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第五百三十九話:竜人の保護

「さて、それじゃあ話は戻るけど、何が欲しい?」


「えっ?」


 ローリスさんの言葉にきょとんとしてしまう。

 そもそも、私が欲しいものとして要求したのは竜脈を整備するための魔法であって、すでに要望は伝えられたはずだ。

 それなのに、なんでまたその話が出てくるんだろう?


「竜脈を整備する魔法ですが……」


「それはこっちも色々要求しちゃったからお詫びにはならないでしょ。だから、他に欲しいものはない?」


 まあ、確かにお詫びとして受け取るはずなのに、いつの間にか竜との取引の話になっていたからこれではお詫びにはならない、のか?

 謝るつもりはないと思っていそうなのに、そういうところはしっかりしているというか、なんというか。変なところで律儀だね。

 さて、他に欲しいものと言ってもなぁ……。

 まあ、ここの食事はとてもおいしいし、ぜひともお姉ちゃん達にも食べさせたいと思っているけど、料理だけもらって帰るとかでもいいんだろうか。

 なんか最初に比べると規模がしょぼいけど、別にわざわざ話を大きくする必要はないし、それでもいい気はする。

 でも、別にここでお詫びとしてもらわなくても自分で買えばいいだけの話だし、それは流石にもったいないかな?

 せっかく皇帝から何でも言っていいと言われているのだから、もう少し有意義な事に使った方がいい気もする。だけど、そう言われると特に思いつかない。

 うーん……。


「ハクお嬢様、思いつかないのであれば私から一つお願いしてもいいですか?」


「え? う、うん、いいよ」


 考えていると、エルが隣から小声で話しかけてきた。

 まあ、私としては直近で気になるのは聖教勇者連盟のことくらいだし、それに関しては竜達の協力のおかげで何とかなりそうだから頼むこともない。またここのご飯を食べたいなと言う俗な頼み事しか思いつかないので、そのままエルに任せた。


「貴様の国は人以外の転生者を保護しているのだったな」


「ええ、その通りよ。まあ、場合によってはその仲間や家族なんかも保護しているけどね」


「ならば、竜人も受け入れているのか?」


 エルの質問で、なんとなく意図がわかった。

 現在、竜人は昔竜の眷族として人に抗ったとして迫害の対象になっている。私達竜はそういった竜人を保護し、竜の谷で匿っているのだ。

 しかし、いくら竜の谷が広大とは言っても竜人が住めるような場所は限定されており、このままのペースではいずれ破綻してしまうことは容易に想像できる。

 しかし、そこに新たな居住地が出来れば?


「ええ、もちろん。中々珍しいけどね」


「ならば、転生者以外の竜人の保護は可能か?」


「普通の竜人ってこと? 出来るけど?」


「では、今後傷ついた竜人を見かけることがあったら保護してやってほしい。彼らは我々竜の被害者と言ってもいい」


「ああ、なるほどね」


 竜人は竜と人の間に生まれる。大抵の場合、竜の魔力が濃すぎるので生まれる子供は必ず竜人となってしまうから、その時点で片親は必ず竜となる。

 本来、竜人は戦いとは無縁のはずだった。それなのに、お父さんが魔王と間違われたおかげで竜側に着く羽目になり、結果人族の社会から追放された。

 見方を変えれば、竜人は竜のせいで人族から爪はじきにされたとも言える。竜の谷に住む竜人達は皆竜の事を慕っているけど、竜に対して恨みを抱いてもいいような境遇なのだ。

 竜が竜人を保護しているのは罪滅ぼしのようなものではあるが、竜達も竜人に人族の社会に溶け込んでほしいと思っている。しかし、竜の谷に住んでいる以上、竜の影がちらついてとてもじゃないけど社会復帰などできない。

