幕間:魔法創造の能力2
聖教勇者連盟のとある転生者の視点です。
魔法創造はイメージさえできればどんな魔法も作り上げることができる。だから、私は数多くの攻撃魔法を作り出してきた。
攻撃魔法だけではない。ちょっと便利そうだからと生活で使えそうな魔法も数多く作り出し、今では多くの人がその魔法を使って生活している。
しかし、私は本当の意味でどんな魔法も作れるということを理解していなかったのかもしれない。
「魔力を増やす魔法、ですって?」
「そう。その手があったかと思ったんだけど、どう? 作れそう?」
「……やってみる」
魔力を使う魔法で魔力を増やそうとするなんて前代未聞だ。
そもそも、魔法は魔力を消費することによって再現されるものである。それなのに、魔力を増やそうとするなんて誰が考え付くだろうか。
最初はできないだろうと思ったが、万が一があるので試しにやってみたところ、普通に作ることができた。
と言っても、永続ではなく、一時的に魔力の最大値を増やすと言うもののようだが。
だがそれでも、今まで魔力の少なさがネックで使えなかった魔法を使えるようになったと考えると画期的な発明である。
「できた……」
「おお、やっぱりできるんだ。よかったね、これでもっと色々な魔法が使えるんじゃない?」
「うん……!」
私は気が付けば涙していた。
魔法は作れるけど使えない魔術師。それを馬鹿にする人もいたし、私を利用しようとする者もたくさんいた。
けれど、魔力の量が増えるのなら、私自身も戦うことができる。今までのように、魔法を作るだけの役立たずではなくなるのだ。
そのことが嬉しくて、しばらくの間涙が溢れて止まらなかった。
「魔法創造は思った以上に有用な能力かもしれないな。序列の上昇もあるかもしれないぞ」
「い、いや、それはいいわ。私は今の順位で十分」
「そうか? 活躍できないのを嫌がっているように見えたんだが」
確かに、活躍はしたかった。けれどそれは、そうしなければ私の居場所はないと思っていたからだ。
私自身の能力は普通の魔術師並。まあ、それでも冒険者くらいにはなれるかもしれないけど、この能力だけで生活していけるとは思っていなかった。
聖教勇者連盟にいる限り衣食住は保証される。私のような役立たずでもそれなりに贅沢な生活ができるのは聖教勇者連盟と言う組織にいるからこそだ。
だけど、自分の能力を見出した今、聖教勇者連盟に留まり続けなくても生きていくことはできるだろう。搾取されるだけではない、本当の意味での自由が手に入る気がする。
「私は、出来ることなら世界を見て回ってみたい。前は不安で一歩が踏み出せなかったけど、今ならその一歩が踏み出せそうな気がするの」
「と言うことは、自由グループに移るのか?」
「……希望はね」
今の聖教勇者連盟は対竜グループが解散し、その人員は戦闘グループと自由グループに分けられている。その他、この先セフィリア聖教国を背負っていく為政者としての道を希望する者や、連絡員として情報を管理する者もいる。
私はその能力を買われて一応戦闘グループに所属していたけど、碌に戦わない人が戦闘グループにいてもしょうがないだろう。だったら、世界の情勢を調べるという意味で旅をできる自由グループに所属した方がいい気がする。
「なら、後でコノハに聞いてみるか。まあ、今の聖教勇者連盟はだいぶ意見が通りやすいし、案外あっさり許可は下りると思うぞ」
「そんなにうまくいくかしら」
「多分な。だが、エリスがいなくなるのは少し寂しいな」
以前の聖教勇者連盟だったらそもそも異動と言う選択肢すら思い浮かばなかっただろうが、今なら素直に考えることができる。
まあ、うまくいくにしろいかないにしろ、行動を起こすことは大事だろう。
コノハは不愛想ではあるけど、割と人情に厚い人だ。きっと何とかしてくれる。
その後、トール達を伴って異動を申し出たところ、あっさりと受理された。
というか、こうして異動を申し出る人は結構いるらしい。今までは助けてくれた恩義に報いるためにがむしゃらに働いていた人達も、急に人が変わったかのように自由を求めるようになった。
