第五百二十二話:認めてもらうために
そもそもの話、次期教皇を決める際は現教皇がふさわしい人物を指定し、その人が受け継ぐ形で決定する。しかし、教皇が何らかの理由で急死し、次の教皇が指定されなかった場合、その決定権はその家族、上位幹部と言うようにずれていく。
今回の場合、前の教皇は所帯を持っておらず、子供も存在しなかった。家族と呼べる者はいなかったため、決定権は幹部に移る。しかし、その幹部達もまたいなくなっているため、これまた決めることができない。
流石に、幹部が全員一気にいなくなるなんて事態想定しているはずもないので、それ以上の決定権は誰が持つのかはっきりせず、結局その時点で一番偉い人が決めるということになり、その結果神代さんに決定権が回ってきた。
で、神代さんは私から聖教勇者連盟を任されている。だからこそ、自らを教皇として選び、トップの座についたわけだ。
ただ、いくら勇者が偉いとは言っても、その権力がどれほどのものかははっきりしていない。形だけ見るならば、勇者自体は爵位を持っていないし、爵位だけで見るならば他の貴族達の方が位が高いことになる。
一応、勇者の発言力は教皇と同等程度にあるらしいが、それも形だけのものであり、実際にそういう権利が与えられているというわけではない。
だからこそ、ごねる人が出てきたわけだ。本当に面倒なことである。
まあ、別に私は神代さんにどうしても教皇の座に着いていて欲しいわけではない。私が何とかしてほしいのは聖教勇者連盟だけだし、国の長たる教皇はもっとふさわしい人がいるならその人がやればいいと思っている。
しかし、現状は聖教勇者連盟を乗っ取り、世界を牛耳ってやろうという考えが透けて見えるような連中ばかり。とてもじゃないけど任せられない。
これは仮に優秀な人材を見つけてきたとしても同じことだろう。恐らく、多くの上位貴族は以前の教皇の裏で甘い汁を吸っていた連中ばかりだから選ばれるとしたらその恩恵に預かれなかった下級貴族からとなるだろう。しかし、下級貴族がいきなり上位貴族を押しのけて教皇なんかになってしまったら非難されるのは間違いない。自分の方がふさわしいとごねるに決まっている。
であれば、神代さんを教皇としたまま、その正当性を示す必要性がある。
細かな政務とかは補佐官がやればなんとかなるだろうけど、対外的には国の長は神代さんと言うことになる。だから、最低限の威厳と言うものが必要だ。
とすると、何かイベントをやる必要がありそうだね。
神代さんのことを認めさせて、他の貴族を黙らせられるようなイベント……何やればそんなことできるんだろうか。
「政務に関しては何とかするとして、どうにかして神代さんを認めさせたいわけですけど、何かいい案ありますか?」
「うーん、ヒナタは良くも悪くも普通の高校生だからねぇ。身長もこの世界の人達と比べたら若干低いし、子供に見られがち。それを覆すとなると、やっぱり戦闘力を見せつけるのが一番だと思うけど、そうそう出番が来るはずもないし」
「わかりやすく、俺に勝ったら教皇の座は譲ってやる、みたいなことにできれば楽なんですけどね」
「そうだね。まあ、欲しているのは教皇であって戦士じゃないから、その決め方はありえないわけだけど」
教皇が、と言うより王がやるべき仕事は国の運営だ。そりゃ、周辺の魔物を倒すだとか、国境を警戒する兵を置くだとか、戦力が必要になる場面もなくはないけど、最も必要なのはそれらを的確に指示できる頭脳である。
脳筋が王になったところで政務が滞るだけだろう。他の人に任せるのであればそれでもいいかもしれないが、やっぱり最低限の頭は必要となる。
そんな決め方をしたら漏れなくブーイングが飛んでくることだろう。むしろ、愚王と罵られても文句言えないと思う。
「神代さんの強みと言うと、転移者、勇者、聖剣、戦闘力、優しさ……そんな感じでしょうか?」
「だねぇ。そのうち役に立ちそうなのは勇者と聖剣くらいか。ただ、聖剣に選ばれるくらい凄い人だ、と言われても勇者だから当然と言われておしまいな気がするよ。良くも悪くも、現代で神具を握れるのは勇者とほんの一握りしかいないわけだし」
「そういえば、皆さんの中に神具を持つ人はいないんですか? 例の襲撃の時に使ってくるものかと思っていたんですけど」
