第五百二十六話:討伐に向かう
次の日、私達はエルクード帝国の南端にあるとある村へとやってきていた。
昨日の打ち合わせ通り、この村の近くに出没するというミズガルズを討伐するためにやってきたのだ。
こちらのメンバーは私とエルを除いて三人。そのうち二人は転生者で、残りの一人は元からこの世界にいた現地人だ。
今回の依頼、実力的には恐らく問題はない。本来であれば、私がいなくてもこの三人だけでも多分倒せる難易度だ。しかし、今回の相手であるミズガルズは通常種とは少々異なり頭がいい。だからこそ、万全を期して竜である私が出動したわけだ。
ちなみに、同行してくれた三人は初めて話すというわけではないが、あまり交流がない人達である。せいぜい、こちらが挨拶したら返してくれる程度の関係だ。
本当なら、それなりに交流があるシュピネルさんやアイリーンさんあたりが着いてくれればよかったんだけど、ミズガルズはいわゆる大物。好戦的な転生者達にとっては戦いがいのある相手だ。
だから、みんな我先にと志願し、結局最初に手を上げたこの人達が来たというわけだ。
「話によるとこの辺りのはずです」
「確かにいかにも出そう、というか、道が出来ちゃってるね」
依頼のあった村では井戸に毒が混入されてしまい浄化には時間がかかるというのもあり、一時的に別の村へと避難している。一応、話は聞いてきたのだが、この森はミズガルズの縄張りなのか、あちこちに這った後が見受けられた。
「アウル、気配は感じるか?」
「はい、どうやらこの先に留まっているようです」
アウルと言うのは現地人の子だ。兎獣人の女の子であり、耳がとてもいいのが特徴。戦闘面ではそこまで突出してはいないが、弓の名手であり、短弓を用いて継続的に矢を浴びせかけるのが得意らしい。
持ち前の素早さも相まって被弾はほぼなく、火力はないけど継続火力があるという形のようだ。
転生者と違い、現地人が持つ能力は純粋な才能だ。逆境の中でも努力し続け、地道に力を付けていった天才。その力は転生者の能力と比べると多少見劣りするけれど、基礎がしっかりしているので動じにくいという性質を持っている。
才能があるとはいえ、努力だけで転生者と並び立てるなんて普通に凄いと思うよ。
「村人に貰った地図によると、この先に洞窟があるみたいだな」
「となると、住処に引きこもってお昼寝中ってこともあるかな? 奇襲出来たら一番いいんだけどねぇ」
ちなみに、残りの二人はどちらも男性で、それぞれトール、リクリアと言う名前らしい。
どちらも遠距離型で、それぞれ雷魔法と土魔法が得意のようだ。
ミズガルズと戦う場合、通常なら毒をまき散らされるため容易に近づくことができない。だからこそ、遠距離型で固めたということらしいが、流石に全員後衛はやりすぎなんじゃないだろうか。
後衛が輝けるのは前衛が相手を押さえてくれるからであって、全員後衛だったら抑える人がいないからまともに戦えないと思うんだけど。
一応、リクリアさんは壁を作ることに特化しているらしく、その気になればこちらの攻撃だけ透過して相手の攻撃を防ぐ壁も作れるらしい。
ここでは便宜上土魔法と呼んでいるが、実際はもっと別の何かだと思う。壁魔法とでも言えばいいのかな。ちょっとダサいかな。
「それにしても、竜の巫女が直々にお目見えとはな。俺達だけで十分だと思うのだが」
「それね。まあ、コノハが言うんだから何かあるんだろうけど、ちょっと信用なさすぎだよねぇ」
トールさんがちらりとこちらを見ながら呟く。
まあ確かに、本来なら竜に頼むまでもなく十分討伐できる実力があるのに、念には念を入れてと私が同伴することになったのだ。
というか、約束の通りなら彼らはただの見届け人であり、戦うのは私一人と言うことである。
そりゃあ、自分達の実力を認めてくれないのは腹が立つだろうし、私の事を少なからず疎ましく思うのもわかる。
だけど、露骨に嫌がらせとかはしてこない。むしろ、私がどんな戦い方をするのか興味を持っているようだ。
まあ、今回は私はただの補佐役に徹するつもりではある。彼らの仕事を取るつもりはないし、私とて積極的に戦いたいとは思わない。
私が参加したのは、件のミズガルズに会いたかったからだ。人並みの知性を持つ魔物、それは脅威以外の何物でもないけど、少し引っかかる。
簡単に言うなら、転生者ではないかと言う話だ。