思えばそれはハクが来た頃から起こり始めた現象だけど、もしかしたらあの竜の巫女が何かしたのかもしれない。
まあ、それを悪いとは思わない。自由を求めることは何も間違ったことではないし、むしろ第二の生を受けた私達としては今世こそ自由に生きたいと願うのは当然のことだ。
聖教勇者連盟と言う最高の後ろ盾がある今、旅をするには絶好の機会かもしれないわね。
「あ、おい、前の魔法はどうなったんだよ?」
旅をしようと荷物をまとめていると、そこにエムリがやってきた。
そういえば、また新しい魔法を作ってくれと頼まれていたのを忘れていたな。
自由グループに移ったとはいえ、広義の意味ではまだ仲間である。相手が戦闘グループとしての力を求めている以上、それに応えるのは義務だ。
しかし……。
「悪いけど、私はもうあなたの魔法は作らないわ」
「は? 何言ってんだよ。お前の取り柄はそれしかないじゃんか」
「まあね。でもいい加減疲れたの。エムリ、あなた今まで私にいくつ魔法を作らせてきたと思う?」
「え? そりゃあ……50個くらいじゃないか?」
「桁が二つ足りないわ。1000個。他の人に作った魔法を除いて、あなただけのために作った魔法はそれだけあるの。これがどういう意味かわかる?」
学校で学んでいる時から、こいつは私に魔法を作ってくれと何度も強請ってきた。
もちろん、最初は私も頼られるのが嬉しくて快く作ってあげていた。けれど、成長して実際に魔物を狩るようになってからはその要求はどんどんエスカレートしていった。
確か、つい先日作ってくれって頼まれたのが、世界を一瞬で凍り付かせる魔法、だったかしら?
そんなもの、実際に使ったらやばいことくらい子供でもわかる。確かに外見上はまだ10代ではあるけど、彼もまた転生者だ。精神年齢は少なくとも20歳を超えているはず。
それなのにこれだ。もう頭の中お花畑としか思えない。
しかも、作ってやってもすぐに飽きて別の魔法をせがんでくる。酷い時では作った次の日にまた魔法を作ってくれと言われたこともあった。
確かにエムリは魔力無限でどんな魔法も使えるかもしれない。でも、それはすべての魔法を使えるということにはなりえない。
私が作った魔法を大事にせず、使い捨てるような奴に作る魔法などもうないのだ。
「どういうって、俺の想像力が凄いってことか?」
「そう思うならそう思ってなさい。けど、私はもうあなたのために魔法は作らない。そう決めたの」
「何勝手にそんなこと決めてんだよ。お前の力を最大限に活用できるのは俺だぞ? 俺のために魔法を作るのがお前の一番の活躍だろう?」
「ふざけないで! 1000個も魔法が使えればどんな相手だって倒せるわ。それでも倒せないような敵が出てきたならともかく、一回使ったら使い捨てるようなあなたに作る魔法なんてもうない。恥を知れ」
「ちぇっ、何そんなに怒ってんだよ。いいよ、そんなに言うなら頼まない。でも、どうせお前は魔法を作るしか取り柄がないんだ。きっとその内俺のありがたさに気付いて泣いて縋ってくることになるだろうよ」
「どんなことがあってもそれだけはないわ」
「ちっ、このクソアマが」
そう言って去っていくエムリ。
今まで我慢してきたことが言えてすっきりした。
私は旅人。気ままに世界をさすらって、いろんなものを見聞きしていく。うまくいくかはわからないけど、少なくとも私はもう落ちこぼれじゃない。
救ってくれた恩があるから聖教勇者連盟を抜けることはしないけど、もうここに戻ることは多分ないだろう。
私は新たな人生の始まりの一歩を踏み出したのだった。
後日、風の噂でエムリが順位を転落させたことを聞いた。
どうやら、私が常に供給していた魔法がなくなったことで、碌に魔法を使えなくなったらしい。
今まで教えた魔法があるのだから大丈夫と思っていたけど、常に新しいものを求めるあまり覚えた傍から忘れていったようなのでほとんど魔法は覚えてなかったようだし、既存の魔法もほぼ詠唱を覚えられないしで、魔力ばかりの無能として役立たずの烙印を押されたようだ。
今更あいつのことをどうとかは思わないけど、いい気味だと少し胸がスカッとした。
感想、誤字報告ありがとうございます。