 だから、魔物とはいえ人族のような社会を形成しているここに保護されれば、多少なりとも今後の役に立つのではないかとも思うわけだ。


「いいわよ、保護してあげる。転生者でなくとも、理不尽に社会から拒絶されている人を救うのは私達の役目だしね」


「なら、願いはそれで構わない」


「おっけー。それじゃあ、これでチャラってことで」


「勘違いするな。詫びは受けるが、貴様のことを認めたわけではないからな」


「あらあら、嫌われちゃったわねぇ」


 竜人のための新たな居住地。確かにそれは思いつかなかった。

 竜の谷に住む竜人達はみんな幸せそうだから、あそこがすべてと思っていたけど、確かにあそこだけに閉じ込めておくのは可哀そうだよね。

 ここならば、国内に限ればどこへでも行くことができるだろうし、いろんな人とも交流ができる。

 流石、エンシェントドラゴンのまとめ役だけあって視野が広いね、エルは。


「それで、もう帰っちゃうの?」


「えっと、少しお買い物をしてから帰ろうかと。ここの料理はとてもおいしかったので」


「料理くらいならお土産としてあげるけど? 特にお米にはご執心だったようだし」


「い、いいんですか?」


「初めからそのつもりだったから問題ないわ。お客さんには気持よく帰ってもらわないとね」


 昨日襲った件がなければ凄くいい人に見える。

 ほんと、これで変態じゃなかったら凄くいい皇帝なんだろうけどなぁ……。残念でならない。


「それじゃあ、取引の件は後でこれで連絡して。使い切りの魔道具だから、間違って使っちゃったりしないようにね」


 そう言って渡してきたのはかなり小さい通信魔道具だった。

 通信魔道具自体はあるけど、ここまで小型なのは初めて見たかもしれない。

 性能がいいものになるといずれも魔石の大きさの関係で巨大になっていくから、持ち運びが大変なんだよね。

 ここまで小型だと範囲も狭そうだが、その辺りは大丈夫らしい。使い切りの代わりにどこからでも繋がるようになっているのだとか。

 こういう魔道具を簡単に作れちゃうあたりがこの国の凄いところと言える。

 どうやらここは隠れ里みたいなものだからやらないようだけど、大陸を征服していてもおかしくないんじゃないかな。


「それと、困ったことがあったら何でも言って。あなたがちょーっと私のお願いを聞いてくれたら手を貸してあげるわ」


「は、はは、ありがとうございます……」


 お願いって、絶対襲うつもりだろ。

 百歩、いや、一万歩譲って襲うのはいいとしても、私の事を完全に無力化した上で襲うのはやめてほしい。

 あんな何の抵抗も許されないまま襲われるなんて怖すぎる。せめて、私も反撃できるくらいの力があれば逆に襲い返すくらいはできるのにと何度思ったか。

 いや、実際にはそんなことできないと思うけど、気持ち的にね。

 こんな技術大国のコネを手に入れたと思えばいいことだけど、このコネは絶対に使われることはないだろうな。


「それじゃあ、この話はおしまい。帰る時は言ってね、送らせるから」


「はい、ありがとうございます」


 話し合いが終わり、広間を後にする。

 なんだかんだで、話はいい方向に転んだだろうか。

 まだ完全に決まってはいないとはいえ、この国の竜脈を整備する代わりに物品の調達を請け負ってくれるとのことだし、まだ見ぬ世界にいる竜人達の保護も請け負ってくれることになった。

 竜にとっての懸念事項がだいぶ片付き、私としては満足いく結果になったと思う。

 まあ、そのきっかけが変態皇帝に襲われるっていう最悪な始動だったのがちょっとあれだけど、結果よければ良しとしておこう。

 私は部屋に戻って帰りの支度をしながら、ほうと息をついた。

 感想ありがとうございます。


 これで第十五章は終了です。幕間を数話挟んだ後、第十六章に続きます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 変態な所以外は評価できる( ˘ω˘ )
[良い点]  やた、ペド皇帝は律儀であった!そして魔物の国は竜人たちの新たな受け入れ先に(´ω`)良き落とし所でした。 [気になる点]  ハクさんペド皇帝を見直してるけど「繋ぎを作っておけば、またチャ…
[一言] また一人大物の知り合いが増えましたね ある意味征服のような感じです
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