第五百二十九話:魔物の国へ
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とりあえず、トールさん達をこのままにしておくわけにはいかないのでウィーネさんに解凍してもらい、事情を説明して帰還してもらうことにした。
ただ、ウィーネさんはあまり人前に出たくないようで、先程はミズガルズの毒によって幻覚を見せられていて、それを私がミズガルズを倒すことによってみんなを助けた、と言う風に報告することになった。
ちょっと無理がある設定だが、みんな凍らされていた時のことは覚えていないらしく、案外すんなり信じてくれた。
私はやることはやったのでこのまま帰ると告げ、トールさん達は村に報告してから帰ることになった。
証拠であるミズガルズの死体がないのはちょっと不自然だけど、まあそれは仕方がない。実際は生きているんだから。
「準備はできたか?」
トールさん達が去った後、隠れていたウィーネさんとミズガルズが現れる。
ウィーネさんに聞いたのだが、ミズガルズの名前は花崎琢也と言うらしい。やっぱり日本人だった。
本来ミズガルズは長い時をかけて力を付けた蛇系の魔物がなる最上位種の魔物で、普通なら百年単位の時間が必要になるらしいのだが、花崎さんの場合は初めからこの姿だったらしい。
転生の特典として願った能力がそうだったからなのかはわからないが、とにかく体だけは強かったので、右も左もわからないサバイバル生活も何とか生き延びてこれたらしい。
しかし、最近になって人恋しさから人里を目指した結果、誤解されて邪神のような扱いを受け、欲しくもない生贄を貰いながら過ごしていたようだ。
もちろん、生贄として差し出された女性には一切手を付けず、献上されてくる食料はすべて彼女らに分け与えていたらしい。
まあ、人としての感覚が残っているなら人なんて食べたくないよね。
ちなみに、残された人達に関しては後程ウィーネさんが回収しに来るらしい。流石に、ミズガルズと言う巨体と私達を含めると一気には運べないそうだ。
村に居場所があるなら帰ってもらってもいいと言ってはいるが、多分ついてくるんじゃないかなぁ。花崎さん割と慕われてそうだし。
「はい、大丈夫です」
「では行くとしよう」
「でも確か、ヒノモト帝国ってルナルガ大陸にあるんですよね? そこまでどうやって運ぶんです?」
ルナルガ大陸はトラム大陸の隣にある大陸だ。シャイセ大陸の反対側で、世界の中心とも言われる大陸である。
主に住んでいるのは人間とショーティーだが、シャイセ大陸と同様色んな種族が住んでおり、そのおかげで様々な文化が根付いていてなかなか賑わっているようだ。
ただ、もちろんそこに行くためには船なりなんなりの手段が必要となる。ミズガルズのような巨体を乗せる船があるわけもないし、私達が竜化して運ぶにしても背に乗せるなど不可能だ。引っ張っていくにしてもかなり骨が折れる。
一体どうするつもりなんだろう?
