第五百二十一話:貴族の動き
あの後お父さんに聞いてみたが、私の思った通りにそういうことに詳しい竜は多少なりともいた。意外なことに、その筆頭はホムラらしい。次いでエリアス、アースと言ったところか。
まあ確かに、ホムラはエルクード帝国の城に何度も入っているわけだし、皇帝なんかもそれこそ生まれる前からの付き合いらしいので知識が蓄積しているのは当たり前と言えば当たり前か。
ただ、流石にエンシェントドラゴンを派遣するのは戦力的にもあれなので、【人化】できる竜の中から数人が選ばれることになった。
これでしばらくの間は国を回すことができるだろう。
「それで、候補は見つかりそうなんですか?」
「流石にまだ何とも。彼らも隠密が本職ってわけじゃないからその辺の国の暗部よりは流石に劣るよ。気づかれないって点だったら一流だけどね」
竜の派遣を決めてから二週間ほどが経ったわけだが、未だに官僚候補となる人は見つからないらしい。
普通、それなりの国なら各国に送る諜報員や国にとって不都合な事態を隠蔽するために動く暗部が存在するものだが、セフィリア聖教国の場合、それを担っていたのは聖教勇者連盟らしい。
と言うのも、転生者の中にはそういう暗殺系の能力に長けた人もそこそこおり、彼らがびっくりするくらい影に溶け込む性質を持つから色々と裏の仕事を任せていたらしい。
ただ、逆に言えば本職の暗部に比べたら動きは甘いことも多い。確実に情報を持って帰りこそするが、時間がかかるためこういう緊急を要する場面ではなかなか使えない。
さらに言うなら、新たに教皇の座に就いた神代さんに対し、勇者を教皇にするのはいかがなものかと自らが教皇になると強引に事を進めようとしている貴族がちらほらおり、その対処に追われてなかなかうまく調査がはかどらないとのこと。
まあ、確かに勇者は魔物を狩る側の人であって、国をまとめる人ではないからね。わざわざ動きにくくするのは確かにもったいない。いやまあ、勇者が国王になるパターンもあるだろうけども。
ただ、正論ではあるけど、その貴族達は皆自分が教皇になって聖教勇者連盟を乗っ取り、世界を牛耳ってやろうっていう考えが見え見えなので彼らを迎え入れることはできない。
そいつらをどうやって黙らせるかっていうのも課題だよね。
「それ、それこそ暗部が動いて口封じとかしないとまずいんじゃないですか?」
「まあね。実際世論は貴族の筆頭であるリヒテンシュタイン公爵家の現当主を教皇にって声が大きいみたい。私が調べた限りだと、裏でかなりあくどいことやってるんだけどねぇ」
「市民はそれには気づいていないと」
「そういうこと。ヒナタが教皇になったっていうのもだいぶ信憑性が疑われているし、家柄的にもセフィリア聖教国で相当な権力を持っているリヒテンシュタイン家が一番ってことになるみたい」
世論を味方につけるのは強い。たとえそれが間違いだったとしても、市民がそれを望んでいるのだから間違いでも受け入れざるを得なくなる場合がある。
特に、聖教勇者連盟は確かにセフィリア聖教国の中枢ではあるけれど、あくまで政治とは別の組織だ。幹部達が深く関わっていたとしても、それは兼任しているだけであって、聖教勇者連盟は言うなれば騎士団のようなものである。
今の状況は、頭を失った聖教勇者連盟が苦肉の策で運営している状態であり、そこに自分が舵を切ってやろうと現れた頼もしい存在がリヒテンシュタイン家と言うことになる。
市民としては、戦力としては絶大な信頼を置いているものの、まだ子供ばかりの聖教勇者連盟のメンバーより、実績もある貴族の方を選びたい。誰だって子供に国の舵取りはさせたくないだろうからね。
「断れるんです?」
「今のところはね。でも、そろそろ限界かな。他の貴族や市民も味方につけて、いつまでも教皇の座を明け渡さないヒナタに非難の声を上げる人もいるし」
