第五百二十話:代わりの人材
一番の問題は、代役を立てるとしてもどこからその人を持ってくるかだ。
国の運営を任せる以上、他国の者を立てるのは憚られる。となると、自前で用意するしかないが、そういった人材を探すのは難しい。
国の宰相が必要なので誰か来てくださいと募集を出すわけにもいかないだろう。そんなことをすれば、どこかで他国に漏れた場合弱点を晒すことになる。
ただでさえ教皇がいなくなって少し荒れているのにそんなことをしたら不満を持った国から戦争を仕掛けられる可能性だってある。
良くも悪くも、聖教勇者連盟の転生者達はゲーム的な勇者だったからね。表向きは歓迎していても、影では悪口を言っていることもよくある。と言うかあった。
そうなると秘密裏に集める必要があるが、これが難しい。
普通なら、そういう知識を持つ人は貴族だから、貴族から選出したいところではあるが、多くの貴族は教皇と繋がっており、裏ではあくどいこともよくやっている連中だ。
そもそも、教皇が変わり、そういった裏の便宜を図らなくなったせいで貴族達は反発しており、そんな奴らに舵を任せたら確実に乗っ取られる。腐敗を防ぐためには貴族から選出するのは難しい。
では平民から選出するのかと言われたらそれも難しい。
そもそも必要な人材は国を運営するための人材であって、そのためには経営術や社交術などのスキルが必須となる。裕福な商人とかならともかく、ただの平民がそんな教育を受けている可能性はかなり低く、満足な働きをしてくれる可能性はないに等しい。
国のためを思って、と言う性格的な面ならいいかもしれないが、技術がついてこなければ意味がない。
だから探すとしたら、教皇の影響をあまり受けていないであろう下級貴族や、教育もきっちり受けている可能性がある裕福な平民と言うことになるが、果たしてそんな狭い範囲でどこまで該当者がいるか。
「もういっそのことハクが幹部になってくれない?」
「私にそんなことを期待されても困ります」
すでに幹部不在の状況からかなりの時間が経過している。最初は転生者の中から幹部を選出し、それで運営していこうと考えていたようだが、それでは時間も人材も足りないと気づき、慌てて会議を開いているような状況だ。
交易だって一部を除いて止まったままだし、あくどい貴族達を黙らせるためにもきちんと国としてまとまる必要がある。早くしなければならないが、なかなか思うようにはいかない。
「他国から持ってくるのは論外、自国から探すにしても時間がかかりすぎるし候補も少ない。一体どうすれば」
「……方法がないわけではないですけど」
「え、ホント?」
私の呟きにコノハさんが反応を示す。
解決法、とまではいかないけど、時間を稼ぐ方法だったらなくはない。
ただ、流石にこれはまずいかなぁと思わなくもない。そもそも、許可が下りるかわからないし。
「どんな方法?」
「自国から探すには時間が足りないんですよね? だったら、それらが見つかるまでの短い期間だけでも肩代わりできる人が見つかればいいわけです。だから、その短い期間を竜が請け負います」
「え、竜が?」
時間稼ぎ要因としてあげたのは竜。竜が帝王学なんて学んでいるわけないだろって? まあ確かに、きちんと教育を受けていたわけではない。けれど、全くのド素人と言うわけでもないのだ。
なぜかと言うと、竜は遥か昔から竜脈の整備を行ってきた。そして、竜脈の上には国家が成り立ち、主要な町にある竜脈を整備するためには【人化】して潜入する必要がある。
その際、竜脈がある場所は大抵が城の下だ。それを整備するためには城に入る必要があり、その条件はホムラを始めとして色々な竜が様々な方法でクリアしている。
つまり、竜は昔から王族の姿をよく見てきたのだ。当然、国を運営するのに必要なノウハウも入り込んでくる。
もちろん、竜と人では統治の方法が全然違うけど、人の真似をすることはできるわけだ。
