第五百三十七話:謝罪と賠償
翌日、私達は広間にてローリスさんと相対していた。
未遂で終わったとはいえ、一歩間違えれば性的に食われてしまっていたわけで、そのことに対してエルが激怒し、私に対して謝罪と賠償を要求したのだ。
私としては、結果的に大丈夫だったから別に少し謝ってもらえればそれでよかったんだけど、エルとアリアはそれではぬるすぎると反対し、詫びるつもりがあるなら誠意を見せろと相手に迫ったわけだ。
ローリスさんもウィーネさんも私を襲ったことに対しては特に何とも思っていないようだったが、詫びるつもりはあるらしく、何でも好きなものを要求すればいいと言ってきた。
ただし、調子に乗って論外なものを要求するようならこちらとしても容赦はしないとしっかり威圧もしてきた。
今回の場合、私は完全に被害者なわけで、加害者であるローリスさんの態度はいかがなものかと思うけど、まあ流石に死んで詫びろ、とか言われたら飲むわけにはいかないもんね。そこは皇帝として、最低限譲れないところがあるんだろう。
「それで、何が欲しいの?」
「貴様! まずは謝罪が先だろう!」
翌朝落ち着いてからこうしてきたわけだが、ローリスさんもその傍らに控えるウィーネさんも全く悪びれる様子がない。一応相手の話は聞くけど、どこが悪いのかわかっていないような反応だ。
エルがブチ切れているけど、それにも笑顔を張り付けて何のその。
怯みすらしない。何というメンタルの強さだろうか。
「あーはいはい、ごめんなさいね」
「なんだそのふざけた謝り方は! 土下座しろ!」
「えー、膝が汚れるから嫌」
「ブチ殺すぞ!」
エルが怒りすぎて我を失っている。
こんなに怒っているエルを見たのは初めてかもしれない。
周囲はその感情に引っ張られるように急激に温度を下げており、今にも氷点下を越えそうな勢いだ。
実際、エルが本気を出せばこの場を一瞬で凍り付かせることもできるんだろうが、ある一定の温度からは下がらないようである。
恐らく、ウィーネさんが止めているんだろう。エンシェントドラゴンの冷気に対抗するとかほんとにただのワーキャットか? いや、転生者だからただのではないけど、普通ワーキャットってそんなに魔力持ってないぞ。
「まあまあ、エル。私は大丈夫だから」
「ですが、ハクお嬢様! こいつら全く反省の色が見えませんよ?」
「皇帝なんだから、そう簡単に頭を下げちゃだめなんだよきっと。私のために怒ってくれてありがとうね」
「ハクお嬢様、なんとお優しい……」
流石にこのまま冷蔵庫の中状態なのは私もつらいので、エルには少し怒りを鎮めてもらう。
恐らく、ローリスさんもウィーネさんも絶対に謝ることはないだろう。何が悪いのかわかっていないのに無理矢理謝らせても意味はない。
しかし、二人とも転生者なのだから、真っ当な価値観を持っていれば普通に犯罪だってわかりそうなものだけどな……。
もしかしたら、そういう犯罪が当たり前だった様な所から来たのかもね。
「健気ねぇ。怖がってくれないのはちょっと残念だけど、今度はちゃんと味見してみたいにゃあ?」
「ひえっ……」
「次に手を出してみろ、私のみならず竜のすべてがこの国を滅ぼしに来るぞ!」
「おー怖い怖い。それは流石に面倒だからこれ以上は手を出さないわ。まあ、求められた場合は別だけど?」
普通、竜の大群が攻めてくるなんて言われたら震え上がりそうなものだけど、面倒の一言で片づけるとは……。と言うか、その言い方だと例え竜の大群が来たとしても対処できるって言ってるようなものだよね。
確かにこの国に住む住人はほとんど魔物のようだから、その辺の国よりは強いだろうけど、あの聖教勇者連盟すら軽くひねることができる竜をどうにかできるってかなりやばいのでは?
本当に得体が知れない。転生者の中でも、トップクラスにやばいチートを持っているだけはある。
「それで、私は何を支払えばいいのかしら? お金? それとも技術とか?」
「それは……」
賠償に関しては特に考えていなかった。
昨日は襲われた恐怖で震えていたし、賠償に関してはエルが言い出したことなので私は考える暇がなかった。
いざ何か貰えると言われても、特には思いつかない。お金なんて貰ってもしょうがないし、技術に関しては少し欲しいけど私一人で再現できるものでもないし。
さて、どうしたものか。
「……そういえば、この国では竜脈の整備はどうやっているんですか?」
「竜脈? ああ、土地の魔力のこと? それならウィーネが調整しているけど」
「ウィーネさんが?」
昨日聞きそびれていたことを聞いてみると、そういう答えが返ってきた。
確かにウィーネさんは私よりも魔法の扱いがうまいし、竜脈の魔力に関してもある程度は対処できるのかもしれない。
ただ、竜脈の整備は本来かなり危険なものだ。調整中は竜脈に流れる魔力に意識を埋没させてしまうため、下手をすればそのまま戻ってこられずに植物人間状態になることだってある。
もちろん、竜はそれらの制御を子供の頃から学んでいるし、よほどのことがなければ失敗はしないが、危険なことに変わりはない。
私だって、ホムラの助けがなければ意識を吸われていたかもしれないのだ。それを、竜に頼らず個人の力で調整しているとなるととんでもないことである。
一体どんな絡繰りを使っているのだろうか。それとも、ただ単にメンタルが強いだけだろうか。
「どのように調整しているんですか?」
「簡単なことだ。一定のポイントごとに中継点を用意し、そこを回って魔法で干渉するだけ。まあ、少々魔力消費が大きいのが玉に瑕だが」
ウィーネさんによると、竜脈の流れに沿って一定の間隔で位置を決めて置き、その場所に順番に魔法を使うことで魔力の流れを整え、調整しているということらしい。
竜脈の魔力は魔力が濃い場所に向かって流れようとする特性がある。だから、中継点ごとに専用の魔法で魔力の濃い場所を作ってやることによって流れを誘導しているということだ。
この方法は中継点に向かって魔法を放つだけで済むので、竜がやっているような意識を繋げて調整する方法と違い取り込まれるリスクが少ない。未熟な竜からすれば画期的な方法と言えるだろう。
ただ問題もあり、竜脈の規模によっては中継点が膨大になりすぎて移動がつらいという点がある。ウィーネさんも、調整を行っているのはごく一部のようで、碌に調整されていない地域もあるようだ。
ただそれでも、一部だけでも完璧に仕上げているので流れによってある程度は均されており、魔力過多で強力な魔物が大量発生するようなことにはなっていないようだった。
その他にも、竜脈の流れを直接見ているわけではないので本当に調整されているのかどうかはわからなかったり、一発一発の魔力消費が多すぎて調整には数日単位の時間がかかるだとか色々問題点はあるようだが、それらはすべて竜ならば解決できそうな問題ばかりだった。
だって、竜なら移動手段には事欠かないし、魔力だって豊富にあるから魔法も撃てるし、竜脈の流れも見ることができるから調整できているかどうかはすぐにわかる。
むしろ、この国の竜脈をたった一人で整備しているウィーネさんが化け物と言えるだろう。
この技術を得ることができれば、竜脈の整備は相当楽になる。不測の事態で竜が意識を持っていかれることもなくなるだろう。
その魔法を教えてもらうというのも一つの手かなと、私は思案していた。
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