第五百二十五話:舞い込んだ依頼
ユーリさんとのデートはもの凄く神経を使う。なぜなら、怪我人を見つけるや否やすぐにでもすっ飛んでいってしまうからだ。
特に、怪我人や病人の多いスラム街なんかに行こうものならその日はもう行動不能になると言っても過言ではない。
だから私は、その対策のために色々手を打っている。
まずは孤児院への寄付だ。
元々、ここオルフェス王国では割と裕福な国であり、孤児院等もしっかりしている。だが、それでもあぶれる子は多く、だからこそスラムができるわけだ。
なので、それを少しでも是正するためにも寄付を行い、より多くの子供を受け入れてくれるように頼みこんでいる。
他にも、学園が休みの時は炊き出しを行ったり、青空教室を開くことによって読み書きや計算の技術を身につけさせたり、時には雇ってくれそうなお店を紹介したりと色々試行錯誤して、スラムの子でも健康に、あるいは働けるようにしている。
おかげで王都では色々な繋がりができた。これもユーリさんのおかげと言えばそうだけど、あまり嬉しくない。
まあ、そういう試みのおかげでユーリさんも今ではそこまで能力を使わなくなっている。もちろん、急患として連れてこられたり、はるばる病気を治してもらいに来た人達を受け入れたりしているからゼロにはならないけど、以前に比べたらよっぽどいいだろう。
本当にユーリさんには困ったものだ。まあ、誰かを助けたいっていう気持ちの下から来ているからあまり強くも言えないけどね。
「で、今度は何ですか?」
それはさておき、私はまた聖庭の応接室に来ている。
神代さんの人気取り戦術によって多くの市民が味方に付き、且つ貴族達は失脚していった。
まあ、まだまだごたごたは残っているけど、概ね神代さんを教皇として認めており、この地位は盤石なものになっていくことだろう。
教育に関しては竜が請け負っているし、現在竜が代行している政務も候補が見つかってきたとかでそろそろお役御免となる。
すべては順調。新しい時代に向けて歩みを進めている聖教勇者連盟。
なのに、未だに私にお呼びがかかるというのはどういうことなんだろうか。
いやまあ、私も一応は聖教勇者連盟のメンバーだし、竜に関することで呼び出すというのはわかるんだけどさ。最近それ以外の事ばっかりで呼び出されていたからちょっと疑心暗鬼になっている。
私を幹部に、ってコノハさんは言うけれど、私はごめんである。
私はそういう地位に興味はない。責任が増えるだけ損だ。
もちろん、相談に乗るくらいはするけど、祀り上げるのは勘弁してほしい。
「そう警戒しないで。今回は正式な依頼だから」
「依頼ってことは、竜絡みですか?」
「そういうこと。これを見て」
対面に座るコノハさんはそう言って地図を広げる。そして、とある地点を指さして説明を始めた。
「先日、エルクード帝国の南端にある村から緊急の依頼が出された。内容は、ミズガルズの討伐」
「ミズガルズっていうと、大蛇の魔物でしたっけ」
「そう。このミズガルズは元々村の近くにある洞窟に住み着いていたらしいんだけど、最近になって村人が襲われ存在が発覚。最初は危害を加えられないように食料や生贄を捧げていたらしいんだけど、その後たまたまエルクード帝国の遠征団が接触したことで戦闘になり、結果として騎士団は半壊。さらに怒りを買ったのか、村の井戸が毒で汚染され、とても住めないような状態になってしまったんだって」
「それで、聖教勇者連盟に依頼が来たと」
「そういうこと」
まあ、端的に言えば普通の依頼かな。
ミズガルズは蛇系の魔物の中でもかなり上位の存在で、ランク付けをするならSランク級の魔物だ。
帝国の騎士団ですら歯が立たないような敵なのだから、聖教勇者連盟に依頼が来るのもよくわかる。
しかし、竜案件と言うほどではないような気もする。だって、聖教勇者連盟の転生者達ならばSランクくらい余裕で狩れる人材は揃っているのだから。
「何か問題があるんですか?」