だから、竜ならば多少の時間稼ぎくらいはできるはずなのである。
「なるほど。確かに長生きな竜の膨大な知識があれば、国運営の真似事をできる竜がいても不思議はないわね」
「聞いてみないとわかりませんが、多分できるんじゃないかと」
「いいんじゃない? 何でもかんでも竜におんぶにだっこじゃちょっと申し訳ないけど、そうも言ってられない状況だし」
すでに市民からは不満の声が上がっているらしい。だから、この問題は一刻も早く解決する必要がある。
竜であれば、人族の国とはあまり関係がないし、情報漏洩を心配する必要もない。どうせ竜はそんなこと関係なしに攻められるしね。
「それじゃあ、聞いてみてくれる? それから、知識があるなら教育も頼みたいんだけど」
「あ、そうですね。そっちの人材の事を忘れていました」
将来を転生者達に任せるとしても、その教育係は必須である。
竜の帝王学は数百年分の積み重ねだから多少情報は古いかもしれないが、全く役に立たないということはないだろう。と言うか、そうでなければ短い期間とはいえ代わりなど務まらない。
教育も竜が請け負うならまあ、そこそこ何とかなるんじゃないかな。
問題はお父さんがどう反応するかって話なんだけど……。
「じゃあ、後で聞いてみますね」
「もしうまく行ったら教えてね。報酬に関してはその時位考えましょう」
「報酬……まあ、確かに必要ですか」
いきなり国の運営を担ってくれと言って、その上無報酬では流石に世間体が悪すぎる。いくら相手が竜だとしても、だからこそ報酬は支払うべきだろう。
ただ、竜が報酬に要求するものって何だろう? 強いて言うなら酒とか食糧だと思うけど。
「それについても一応聞いておきます」
「それじゃあ、この話は一旦終わりかな」
話が一段落付き、お互いにふぅと息を吐く。
コノハさんとはだいぶ仲良くなれたような気がする。カエデさんと会わせたというのが一番大きいとは思うんだけど、そうでなくても私の事をよく理解しているし、頭の回転も速い。
聖教勇者連盟の中では、カムイの次に話しやすい人かもしれないね。
「ところで、ずっと気になってたんだけどさ」
「はい?」
「ハクって恋人とかっていないの?」
「ぶふっ!」
ちょうどお茶を飲んでいたので盛大に吹いてしまった。
いきなり何を言い出すかと思えば……いや、コノハさんも女の子だし普通なのかな?
いや、見た目は確かに若いけど、前世の分があるんだから精神年齢はすでに結構いってると思うんだけど……。
体に引っ張られれている、とか? 私は特にそういうのは感じないけど……。
「どうなの?」
「い、いや、まあ、一応、いますけど……」
「え、いるの!?」
コノハさんが凄い勢いで食いついてくる。
まあ、恋人と言ってもユーリさんの事だけどね。
今世では女性同士だから恋人と言うのは少し違うかもしれないけど、ユーリさんは完全にそのつもりみたいだし、私もオッケーした以上は恋人を名乗ってもいいと思う。
ただ、あまり言いふらしていい情報でもない。なにせ相手は女性なうえ竜人だし。
「私が調べた情報でそれっぽいのは……もしかして、オルフェスの王子様?」
「いや、違いますけど」
「えー? それ以外だとほとんど男子がいないんだけど」
「まあ、そうでしょうね……」
コノハさんの情報網がどこまで広がっているのかは少し怖いところだが、私がこれまで特に接してきた男子なんてせいぜい……どれくらいだろう? 5、6人くらい? だと思う。
その中で友達認定しているのは王子くらいだし、その王子が違うとなればもう有力な男子は残らない。
私はしばらくの間どんな人なのと質問攻めされたが、結局答えることはなかった。せいぜい、ちょっとした特徴を答えたくらいだ。
別にばらしてもいいけど、やっぱり少し恥ずかしいし、言いたくない。
だがその結果、しばらくの間はコノハさんに事あるごとにこの人でしょ、と言われ続けることになった。
感想、誤字報告ありがとうございます。




