第五百三十四話:夕食の席で
しばらくして、夕食の準備が整ったということで食堂に呼ばれた。
食堂は畳敷きの部屋に座布団と低いテーブルという料亭の宴会部屋のような感じで、それぞれの席には小さな鍋とみそ汁、そしてご飯が盛られた茶碗が置いてある。
私はその様子に「おお」と感嘆しながらも案内されるがままに席に着く。
ちなみに、この城はほとんどの場所が土足厳禁だ。なので、今は裸足で歩いている。別に畳敷きの部屋に土足で入ったわけではないからね。
「こんばんは。昼に会って以来ね」
食堂にはすでにローリスさんとウィーネさんがいた。
二人の分の食事もあるから恐らく二人とも食べるんだろうけど、ローリスさんはともかく、ウィーネさんの分まであるのは少し意外だ。
普通こういうのって、主人とその家族、そして客人が一緒に食べるのが普通だと思うんだけど、ウィーネさんは宮廷魔術師。高い地位についているとはいえ、皇帝と一緒に食事をとるのは少し違和感があった。
いや、もしかしたらやはり姉妹なのかもしれない。毛並みが良く似ているし、信頼関係も少し見ただけでも相当深いことがわかる。
ウィーネさんはローリスさんの臣下であると同時に家族でもあるわけだね。
「町はどうだった?」
「とても素晴らしい場所だと思います。凄く懐かしい気持ちになりました」
「ふふ、それはよかった。この国に住みたいと思った?」
「正直、少し。でも、私には帰るべき家がありますから」
「私達はいつでも歓迎するわ。もし路頭に迷うようなことがあったらいつでも言ってね」
和やかに話をするローリスさん。
全裸と言うことを除けば凄くいい人に見えるんだけど、服着ないんだろうか。
皇帝なんだから服くらい簡単に調達できると思うんだけど……なにか事情でもあるのかな。
「さあ、食べましょうか。お米、興味あるんでしょう?」
「は、はい……この世界ではあまり見たことがなかったので」
この世界の主食はパンだ。米を使った料理がないわけではないけど、交易が盛んなオルフェス王国でも滅多にお目にかかれない代物である。
ないわけではないとわかっていたから、最初は探そうかとも思っていたけど、その時はそこまで食べたいというわけでもなかったのでスルーしていた。
でも、実際にこうして白飯を出されると、ごくりと喉を鳴らしてしまう。
私は大食いと言うわけではなく、どちらかと言うと少食だが、昼あれだけ食べてもなおお腹が鳴るくらいにはこのご飯を食べたいと思っていた。
「あんまり待たせても悪いしね。それじゃあ、いただきます」
「「「いただきます」」」
早速白飯を一口食べてみる。
食べた瞬間、米の甘みが口いっぱいに広がって、懐かしい気持ちに思わず目元が潤んだ。
用意されていた鍋もいい感じに暖められており、みそ汁の味も聖教勇者連盟で食べたものよりも格段に濃い味がした。
まごうことなき故郷の味。私はしばらく会話も忘れて食べるのに集中していた。
「……そういえばハク、あなたに聞きたいことがあるのだけど」
しばらく食べ進め、そろそろ食べ終わろうかと言う頃、タイミングを見計らったようにローリスさんが話しかけてきた。
多分、私が食べるのに集中していたから声をかけづらかったのだろう。
ちょっと失敗したなと思いつつ、声に応える。
「はい、なんでしょう?」
「あなた、見たところ精霊のようだけど、それにしては人間に近すぎる。それに、精霊だけでなく、竜の気配も感じるわ。一体どういうこと?」
「あ、ああ、それはですね……」
私は自分の境遇について説明する。
竜と精霊の間に生まれ、人間になることを望んだというよくわからない境遇。普通であれば、精霊を人間にするなんて無理だと思うんだけど、それをできちゃう私の両親はとんでもなく凄い人なんだと思う。人じゃないけど。
「なるほどね。そういうパターンもあるのか」
