第五百二十七話:転生者の可能性
しばらく歩くと、件の洞窟が見えてきた。
探知魔法で見る限り、確かにこの中にいるようだ。ただ、少し妙なことに、ミズガルズと思われる強大な反応の他にも数人の反応がある。
魔力の量から察するに、E級以下の魔物か、あるいは獣人やドワーフと言った人族の可能性がある。
魔物は群れることもあるが、それは基本的に同程度の実力を持つ者同士での話だ。この反応ではどう考えてもミズガルズと同等とは思えないし、むしろミズガルズからしたら餌だろう。共生しているのは少しおかしい。
でも、人でもおかしいんだよなぁ……。いや、でも、私の勘が合っているなら割とあるのかな?
多分、彼らは獣人で、村から生贄に捧げられた人なんじゃないだろうか。
もしミズガルズが転生者で、魔物の心に染まらずに真っ当な価値観を持ったままだとするなら、人を食べることを嫌悪してもおかしくはない。生贄として捧げられ、村に居場所がなくなった人達を匿っていると考えれば一応辻褄は合うのではないだろうか。
やっぱり、このミズガルズはおかしい。まずは対話を試みるべきか。
「この奥にいます。寝息が聞こえるので多分寝ているんじゃないかと」
「なら、奇襲行けるな。なるべく離れたところからやるぞ」
「洞窟ならうまく動けないだろうし、入り口を壁で塞いで一方的に殴り続けるっていうのでもいいかもね」
私の思惑とは裏腹に、三人は着々とミズガルズを倒す算段を考えているようだ。
一応、ミズガルズが転生者かも知れないという話はしたのだけど……信じていないか、あるいはただ戦いたいだけかもしれないね。
とはいえ、確かにせっかく寝ているのに奇襲をかけずに正々堂々戦うのは分が悪い。
広場ならともかく、洞窟の中では下手に距離を取れないし、後衛ばかりのこのチームでは少々荷が重い。
もちろん、威力は折り紙付きだからやられる前にやるっていうのは手かもしれないけど、それでも奇襲の有利を捨てるのはちょっともったいない。
だけど、私の探知に引っ掛かっている反応はどう考えても攫われた獣人。大蛇が住む洞窟で彼らが生き残っていけるはずもないし、転生者でなくても心優しい魔物と言う可能性は高そうなんだけどなぁ……。
討伐すべきか否か、悩むところである。そもそも、対話をしようにも言葉が通じなかったら意味がないし、もしかしたら問答無用で襲い掛かってくる可能性を考えるとせめて洞窟でなく森までおびき寄せたいところだ。
うん、ここは私一人が先行しミズガルズと対話を試み、もし成功して悪い奴ではないとわかれば保護、そうでなければ撤退し、森で待ち受けるのがベストだな。
「あの……」
「よし、行くぞ!」
「やっちゃってくれい」
「あっ……」
私が作戦を伝えようとしたその瞬間、トールさんが勢いよく電撃を洞窟に放り込んだ。しかも、すでに洞窟の入口はリクリアさんの透過する壁で封鎖済みという徹底ぶり。
せっかくの対話の機会が……。と言うか、中には人質じゃないけど人だっているんだけど、大丈夫かな。
すぐさま探知魔法で確認してみたが、慌ただしく動いているのが確認できた。どうやら攻撃には気づいたようだが、大丈夫だったらしい。
ほっと一息ついていると、不意に地鳴りがした。
「な、なんだ?」
「気を付けてください! 奴が出てきます!」
アルスさんがそう叫んだ瞬間、洞窟を塞いでいた壁を粉砕して一体の巨大な蛇が姿を現した。
出てくるなり、薄青色の光沢を放つ鱗に覆われたその巨体をしならせ、その尻尾を叩き付けてくる。その赤い瞳は血走っており、明らかにこちらを敵対視していた。
「うーん、流石に壁一枚じゃ甘すぎたか。ごめんね」
「別に問題はないさ。むしろ、こっちの方が思いっきり魔法が撃てて助かる」
ミズガルズの身体には傷一つない。どうやら先程の雷撃ではダメージは与えられなかったようだ。