「いや、いるよ? いるけど、神具が保管されているあのエリアに入るには幹部の承認が必要だし、そもそもあそこは滅多なことでは立ち入れない秘密ゾーンだったから触ったのなんて最初の一回きりだよ」
なるほど、つまりあの時は神具を使わなかったのではなく使えなかったというわけか。
せっかく国宝級の武器があるのに使わないなんてもったいない気もするけど、まあ国宝級の武器だからこそ使わないともいえるか。そんなの使わなくても転生者は強いし。
あるいは、勇者に特別感を出すためだったかもしれないね。堂々と持ち出していたのは勇者だけだったわけだし。
「まあ、それはいいとして……勇者に関してはむしろマイナス要因ですよね。勇者は戦う人であって、国を指揮する人ではないっていう考えがありますから」
「そう。一応、過去には勇者が教皇を務めたっていうのもあるらしいんだけど、かなり例外的に決まったみたいだから反論も多かったみたい」
「その時はどうしたんですか?」
「書物では勇者が貴族達を丁寧に説得して納得させたってあるけど、多分賄賂でも握らせたんじゃないかな。そんな都合よく貴族が手を引くわけないし」
「なるほど」
説得で引くのなら苦労はしない。まあ、勇者がとても清廉潔白な人で、この人になら任せてもいいっていうオーラが出ていたのかもしれないけど、今までの聖教勇者連盟との関係を見る限り、裏では金で繋がっていそうだなと思う。
なら今回も金をばらまいて黙らせる? いやいや、聖教勇者連盟は本当の意味で正義の組織として生まれ変わったのだ、そんな悪事を許すわけにはいかない。
恐らく、神代さんもそう言うだろう。殺すことには消極的だけど、正義感はかなり強いようだし。
「優しさだけじゃどうにもならないし……転移者なんてここじゃ似たようなのがありふれてるし……どうにもならないかなぁ」
「せめて地球での知識が役に立てばいいんですが、それはもうやってますよね」
「んー……?」
「コノハさん?」
「ああ、その手があったね」
コノハさんはポンと手を叩いて若干嬉しそうに微笑んだ。
「どういうことです?」
「ハクはこの聖庭が前世の知識を基に魔改造されていることは知っているよね?」
まあ、それは見ればわかる。建物の作りはもちろん、学校や時計塔、街灯など前世を感じさせるものは山ほどある。
そりゃ、転生者を大量に擁している上に、その知識と能力を使って前世の品物を色々と再現しているのだから当たり前と言えば当たり前だけど。
「見ればわかりますが」
「じゃあ、町の様子は見たことある?」
「町ですか? 一応何度か見たことはありますが……」
セフィリア聖教国の町は清廉潔白なイメージからか白を基調としたものが多い。建物はほとんど白で石造りが基本。
町並みはそこそこ整っていて、流石は首都だと言える雰囲気があるけど、それがどうかしたのだろうか?
「町を見て気が付かなかった?」
「なにがです?」
「町の造り、こことは全然違うでしょ?」
「……確かに」
だが、それは仕方がないことだろう。転生者が保護され始めたのはせいぜい2、30年前から。当然、セフィリア聖教国はそれ以前から存続していた国だし、建物の様式もあっただろう。いくら勇者が地球からの転移者だとは言っても、そこまで変わるものではないと思う。
そう思っていたんだけど、どうやら違うようだ。
「実は町には転生者の技術は使われていないんだよ」
それを聞いて、はっとした。
建物の造りは仕方ないとしても、それ以外の部分、例えば街灯なんかは聖庭にはあるのに町にはなかった。それに、それなりに立派とは言っても、時代を先取りしているかと言われたらそういうわけではない。普通の街並みだ。
これが転生者の知識で手を加えられていたならもっと便利な町になっていることだろう。それがないってことは、転生者の技術は街には活かされていないってことだ。
なるほど、コノハさんがやりたいことが読めてきた。
この方法なら、確かに市民の人気を取ることができるかもしれない。もちろん、うまくいく保証もないけど、やらないよりはずっとましだろう。
後は細かな話を詰めていくだけだ。
感想、誤字報告ありがとうございます。