「まあ、ちょっとね。これを見てくれる?」
そう言って別の資料を渡してくる。
どうやら、事前調査によって得られた件のミズガルズの資料のようだ。
読み進めてみる限り、このミズガルズ、かなり頭がいいみたい。
まず攻撃が的確なこと。
エルクード帝国は獣人の国ではあるけど、騎士団ともなれば魔術師もいる。当然、彼らは前衛が抑えている間に魔法の詠唱をするわけだが、そのミズガルズは積極的に魔術師を狙って詠唱をさせなかったらしい。
さらに言うなら防御もうまく、柔らかい腹部分をなるべく露出させないよう素早く立ち回り、攻撃には鋭利に尖らせた尻尾を用いていたらしい。
明らかに、人を区別する能力を持っているし、戦闘のセンスにかけても相当高いと思われる。
ただ、不可解なこともある。それは、ミズガルズの代名詞である毒のブレスをあまり使わなかったことだ。
ミズガルズの毒はかなり強力で、まともに浴びれば解毒薬を飲む間もなく死に至るほどの猛毒である。
多くの、と言ってもあまり前例はないが、ミズガルズは主にその毒のブレスを攻撃の手段に用いており、体を使って攻撃することは稀だという。
なのに、なぜかそのミズガルズはブレスを撃ってこなかった。いや、撃っては来たけどその毒はかなり弱く、ちょっと気分が悪くなる程度のものだったらしい。
恐らくは何かしらの怪我を負っており、そのせいで毒を出す器官がうまく動作していないのではないかと言われているが、外見では目立った傷などは見られないため、真相のほどはわかっていないという。
「なんというか、狡猾? っていえばいいんですかね」
「うん。ただの魔物だったらそれこそうちの奴らだけでも事足りるけど、今回はちょっと違うように思えるの。だから、念のため竜の手も借りた方がいいんじゃないかと思って連絡したの」
確かに、転生者達は言っちゃ悪いけどごり押しする人が多い。なまじ強力な能力を持っているからその力に頼った強引な立ち回りが多く、技術面だけで言えば素人も同然だ。
もちろん、それなりに練習している人もいるから全員がそうだとは言えないけど、そういう人が多い。
まあ、私も人のことは言えないけど。
相手が狡猾なら、こちらもある程度考えて戦闘しなければ負ける可能性がある。しかし、竜であればその差を覆すことも可能だ。
竜の前ではいかな小細工も通用しない。例えSランク級の魔物であろうとも、竜であれば普通に倒せる。
万全を期すなら、竜の力を借りるのもありと言えばありだ。
「どう? 頼まれてくれる?」
「まあ、そういう約束ですし、構いませんよ。ただ、行くのは私でもいいですか?」
「え?」
竜に頼むのはまあいいだろう。ただ、このミズガルズに対抗するとなると多分エルダードラゴン以上が必要になると思う。
まあ、私が頼めばすぐに飛んできてくれるとは思うんだけど、なんとなくきな臭い予感がする。
だって、このミズガルズはどう考えても人並みの知能を持っている。普通に考えて、魔物がこれほどの知能を持つことはありえない。いや、一部の魔物はその限りではないけど、ミズガルズには当てはまらないはずだ。
それに毒の件も気になる。実際に対峙した人達は怪我かなにかで能力が衰えていると思っているようだけど、もしあれが意図的に弱められたものだとしたら? それはつまり、被害を広げないようにわざとやったのではないだろうか。
魔物としては高すぎる知能に、被害を広げないようにする行動。私の予想が正しければ、もしかしたらがあるかもしれない。
とにかく、ただ単に竜に頼んで潰してもらうのでは面白くない。だから、私自らが行こうと思ったのだ。
「まあ、ハクがいいって言うならそれでもいいけど」
「ありがとうございます」
「でも珍しいね? こういうのは嫌がりそうなのに」
「ちょっと気になることがあるので」
杞憂に終わってくれるならそれでもいいんだけどね。
その後、日程を確認して話し合いは終わった。
さて、どう転ぶかね。
感想ありがとうございます。