「問題ない。みんな私の近くに集まれ」
そう言うので、言われた通りに近づいてみる。すると、ウィーネさんは懐から短剣を取り出すと、地面に突き立てた。
その瞬間、私達を中心に地面が凍り付いていく。まるで意志を持っているかの如く綿密な模様を地面に刻みながら広がっていくそれは、まぎれもなく魔法陣だった。
「これは……転移?」
その魔法陣には見覚えがあった。
私は竜として、空間魔法を使うことができる。その魔法の筆頭に上がるのが転移魔法であり、一部を除けば竜にしか使えないような大規模な魔法だ。
それをこの人はこの人数を一気に飛ばそうと考えている。普通であれば、魔力が足りるはずないし、転移先で合体事故の可能性もあるのでかなり危険な行為だ。しかし、ウィーネさんはそれを躊躇なくやろうとしている。
まさかこれが初めてってわけではないだろう。宮廷魔術師なのだから、魔法に関してはかなり明るいはずだ。
そうなると、これだけの人数をいっぺんに転移させても大丈夫と言う自信があるということだ。
どう考えても、私よりも技術が上。魔法において、私が上を取られたのは初めてかもしれない。
「よく知っているな。このまま飛ぶ。暴れるなよ」
「は、はい!」
ウィーネさんが魔力を込めると、氷の魔法陣が輝きだした。
その瞬間、足元から地面がなくなり浮遊感を感じるようになる。
この感覚は、転移魔法陣を使った時の感覚と似ている。恐らく、先程の魔法陣は簡易的な儀式魔法だったのだろう。
だからこそ、一人の魔力でも十全に効果が発動したんだと思う。まあ、だとしても相当な魔力量だと思うけど。
少しして、浮遊感が消える。ぎゅっと瞑っていた目を開けると、そこには見たこともない景色が広がっていた。
「ようこそ、ヒノモト帝国へ。歓迎しよう」
目の前にあるのは懐かしさを感じさせる家々。なぜそう感じるかと言われれば、その見た目が前世の家の造りにそっくりだからだ。
しかも、ただそっくりと言うわけではない。碁盤の目のように規則正しく並んだ建物、川沿いには桜色の花びらを散らせる美しい並木道ができており、町ゆく人々の服装もいわゆる『和』なものが多い。
まさしくそれは日本の風景。まるで前世の世界に舞い戻ってきたかのようなそんな感覚を受けた。
「これは……」
「この街並みは偉大なる皇帝ローリス様の手で作られたものだ。私達は日々過去に夢見た世界を想い、こうしてできる限り再現するようにしている。まあ、外交用に開いている町はきちんとこの世界に準拠しているが」
「あ、あれって桜ですよね? この世界にもあったんだ……」
「あれはこの世界の木を品種改良して作ったものだ。本物の桜とまではいかないが、なかなか様にはなっているだろう?」
どこからどう見ても桜にしか見えないけど、確かに言われてみれば若干花びらの形が違うかな? だとしても、十分な再現度だと言える。
私、今凄く感動しているもん。まさかこの世界で桜が見れるなんて思わなかったから。
「さて、これから陛下にお目通りしてもらうわけだが、タクヤはでかいからな。特別な通路を使う」
そう言って、町を大回りする形で移動し、大きな道がある場所に移動する。
今までにも、花崎さんのような巨大な魔物もたくさん来たらしい。だから、こうして専用の道が作られたのだとか。
この道は城へと繋がっており、直接入り込めるようになっているらしい。
でも、ちょっと疑問がある。
「あの、ここって魔物の転生者をたくさん保護しているんですよね?」
「ああ、そうだ」
「でも、見た感じ家の大きさも普通ですし、歩いている人達もみんな人に見えるんですけど」
花崎さんのような巨体ばかりではないとしても、魔物は大型ものが多いし、それらが住まうとなれば家も大きくなくてはならないだろう。それなのに、家は普通の人並みの大きさである。
歩いている人々も完全な人間かと言われると、尻尾が生えていたり腕に鱗が生えていたり、全身が毛で覆われていたりと人とはかけ離れてはいるけれど、普通の人サイズだ。
これは一体どういうことなんだろう?
「この国の国民は皆【擬人化】のスキルを持っているからな。転生者のほとんどは魔物の姿よりも人の姿を望んでいるし、生活面でも人の姿の方が便利だから【擬人化】してもらっている。まあ、どうしてもという奴には特別区画で魔物の姿で過ごしてもらっている奴もいるが」
「【擬人化】のスキル、ですか」
【人化】というスキルはある。かくいう私やエルもそのスキルを使って人の姿になっているのだからあるのは当然だ。
しかし、私達竜はその必要性があるからとそう言う能力を授けられたから使えるけど、普通の魔物は【人化】のスキルなんて覚えることはできない。
本能的に生きている魔物は【人化】のスキルを覚えようなどと思わないし、人並みの知性を持っていたとしても、そう簡単に取得できるものではないはずだ。
それなのに、国民全員が【人化】ならぬ【擬人化】というスキルを覚えている。
【擬人化】、恐らくは【人化】と似て非なるスキルなのだろう。町ゆく人々が完全な人間でないのはそういう理由があるのかもしれない。
日本風の街並みを見せつけられて驚いていたが、まだまだ驚くことはありそうだね。
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