出鼻をくじかれた形にはなったが、三人に動揺はない。どうやらパーティを組んでいたというわけではないようなのだが、それなのにこの信頼感。流石は幼少期より一緒に過ごしていただけはある。
ただ、さっきは加減していたんだろうけどそれでもダメージが通ってないところを見るとこのミズガルズ、相当耐性が高い。
勇者の耐性も大概だけど、似たようなものを持っているのかもしれないね。
「リクリアは壁で防御、アウルは支援に回れ。ハク、エル、危なくなったらフォローを頼む」
「了解」
「任せてください」
「あの、一度対話をですね……」
まあ、私は最近になって加入した人材だから連携が取れないのはわかるけど、もう三人でやる気満々ですね。
一応ミズガルズが転生者かも知れないとは伝えたんだけどなぁ……。忘れてるのかわざとなのかわからない。
「ミズガルズ! あなたは元々人間だったということはありませんか? もしそうなら頷いてみてください!」
三人が淡々と相手をする中、私はミズガルズに話しかけてみる。しかし、戦闘が激しく、頷いているのかどうかはわからなかった。
いや、多分あれは私の声が聞こえてない。怒りで我を失っているか、あるいはこちらの言葉がわからないのかもしれない。
さて、どうしたものか。
ミズガルズが転生者かも知れないっていうのは私のただの想像だ。言葉が通じていない以上、それを確かめる術はないし、こちらから攻撃したとはいえ、向こうも攻撃してくる以上は迎撃しなくてはならない。
このまま転生者かどうかわからずに保護することはできないし、どうにかして確認しなくてはならないのだけど、手段が思い浮かばない。
通訳魔法みたいなものでもあればいいんだけど……流石にどうやって作ったらいいかわからない。と言うか、多分作るにしても相手の言語を知っている必要があると思う。魔物の言葉を理解するのは流石に無理だろうなぁ……。
「どうしますか? 徐々に押されてきているようですが」
エルの言う通り、ミズガルズはだんだん押され始めている。トールさんの雷撃も通るようになってきたし、アウルさんの矢も二、三本ではあるが刺さっている。このままいけば、間違いなくミズガルズは倒されてしまうだろう。
「ミズガルズ、私の言葉がわかったら返事をしてください!」
「ハク、集中できないから黙ってくれないか」
トールさんに叱られるが、私はめげずに言葉をかけ続けた。最初に話したのはさっきまで話していたトラム大陸共通語だが、その後は他の言語も駆使するようになった。
しかし、いずれの言語にも反応がない。やはり、魔物語? みたいなものじゃないとだめなんだろうか。言語があるのかは知らないけど、ゴブリンとかは会話してるっぽいし多分あると思うんだけど。
だけど、私はそれを知らない。いくら私が色んな地方の言葉を知っているとしても、流石に魔物の言葉までは知らないから。
……いや、待てよ? 一つだけあるかもしれない。
[ミズガルズ、私の声がわかるのなら返事をしてください!]
私の言葉にトールさん達が一瞬こちらを振り返った。
私が話したのは日本語。久しく使っていなかった言語だけど、もし相手が転生者だというならばこれに反応してくれるはず。
祈るような思いで叫ぶと、ミズガルズは一瞬動きを止めた。
もしかして、通じた……?
[ミズガルズ、私はあなたの敵ではありません。私の声が聞こえたなら、頷いてみてください]
私の言葉に、ミズガルズは動きを止め、しばし逡巡した後に首を縦に二回振った。
間違いない。このミズガルズは転生者だ。
確認が取れたので、私はトールさん達に攻撃をやめるように指示を出す。
……しかし。
「……凍りつけ」
指示を出そうとしたその瞬間、トールさん達が一瞬にして凍り付いた。
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