第五百三十五話:目が覚めたら
別の意味で緊張した夕食を終え、お風呂をいただいた私は部屋へと戻ってきた。
お風呂は露天風呂と言う最高のロケーションで、おかげで夕食の時の緊張はほぐれたが、結局あの後あまり話せなかったので竜脈のことについて聞きそびれてしまった。
まあ、今日はこのまま泊るつもりだから別に明日でもいいんだけど、出来れば和やかな雰囲気で話したいので早めがいいなぁと思っている。
すでに夜も深まる時間帯、お城だけあって惜しげもなく使われている光の魔石によって部屋は明るいが、あんまり使い続けるのももったいない。今日のところはさっさと寝てしまおうか。
「エル、一緒に寝る?」
「いいんですか!?」
「う、うん、いいけど……」
「やった! もちろんご一緒させていただきます!」
私の何気ない発言にエルが喜びの声を上げる。
別に、学園の寮でも一緒の部屋なんだから一緒に寝ていると言えばいるんだけど、いつもはサリアがいるから中々はっちゃけられないらしい。
アリアがいるから二人っきりってわけではないが、それでも私を独り占めできるのは嬉しいことなのだとか。
まあ、たまにはね。あんなこと聞かれたわけだし、まだ少し気にしているのかもしれない。
「さあ、一緒に寝ましょう! さあ!」
「あ、うん」
エルはベッドの中に入り、布団を捲ってバンバンと横を叩いている。
隣で寝ろって意味か。
一緒に寝るってそういうことじゃないんだけど……まあいいか。今更だし。
私はふぅとため息をついて横に潜り込む。
エルは氷竜だからか体温が低めだけど、それでも布団に入れば暖かい。と言うかこの布団、かなりの高級品だな。
寮で使っているものも割といいものだけど、これはシルクのような肌触りでさらに高級感がある。
これならいい夢見られるかな。
「それじゃあ、おやすみ」
「お休みなさいませ」
「おやすみー」
明かりを消し、目を閉じる。
ほどなくしてエルの寝息が聞こえ、私も微睡みに落ちてきた。
明日は、色々な人の話が聞けたらいいな。
眠りに落ちてからしばらくして、私は違和感を感じて目を覚ました。
目を開けると、そこは薄暗い部屋の布団の上。私は布団をかぶって寝ていたはずだが、なぜか今は布団の上にいた。そして、なぜだか一緒に寝たはずのエルの姿が見えない。アリアもいない。それに何より、身に着けていたはずの寝巻がなく、私は生まれたままの姿を晒していた。
「なっ!?」
状況が飲み込めず、思わず固まってしまう。
この状況、私は恐らく寝ている間に別の部屋に移されたのだろう。とっさに探知魔法を使ってみたが、エル達は少し離れた場所にいることがわかる。
だが、私はいつも寝る時は何かあったらすぐ起きられるように常に警戒している。もちろん、家にいる時はそこまでではないけど、ここは他国の城の中、当然家にいる時よりは警戒していたし、誰かが部屋に入ってこようものならすぐに気付けたはずである。
なのに、さっき起きるまでまるで移動させられたことに気が付かなかった。異常事態である。
しかも、なぜか裸にされているし、私は一体何をされているんだろう。
ふと、夕食の時のローリスさんの台詞が思い浮かぶ。
私が生殖活動ができるかというよくわからない台詞。まさかとは思うが、私を性的に襲う気なんだろうか。いや、むしろもう襲った後……?
い、いや、別に股とかに違和感はないし、まだ襲われてはいないはず。
とにかく早く部屋を出ないと、そう思って立ち上がろうとしたが、なぜか体に力が入らない。
な、なんで? 私どうなっちゃってるの!?
「あら、起きちゃったの?」
「だ、誰!?」
「ふふ、そう怯えないで。私よ、私」
そうして枕元に現れたのは、全裸の皇帝ローリスさんだった。
しかも、今は胸に巻いていたさらしすらなく、本当の意味で全裸である。
ま、まさかホントに襲う気なの……?
私は体が動かないことも相まって恐怖していた。
「そんなに不安そうな顔して……可愛いにゃあ」
そう言って、私の上に跨ってくる。
ローリスさんの全身を覆う毛並みがモフモフして気持ちがいい。しかし、そんなこと考える余裕は微塵もなかった。
「精霊ってことは、その姿から変わらないんでしょう? 永遠の幼女なんてなんて素晴らしいことかしら」
「ろ、ローリスさん、一体何をする気ですか……?」
「何をするかって? それは……今から身体で教えてあげるにゃん」
そう言って私の身体をまさぐってくる。
私の身体は言いたくはないが7、8歳くらいの身長しかない。本当の肉体年齢はどれくらいかわからないが、成長しない体なのでまあそれくらいの肉体年齢と言ってもいい。
当然、胸もあまり成長していないし、大事なところに毛が生えたりもしていない。言うなれば未熟な体だ。
そんな身体をあちこちまさぐって、私が嬌声を上げる度ににやりと意地の悪い顔をしている。
抵抗しようにも、体に力は入らないし、魔法を使おうにも集中力を乱されてなかなか魔法陣を思い浮かべられない。ならば【竜化】して、とも思ったが、なぜかそれもできなかった。
それらが封じられてしまえば、私はただの幼女に過ぎない。されるがままに蹂躙され続けるだけだった。
「な、なんで、【竜化】できないの……」
「今のハクはスキルを封じているからスキルに頼ったことは何もできないにゃん」
「スキルを、封じた……?」
「正確にはスキルを使えないというスキルを付与した、と言った方が正しいけどね」
どうやら、私の【竜化】はスキルの一つらしい。その他、身体能力を底上げする系のスキルも使用不能になっているので、能力が一気に落ちているようだ。
もちろん、ただそれだけでは動くことくらいはできるだろうが、ローリスさんはそれ以外にもいくつかの弱体化スキルを私に付与しているらしく、そのせいで動けないということらしい。
付与、と言うだけなら、エンチャント系の魔法と言うものがあり、魔法の力を武器等に付与するということはできるが、スキルを付与と言うのは聞いたことがない。
そもそもスキルは先天的に授かるか、修行などによって身に着けるしか方法はない。それを、マイナススキルとはいえ付与できるというのは前代未聞である。
いや、恐らく付与できるのはマイナススキルだけではないだろう。最初にやっていた【擬人化】も恐らくはこの付与の能力で付与された能力だ。
付与できるスキルがどれほどなのかは知らないが、一部だけでも付与できるというだけで凄いことである。それを利用すれば、この通り竜である私ですら何もできないありさまだ。
恐ろしい能力である。なんとか脱出口を見つけないと……。
「なんで、こんなことするんですか……」
「ふふ、私は小さな子をこうして調教するのが大好きなの。あなたを見た時、これだってビビッときたわ。でもあなた、私の事を避けていたでしょう? だから、ウィーネに頼んで連れてきてもらっちゃった♪」
息を荒くする私の姿に恍惚とした顔を浮かべるローリスさん。
この人、変態だ……!
全裸な時点で大概だったけど、本物の変態だった。
まずい、このままでは貞操の危機だ。な、何とかしないと……でも、魔法も使えず、【竜化】もできずにどうやって……。
「大丈夫、痛いことはしないから、すべて私に任せるといいにゃん」
「ひっ……!」
目に涙が溜まっていくのがわかる。
私の頭の中は恐怖に染まっていった。
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