「非常に稀なケースだと思われます。エンシェントドラゴンが護衛だと考えると、少なくとも片親はかなり高位の竜かと」
「それに精霊の身体を人間に近づけるとなると精霊の方もかなり高位の精霊でしょうね。エリートとエリートの間に生まれた超エリートの子供ってところかしら」
「私は別にエリートではないですが……」
いやまあ、確かに魔力の量も力もかなり強くはあるけど、それは潜在的な能力が高いだけであって私自身が強いというわけではない。
魔法の研究や剣術の修行なんかもしているけど、私はまだまだ未熟だと思う。困ったらすぐにごり押しするしね。
「いえ、誇っていいと思うわ。あなたなら、ウィーネともいい勝負できそうだし」
「確かに、一度手合わせしてみたいものです」
「それは遠慮しておきます……」
ウィーネさんはどう考えても私よりも魔法の扱いがうまい。まあ、確かに使う属性は氷属性ばかりのようだけど、極めているからこそその威力は折り紙付きだ。
出会った時、不意打ちとはいえ聖教勇者連盟の転生者達が何の抵抗もできずに氷漬けにされたのはそれだけ実力があるからだろう。
しかも、転移魔法まで使えるぶっ壊れっぷり。これ以上に何か持っていても不思議ではない。
そんな相手と手合わせなんてやりたくない。稽古をつけてもらう、と言えば聞こえはいいけど、ウィーネさんの場合戦闘に関しては戦闘狂の気配がするから余計に嫌だ。
「それは残念。久しぶりにウィーネの本気が見られると思ったのに」
「演舞でよろしければいつでもやりますが」
「演舞じゃあねぇ……やっぱり実戦じゃないと」
「ちょうどいいものが見つかればよいのですが……気が利かず申し訳ありません」
「いいのいいの。実戦が見たいのはただの私の我儘だから」
ウィーネさんも大概だと思うけど、ローリスさんも若干戦闘狂入ってない?
いや、見る専門なのだろうか。少なくとも、ウィーネさんの方が強そうには見える。
けど、ローリスさんは花崎さんを一瞬で【擬人化】させたり会話できるようにした謎の能力がある。一概にウィーネさんの方が強いとは言い切れない。
「じゃあハク、体が人間寄りってことは、生殖活動もできるのよね?」
「せ、生殖!?」
「ええ。どうなの?」
「ま、まあ、一応出来ると思いますが……」
いきなりドストレートなこと言われて思わずたじろぐ。
本来、精霊は生殖器官を持たない。精霊は様々な場所に満ちる魔力が意思を持って生まれるものであり、生殖によって増えるということはない。
私の場合は両親が意思を宿らせるための器を用意してくれて、そこに私の魂が入り込んだことによって生まれた。だから、両親が産んだというよりは、作り出したと言った方が合っているかもしれない。
私の身体も精霊ではあるが、人間寄りにされている影響で様々な箇所が人間に近づいている。生殖に関しても一応はできるだろう。
ただ、私の場合初潮が来ていないから子供が産めるかどうかはわからない。そもそも必要ない器官だから、どこまで再現されているかわからないんだよね。
まあ、そういう行為をやるだけなら、やれると思うけど……。
「へぇ、やっぱりできるんだ。それはそれは」
「え、えっと、なんでそんなこと聞くんです?」
「んー? 知りたい?」
にやりとほくそ笑むローリスさん。
え、もしかしてそっちの気があるの? 女性同士だよ?
私は今までそういうことをやったことはない。元が精霊だからか、性欲と言うものがあまりないから。
恋人であるユーリさんともやったことはない。でも、この人は明らかに私で楽しもうとしている。
私はゾクリとしたものを感じた。これは絶対に受けてはいけない。受けたら何をされるかわからない。
「い、いえ、結構です……」
私は冷や汗をかきながら目をそらした。
感想、誤字報告ありがとうございます。