聖教勇者連盟にとって勇者は絶対的な存在だ。いるだけでも抑止力として効果が高く、最終的な切り札として崇められる存在である。
ただ、神代さんは勇者としてまだ日が浅く、きちんと勇者召喚をして召喚したという証拠もないためその絶対性を疑われている。
本来なら勇者を疑うなんてセフィリア聖教国の人がするわけないけれど、竜に対して弱気な姿勢もマイナス要素として働いているようだった。
まあ、確かに私は神代さんに聖教勇者連盟の舵取りを期待しているけれど、国の運営とまでなると流石に荷が重い。市民の声ももっともではある。
だけど、流石に件の公爵家に渡すわけにはいかない。
「対策は?」
「それは簡単。奴の悪事の証拠を突きつけてやれば市民が勝手に処理してくれるよ」
もう限界と言うのにここまで余裕なのは、対策が出来上がっているからだった。
リヒテンシュタイン家は裏で色々やっていたそうなので、その証拠を突きつけてやれば黙ると思っているようだ。そして、その証拠もどうやらすでに入手している様子。それならいつでも対処はできるね。
「なら早くやったらいいんじゃないですか?」
「やってもいいけど、どうせやっても後に続く家が出てくるじゃない? 正当性さえあれば公爵じゃなくても、侯爵とか伯爵とかでもいいわけだし。せっかくひとまとめにしてくれてるからそれを壊すのも何かなぁって」
確かに、現在筆頭であるリヒテンシュタイン家を放逐したとしても、結局は第二、第三の貴族家が名乗りを上げる。それでは意味がないのだ。
もちろん、そうやって次々と悪事を暴いていって、もうそんな気が起きないくらい徹底的に駆逐するのも手ではあるけど、それは流石に暗部の負担が大きすぎる。
ただでさえ本職とは程遠いのにそんなに働かせたら過労死するんじゃないだろうか。
どうにかして表面上だけでも奴らを納得させない限り平穏は訪れない。神代さんを認めさせる方法も考えないといけないかもしれない。
「大変ですね」
「ほんとだよ。みんな私がまとめ役っぽいことしてるからって押し付けてくるしさぁ。相談できる相手でもいなければ参っちゃうよ」
コノハさんはそう言いながらコップに注がれたお茶を飲み干す。
まあ、気持ちはわかる。こんなの私だってごめんこうむりたい。
だけど、聖教勇者連盟を事実上壊滅に追い込んだのは私だし、流石にここで知らんぷりはあんまりだ。神代さんもコノハさんも私の事を頼りにしてくれいるし、友達としても報いなければならないだろう。
まずやるべきことを考えよう。現在、国政に関しては竜を派遣したことによって何とか再び回り始めている。教育に関しても竜がやってくれているし、そこら辺については問題ないだろう。
問題なのは次期教皇を名乗る貴族連中。これは、神代さんが勇者だから、勇者と教皇を兼任するのはもったいないからと言う理由でそうなっている。他にも、勇者として日が浅い神代さんの実力を疑問視して、っていうのもあるだろう。どちらにしろ、神代さんが教皇では都合が悪いからそういうことを言っているわけだ。
確かに、神代さんは別に凄い功績を上げたってわけでもないし、勇者っていうただそれだけの理由で上に立っている。聖教勇者連盟としてはそれで構わないけど、他の人からするとやはり不安なことがあるのだろう。
そうなると、方法は二つ。神代さん以外の人を教皇に据えるか、神代さんが教皇にふさわしい人物だと認めさせるかだ。
どちらの方法を取るとしても、やはりそれにふさわしい人材は必要不可欠。結局は、暗部が情報を調べ上げて清廉潔白で政治にも明るい人を見つけてくれるのを待つほかない。
私はため息をつきながら、お茶を啜った。
感想、誤字報告ありがとうございます。




