幕間:魔法創造の能力
聖教勇者連盟のとある転生者の視点です。
聖教勇者連盟に所属するメンバーには序列と言うものが存在する。
魔物を倒すことが目的なので、重要視されるのは主に戦闘能力だ。戦闘能力が高ければ序列が上がり、逆に低ければ下がる。
そんな序列の中で、私は大体真ん中くらいに位置している。
そんなに悪くないように見える? でも、これは聖教勇者連盟全体の中での序列だ。順位で言うなら270位とかその辺である。
それに、聖教勇者連盟のメンバーはなにも全員が転生者と言うわけではない。元から才能を持った優秀な現地人もいる。
確かに現地人の能力も高くはあるけど、私達転生者が持つ能力と比べたらだいぶ劣る。それなのに、転生者である私は彼らよりも順位が低いのだ。
私が持つ能力は魔法創造。思い浮かべさえすればどんな魔法でも作りだすことができるという能力。
その気になれば、隕石を降らせたり大津波を引き起こしたりする魔法だって作れる。他の転生者が授かった能力と比べても遜色ないくらい強力な能力だろう。
そんな能力を持っているのになぜ順位が低いかって? その理由は私の魔力量にある。
私の種族はショーティー。小人族だ。
ショーティーは人間に比べて若干魔力が多い傾向にあるが、私の場合は本当に平凡な量しかなかった。人間と比べてみても、ちょっと優秀程度のものである。
魔法を使うためには魔力が必要であり、強力な魔法ほど多くの魔力を消費する。つまり、並程度の魔力しか持たない私はいくら強力な魔法を作ったところで使えないのだ。
使えるのは初級や中級に分類されるものばかり。万全の状態なら一発くらいなら上級魔法も使えるかもしれないけど、一発撃ったら気絶してしまうような奴が戦闘で活躍できるはずもなく、順位を下げる要因になっているというわけだ。
まあ、別に順位に関しては割とどうでもいい。私は元からそんなに戦闘は好きではないし、順位が低ければよほど忙しくない限り戦闘に駆り出されることはあまりないから助かっているくらいである。
しかし、どうしても許せないことが一つある。それは、魔力無限のチートを貰った転生者、エムリの存在だ。
「お、こんなところにいたのか。なあ、また新しい魔法を思いついたんだけどさ、お前の力で形にしてくれね? お前なら簡単にできるだろ?」
そう言ってエムリは私の肩に馴れ馴れしく手を回してくる。
私は魔法を作ることができるが、何もそれは必ずしも自分で使わなくてはならないという決まりはない。魔法として形にしてしまえば、後は詠唱を覚えれば魔力さえあれば誰にでも使うことができるのだ。
魔力無限のエムリが使えばそれこそどんな魔法でも使うことができるだろう。さっき言った隕石を降らす魔法でもなんでも思いのままだ。
私はそれがたまらなく悔しかった。
自分の魔法なのに、自分では使うことができない。それどころか、生意気な後輩に魔法の作成を強要され続ける日々。
そもそもの話、この世界の魔法はイメージさえできれば大抵の魔法は作ることができる。もちろん、それには正確なイメージが必要だし、詠唱も考えなければいけないから大変ではあるけど、それなら私の能力いらないじゃんっていう話だ。
なぜ私は魔法創造なんて言う能力を欲しいと思ってしまったんだろう。エムリのように魔力無限の能力を望んでいれば、もっと活躍できたかもしれないのに。
「いつも言ってるけど、思いつくなら自分で作ればいいじゃない。それくらいできるでしょ」
「えー、だってめんどいじゃん。それよりお前に頼んだ方が何倍も楽だし、お前も仲間の役に立てて嬉しいだろ?」
嬉しいわけない。こんな搾取され続けるだけの日々を送るくらいならいっそのこと逃げ出したいくらいである。