私のように、人間以外に転生する者もいる。まあ、私の場合は特殊だけど、私以外にもミホさんだって精霊っていう人ならざる者へと転生しているわけだから魔物に転生する人がいてもおかしくない。
もし、ミズガルズが転生者ならば保護しなくてはならないだろう。そりゃ、周りからしたら危険な魔物ではあるだろうけど、言葉が通じるなら共存も可能なはずだ。
最悪なのは言葉が通じなかった時だ。【念話】が使えるなら楽だけど、仮にミズガルズが転生者だとした場合、ほとんど人との交流はなかっただろう。
交流がなければ喋る必要もない。であれば、わざわざ【念話】を修得する理由もないわけだ。
昔からこの村を支配していたというならともかく、最近になってと言う話だから恐らくずっと隠れ住んでいたんではないだろうか? それが偶然見つかってしまい、危険な魔物として手配されてしまったという形になりそうな気がする。
まあ、私のただの思い過ごしで、ただの魔物っていう可能性もあるけどね。
「ハクは魔法が得意なんだろう? どんな属性が使えるんだ?」
「一応、属性はすべて使えます。全属性に適性があるので」
「うわ、マジか。そりゃ、全属性魔法使いとか魔力無限とか魔法創造とか使える人はいるけどさぁ……」
「リクリアは壁しか作れないもんな」
「いや、防御手段は大事でしょ。それに使いようによっては攻撃できるし。でも、全属性は普通に憧れるなぁ」
リクリアさんが作りだす壁はとにかく多種多様だ。土魔法と言っているが、実際には土だけでなく、岩でも作れるし、水晶でも作れるし、何なら空気でだって作れる。相応の魔力は消費するが、瞬時に形成することができ、相手の攻撃を見てから反射的に貼ることも可能。また、移動させることもできるので、相手を壁で囲ってそのまま押し潰すって芸当もできるようだ。
まあ、押し潰す力は魔力に比例するようなので今回の相手であるミズガルズを囲んで押し潰すっていうことは出来なさそうだが。
「私は魔法創造っていうのが少し気になりますけど」
「ああ、その名の通りだよ。イメージした魔法を作り出すことができる文字通りのチート。ただ、魔力が並程度しかないからあんまり強い魔法は使えないらしいけどね」
「それは残念ですね……」
「ああでも、ちょっと火を起こしたいときにマッチくらいの火を起こす魔法だったり、体が汚れた時に洗浄してくれる魔法だったり、戦闘以外の面ではめちゃくちゃ便利な人だけどね?」
なんか想像してたのと違う。と言うか、私と似たようなことやってるね?
私も最初は生活魔法と言う生活に役立つ魔法を作り出したことがある。本来攻撃の用途でしか使われない魔法を意図的に威力を減衰させて、焚火の火を起こしたりするくらいの威力にした着火魔法とかね。
魔法はイメージさえできれば実質何でもできる。ただその中には様々な要素があり、それらをどう組み合わせるのかによって使用する魔力が決まり、その量に応じて下級魔法や中級魔法といった枠組みが出来上がっている。
私の想像していた魔法創造は、例えば上級魔法をほとんど魔力消費をせずに放つだとか、範囲魔法にホーミング性能を持たせ、狙った敵だけを攻撃する魔法だとか、そう言うものを期待していた。
だが実際に聞いてみると、魔法自体は作れても、使用者の魔力がそこそこなので実際は普通の魔術師とあまり変わらないという現実。
まあ、いくら魔法創造ができたって魔力がなければ意味がないよね……。
そこは生まれによるから仕方ないと言えば仕方ないけど、ちょっと可愛そうではある。
魔力を増やせる方法があればぜひ教えるんだけどね。……いや、待てよ?
「だったら、魔力を増強する魔法だったり、周囲の魔力を集約させる魔法を作れば上級の魔法も使えるのでは?」
「……ああー、なるほど、確かにそうかもしれないね」
どんな魔法でも作れるのなら、魔力を強化する魔法を作ればいいだけの話だ。というか、一時的にでもいいなら魔力を底上げするポーションも存在するらしいし、頑張れば普通に強くなれるのでは? と思った。
三人ともその手があったか、って顔をしているので今まで思いつかなかったんだろう。
まあ、これはランプの精霊に三つ願いを叶えてやろうと言われて、願いを増やしてくれとお願いしているようなものだからちょっとしたずるかもしれないけどね。
『そう簡単にいくかなぁ』
アリアがぽつりと呟いたのが聞こえてきた。
まあ、そんな魔法があるのかと言われたら微妙なところだしねぇ。
そこらへんは後で実際に試してもらうことにしよう。
感想ありがとうございます。




