っていたし、それで王都にいないことが多かったからそれが忙しく見えたんだろう。
今は逃げていた教皇達も捕まえたし、セフィリア聖教国を支えるための代官も候補が見つかったというからうまくやってくれることだろう。
一応、助っ人として竜を呼び出す役割を担っているからその点ではまた呼ばれるかもしれないけど、それ以外だったらもう忙しくはないと思う。
「忙しいと言えば、カムイさんも学園に復帰されたようですね」
「ああ、そうですね」
「確かカムイさんの家はセフィリア聖教国でしたよね。ハクさんに付き添って大陸を渡っていましたし、そこで何か言われたんでしょうか」
そういえば、カムイが学園から姿を消したのも私がいなくなったタイミングと同じなのか。
一応、カムイが聖教勇者連盟の一員であるということはシルヴィアさん達には伏せている。あの時は私のために同行していたというだけで、関係者ではないということになっていた。
まあ、詳しく調べればカムイの保護者であるフォシュロンゼ伯爵家は聖教勇者連盟の関係者だってわかると思うけどね。隣の大陸の事だから少し調べるのは面倒かもしれないけど。
「ハクさんは何か聞いていまして?」
「さあ……」
「まあ、ハクさんはそれどころではありませんでしたしね……。申し訳ありませんわ」
「気にしてないですよ」
シルヴィアさん達からしたら、私はその頃聖教勇者連盟に囚われていたわけだからね。何かしらの証言はしてくれたとしても、そこまで話す機会はなかったと思うのが普通だろう。
「でも、カムイさんは来年は大丈夫かしら? 前期を丸々お休みしてしまいましたけど」
「確か、カムイさんは魔法は凄いですけど座学はそれなりだったような?」
「休学扱いだったので前期の成績は反映されませんが、かなりのハンデですわね」
「出来れば来年は揃って昇格したいですわよね」
カムイの成績は魔法以外は可もなく不可もなくと言ったところ。
聖教勇者連盟で一応学んでいたおかげか、転生者ではあるものの基本的な歴史や地理なんかも知っている。
ただ、良くも悪くも一般的なので、いくら魔法で突出しているとはいってもCクラス止まりになる可能性は高い。
編入した時は聖教勇者連盟の威光があっただろうけど、そこからは完全にカムイの実力にかかっているからね。任務が続いているならもしかしたら便宜を図ってくれたかもしれないけど、今やカムイが学園に通うのは完全なる趣味なのでそれは無理だ。
「そうだ、一緒に昇格するためにも勉強会を開くのはどうですの?」
「あら、いいですわね。私達も遅れた分を取り戻さなければなりませんし」
「問題はカムイさんがオッケーするかどうかですが」
「カムイさんはハクさんの事が大好きですもの。きっと了承してくれますわ」
シルヴィアさんとアーシェさんが二人で盛り上がっている。
まあ確かに、カムイが未だに学園に通っているのは私がいるからと言うのが大部分を占めているし、私が昇格するとなれば死に物狂いでついてくる可能性はある。
最初は私を暗殺することが目的だったというのに、だいぶ方向転換したものだ。
これもカムイが洗脳に負けずに自分の意志を貫いてくれたおかげだね。
「そういうことなら、私達もお仲間に入れてもらえないでしょうか!」
「あら、キーリエさん」
と、そこにキーリエさんとミスティアさんがやってくる。
二人も私のせいで降格したらしいんだけど、かなり意外な気がする。
だって、ミスティアさんはいつもマイペースで他の事はあまり気にしない性格だし、キーリエさんはむしろスクープとか言って燃え上がりそうなタイプなのに。
ちなみに、キーリエさんは私が聖教勇者連盟に連れ去られた時は私とエルの逮捕は不当だとして学園中に同意を求めていたらしい。おかげで王様批判にまで繋がったようだからかなり危ないことしてる。
私のために怒ってくれたのは嬉しいけど、あんまり無理しないでほしいよね。
「私達も去年の遅れは取り戻したいのです」
「そういうことなら構いませんわ。ハクさんもそれでよろしいかしら?」
「まあ、いいんじゃないですか? 人は多い方が捗りますし」
「ありがとうございます!」
なんだかいつの間にか私まで参加する流れになっている。
まあ、別にいいんだけどね。上を目指すのはいいことだし、私のせいで降格させたようなものだから私が率先して勉強に力を貸してあげなければだめだろう。
しかし、となると参加するのはシルヴィアさんとアーシェさん、ミスティアさんとキーリエさん、それにカムイ。それに私達を加えて8人かな? だいぶ多いな。
やるとしたら図書館か食堂あたりになりそう。あるいは、私の家でもいいかもしれないけど。大部屋もあるし。
主役であるはずのカムイがいないのに盛り上がっているみんなを見ながら、私は勉強会のプランを考えていた。
感想、誤字報告ありがとうございます。