いや、正確にはこいつの使ってやってるんだからありがたく思えと言う態度が気に入らない。他の子みたいに、感謝してくれるのだったらまだやる気も出るが、こいつから感謝の言葉を貰ったことは一度もない。
こいつは私をいいように利用しているだけだ。地獄に落ちればいいのに。
「なぁ、作ってくれよ。こんな感じの魔法なんだが」
「……今は気分が悪いから後にして。メモにでも書いて私の部屋に届けてくれればやっとくから」
「そうか? なら後で頼むわ」
エムリは私の体調を気遣うこともなく去っていった。
はぁ、ホントにイラつく。でも、あんなのでも序列上位の強者、よく前線に立っている人物だ。
聖教勇者連盟の仕事を遂行するためにも、戦闘員の話はなるべく受け入れなければならない。それで戦力が向上するならなおさらだ。
あんな奴、私が魔法を教えなければそこまで……いや、魔力が無限だから汎用の上級魔法もポンポン使えるだろうし私よりは強いか。
せっかく転生したっていうのについてない。転生ものっていえば、神様からチート貰ってそれを使って無双するお話が鉄板でしょう? なんで私だけこんな目に……。
「あ、エリスじゃん。こんなところでどうしたの?」
ぶつぶつと文句を言っていると、不意に話しかけられた。
顔を上げてみると、そこにいたのは先日ミズガルズの討伐依頼を受けに行った三人が立っていた。
もう少しかかると思っていたけど、もう帰ってきたのか。
今回は助っ人として竜の巫女であるハクが参加したという話だったけど、彼女が相当強かったってことなのかな?
まあ、別にそんなことはどうでもいいけど。
「お帰り。別に、ただ風に当たってただけよ」
「さっきエムリが歩いていくのが見えたけど、またなんか言われたの?」
「……」
「その様子じゃ図星みたいだね」
「……また新しい魔法を作ってくれって言われただけよ」
「ああ、やっぱり? 先週作ったばっかりだったよね? それなのにまた新しい魔法を頼むとか、少しは遠慮すればいいのに」
三人のうちの一人であるリクリアは両手を広げてやれやれと言った様子で呟く。
私はどんな魔法でも作り上げることができる。それこそ、エムリが言う子供が考えたような、「ぼくがかんがえたさいきょーのまほう」だって作ることができる。
でも、私はそういうのは作らない。なぜなら危険だから。
例えば、触れただけで相手が死ぬなんて魔法を作ったらどうなるか。魔物が楽に倒せて便利? んなわけない。絶対増長するに決まってる。
今まで強請られて作ってきた魔法も、やりすぎないようにセーフティをかけてある。
魔法は危険なものだ。持つ者が持てば世界を支配しうる力にもなる。
まあ、転生者の中にはそういう夢を持つ人もいるけど、私はそんなの馬鹿のすることだと思う。
大体、一国を収めようとしたって絶対に反対意見は出るし、何ならクーデターとかも起きる。それなのに、全世界を支配しようなんておこがましすぎる。そんなの、やったところでいずれ滅ぼされるだけだ。
でも、エムリはそれをわかってない。世界征服、とまではいかなくてもよりかっこいい魔法を、より強い魔法をとドンドン貪欲になっていっている。
あれはいずれ滅びるタイプの思想だ。そんな頭お花畑の奴に巻き添えを食らうなんてごめんこうむる。
でも、完全に拒否してしまうと私の立場が危うい。ここを追い出されたら行く場所がないから。
何事もままならないものである。
「それより、依頼はうまくいったの?」
「ああ、うん、一応ね。……そうだ、ハクから君にあるアドバイスを貰ったんだけど」
「アドバイス?」
私はハクとはあまり面識がない。集会の時にちょっと会ったくらいだ。
相手も私の事は知らないはずだけど、それなのにアドバイス?
私は訝しげに思いながらも、その話に耳を傾けた。
感想、誤字報告ありがとうございます。




