第五百三十一話:和食
「さて、なら案内役を付けましょうか。ウィーネ、適当に見繕ってあげてくれる?」
「かしこまりました。ではこちらだ、ついてこい」
そう言って、ウィーネさんは私達を先導して歩いていく。
後ろを振り返ると、ローリスさんが笑顔で手を振っていた。
それにしても、二人とも何歳なんだろうか。身長的にはかなり低く、私とどっこいどっこいである。でも、流石に国の長が10代前半ってことはないだろう。
まあ、王様が急死したりして急遽王様になった、とかならわかるけど、この国はどうやらローリスさんの代で作り上げたようだしそういうわけではなさそう。
そうなると、それなりに年がいってそうなんだけど、見た目は全然若い。10代と言われても納得できそう。
「お前達はなにを見てみたいんだ? それによって案内する者を代えようと思う」
「なにを、と言われても、私達はここに来たばかりなのでよくわからないんですが……」
「ふむ、それもそうか。なら、広く浅く紹介することにしよう。であればあいつだな」
流石に女性にいきなり年齢を聞くのは失礼だし、この疑問はそのうち解消されることだろう。あまり考えないでおこう。
しかし、それにしても大きな城だ。オルフェス王国にある様な洋風の城じゃなくて、きっちり周りに合わせて和風の城である。
私は城の事はよく知らないからよくわからないけど、大きさだけならオルフェス王国どころかゴーフェン帝国よりも大きいんじゃなかろうか。
流石は帝国を名乗るだけはある。
「ミコト、少しいいか」
「んひゃっ!? あ、ウィーネ様、どうかなさいましたか?」
すたすたと歩いていき、やがて一人の女性を見つけるとウィーネさんは声をかけた。
紺色の髪が特徴的な彼女は、頭から犬のような耳が生え、腰元からは太い尻尾が生えている。この場所では珍しい、普通の獣人のように見えた。いや、メイドさんも普通の獣人っぽかったし、そうでもないのか?
とにかく、ちゃんと普通の人もいるのかと少し安堵する。
まあ、ウィーネさん達が保護しているのは転生者だけでなく、場合によってはその家族や仲間達も回収しているようだから当然と言えば当然なのかもしれないけど。
ウィーネさんの声にびくりと肩を跳ね上げた女性、ミコトさんは私達の方をちらちらと見ながら尋ねる。
「こいつらは客人だ。この国の事を知りたいらしい。だから、お前の判断で色々案内をしてやってくれ」
「あ、案内ですか? それは構いませんけど、案内なら私よりユミさんとかの方がいいのでは?」
「この町の事を特に知っているのはお前だ、ミコト。ユミは錬金術に関しては右に出る者はいないが、それでは偏りすぎる。こいつらは色々なことを知りたいそうだからな」
「そういうことでしたら、承りました」
そう言って、ミコトさんは私達の方を向き、ぺこりとお辞儀をしてきた。
「初めまして、私はミコトと言います。お客さん方を案内させていただきますね」
「初めまして、ミコトさん。私はハクと言います。よろしくお願いしますね」
お互いに挨拶を済ませ、城を出る。
城も案内してもらいたいが、後でたくさん見れるというので後回しにしてもらった。
まあ、せっかくここまで来たのだから、一日で帰るのはもったいない。後でお姉ちゃん達に連絡を入れておかないとなぁ。
「では、私はここで失礼する。何かあればミコトに言うがいい。出来る限りのことはしてくれるはずだ」
「せ、精一杯頑張ります」
町の方まで出てくると、ウィーネさんはそのまま城の方へと戻っていった。
まあ、あれで宮廷魔術師らしいし、本来ならもっと忙しい人なんだろう。私達のために申し訳ない。
とはいえ、こうして堂々と町を観光することができるのは僥倖だ。さて、どこから見て回ろうか。
「ミコトさん、この町にはどんな場所があるんですか?」
「この町は主に和食を再現するための研究所と結界魔道具を作る工房があります。この町の資金源となっているのはその二つなので、それ以外はそれを支える形で色々な施設が入っています」
なるほど、見た目だけでなく、味の方も日本に近づけようとしているわけね。
これに関しては聖教勇者連盟の方でもやっていたけど、それなりに再現はできていたように思える。特に、味噌や醤油などの調味料は高い再現度を誇っていたので、味に関しては懐かしさを覚える程度にはよかったと思う。
そしてもう一つは結界魔道具の工房か。この結界魔道具は仕組みがはっきりしておらず、現在作れるのはこのヒノモト帝国のみ。
一応、聖教勇者連盟は自前で結界を張れる人がいるらしいからそれで賄っていたようだけど、流石に利便性においては魔道具の方が勝る。
私も調べてみたけど、だいぶ複雑だったし、あの技術をどうやって再現しているのかは非常に気になるところ。
どっちから行こうかなぁ。
「では、その和食を食べてみてもいいですか?」
「もちろんです。私のおすすめの場所に案内しますね」
そう言って先導してくれる。
しばらくして連れてこられたのは団子屋だった。なるほど、凄い街並みに合っている。
なんてことはないお菓子ではあるけど、確かに見たことはなかったかもしれない。私も作ろうとは思わなかったし。
「こちらをどうぞ。みたらし団子です」
「おお……」
そういえばお金はどうしようかと思ったが、ミコトさんがさっさと払ってしまった。
どうやら、客人だからもてなすのは当然の事らしい。
少し悪いと思ったが、事前にこっそりお金を渡されていたらしいので、必要経費と言うことなのだろう。ここはありがたく頂戴することにする。
さて、みたらし団子。前世ではたまーに食べていた程度だが、モチモチとした触感と甘じょっぱいたれは中々食欲をそそるものがある。
店先に出されている椅子に座り、棒を手に取って口に運ぶ。もきゅもきゅと噛みしめると、たれの甘みが広がってとても幸せな気持ちになった。
うん、前世で食べたものと遜色ないくらい美味しい。再現と言うか、そのものだよね。
「おいしいです」
「面白い食感ですね。少々物足りませんが」
『ねぇ、ハク。私も食べたい』
「あ、うん、じゃあこれね」
エルにもそこそこ好評で、アリアも食べたがっていたので、私だけが特別というわけではないだろう。
このレベルの料理が振舞われるとなると、私も少し期待してしまう。
「よかった。転生者の方は大体口に合うのですが、甘いものが苦手だったりしたらどうしようかと」
ミコトさんはほっと安堵したように息をつき、ニコニコとこちらを見てほほ笑んでいる。
さて、見た限り団子だけでなく、色々なお店があるようだ。出来ることなら、もう少し食べたいけど、あんまり食べ過ぎるのも失礼かな?
「お腹の方は大丈夫ですか? もしよろしければ、他のお店も案内いたしますが」
「いいんですか?」
「はい。自慢の味を堪能してほしいですから」
ふむ、そういうことならお言葉に甘えちゃおっかなぁ。
エルもなんだかんだで食べたそうにしているし、こうなったらとことん和食を食べていくとしよう。
私はお茶を飲んで人心地着いた後、次にお店に向かって歩を進めるのだった。
感想、誤字報告ありがとうございます。




