幕間:揺るがぬ権力
セフィリア聖教国の教皇、クシューリガルの視点です。
この世界で最も権力を持つ国と聞かれたら、皆まず間違いなくセフィリア聖教国だと答えるだろう。
もちろん、国土だけならセフィリア聖教国よりも大きな国はあるだろうが、権力という意味ではこれに勝る国はないと思われる。
聖教勇者連盟。かつて強大な魔王を倒すために異世界から勇者を呼び出し、見事に魔王を封印した最初の国。
そんな名誉ある国であるだけでなく、今でも勇者や転生者と呼ばれる者達が、世界中の平和を守るために活動している。
いわば、世界の秩序を守る国。それがセフィリア聖教国なのだ。
そんな偉大な国の長、教皇であるのがこの私、クシューリガルである。
この地位に就くまでは数々の困難が待ち受けていた。
並みいる貴族連中を出し抜き、蹴落とし、殴りあいながら、ようやく手に入れた教皇の地位。
聖教勇者連盟という組織は昔から存在しているが、ここまでの権力を持つようになったのはごく最近である。
以前は召喚した勇者とそれを支援する神官達によって構成されており、とてもじゃないが世界中を守るなんて言う大それたことをできるような状況ではなかった。
それを打開したのが、転生者と呼ばれる存在の確保。
転生者は、どうやら勇者の劣化版のようなものらしい。類稀なる力を持ち、一人だけでも一軍に匹敵するような力を持っている。
本来であれば、そんな奴らを制御するなど不可能であるように見えるが、そう考えるのはそこら辺の凡人共だけだ。
セフィリア聖教国は教会が根幹にある国だけあって、色々な情報が集まってくる。
その中には、且つて使われていた呪いに関する資料も残されていた。
それを見てみれば、呪いの文様さえ刻めば、自由に思考を誘導することができる術もあった。
私はこれは使えると思い、すぐさま導入することを決定した。
呪いは禁忌である? 昔は当然のように使っていたのに今更使ったところで何の問題があるというのか。
私や私に協力してくれた貴族達が得をするならばそれでよい。所詮、転生者などこの世界に紛れ込んだ異物に過ぎないのだから。
この政策を始めてからは、面白いように戦力が伸びていった。どこかで特異な能力を見せた子供がいると聞けば、保護を理由に引き取っていく。
中には子を手放さない親もいたが、そんな奴は裏で手を回して借金漬けにしたり、事故でちょっと働けなくなってもらうことで対処していった。
もちろん、それだけではいらぬ反発を生むから、なるべく転生者の意思を汲むようにはしてやったが、それも呪いを刻むまでの話だ。
転生者は実に都合のいい駒に育ってくれる。仮に反抗する国があったとしても、彼らを出せばすぐにでも鎮圧してくれるだろう。
生産の面でも彼らの知識は役に立つ。この世界では見たこともないような便利な道具は、いい収入源になった。
もちろん、売るのはごく一部の限られた者だけである。こういう技術は独占した方が都合がいい。製法がわからなければ、ここから買うしかないのだから、値段は吊り上げ放題だ。
戦力も資金も潤沢にあり、さらには転移能力を持つ転生者の存在によって世界中への干渉が可能となった。
そこからはやりたい放題である。
勇者のためという理由で神具を巻き上げたり、魔物の脅威から救ってやるという建前でただ飯を食ったり女を抱きまくる。
そんなことをやっても、誰も逆らうことはできない。最高の権力を手に入れたのだ。
「誤算だったのは、勇者が死んだこと。そして、竜が攻めてきたことか」
召喚の際に何かしらの作用が発揮されているのか、勇者は皆強大な能力を有していた。
何をしてもびくともしない耐性、岩をも砕くほどの腕力、そしてなにより、神具に選ばれる適性。
そんな強い力を持っているのに、こちらの世界のことにはまるで知識がない赤子のような思考。カモにするのは簡単だった。
今までにも勇者は何度も召喚してきたが、いずれも生涯負けることはなく、皆老衰で死んでいった。
まあ、あまり成長しすぎて知恵を付けたら面倒なので、ある程度成長したら洗脳で思考を誘導してやり、自ら死にに行くように仕向けたこともあったが、勇者など召喚すればいくらでも呼べるのだから問題はない。
だから、まさか勇者が負けて死ぬようなことがあるとは思わなかった。
「あの小娘、余計なことをしてくれる」
勇者は急に襲ってきた竜に殺されたということらしい。捜索はしたが、死体は見つかることはなかった。
死体はともかく、神具を二本も失ったのは痛すぎる。
そもそも、神具の一本は竜殺しとも呼ばれるノートゥングだったはず。にもかかわらず、竜に負けたということは、今回の勇者はよほどの外れだったということだろう。
本当に忌々しい。
それに関連してかはわからないが、その後に報告にあった竜を擁する少女を捕まえたが、それが竜の逆鱗に触れたのか、聖庭を襲撃されるという珍事。
訳がわからない。
竜など、知性の欠片もないただの空飛ぶトカゲに過ぎない。一応、竜の素材で作られた武器や防具は高い性能を誇るので、利用価値がないわけではないが、時たま現れて、転生者達のおもちゃになるのが関の山だったはずだ。
なのに、此度の襲撃は転生者ですら刃が立たず、私達も逃げるしかなかった。
勇者もおらず、転生者も役に立たない。そんな状況ではどうしようもない。
しかし、転生者だってただでやられるとは思わない。きっと、戦力が集まれば竜を追い返すくらいはしてくれるだろう。
そうなってくれれば、後は頃合いを見て戻ればいいだけ。私の地位は揺るがない。
「クシューリガル様、食事の用意ができました」
「うむ、ご苦労」
物思いにふけっていると、司祭の一人が食事を持ってきた。
ここの食事はまずいわけではないが、いつもと比べれば質はかなり低い。
せっかくセフィリア聖教国の長が来たというのに、もてなしの心がこもっていない。
せめて、ロック鳥の肉を使ったステーキやアマミツを使ったケーキを用意すべきだろう。
部屋も狭いし、早く城に戻りたいところだ。
「聖庭の様子はどうなっている?」
「竜の姿は見えません。今は復興中と言ったところでしょうか。どうやらうまく退けたようですな」
「それは何より」
流石に竜の大群が相手ということもあって、無傷でとはいかなかったらしい。
しかし、あれほど役に立たないと思っていた転生者でも、きちんと竜を退けたことだけは評価できる。
今すぐにでも戻ってもいいが、今戻れば復興の指揮を取らなくてはならないし、それは面倒だ。
それに何より、国民に対しての説明も面倒くさい。勝手にやってくれているのだから、戻るのはそれが終わってからでもいいだろう。
それまでは、食事の質を上げさせながら耐えるとしよう。ここは町一番の宿らしいが、もっといい宿があればそこに移ってもいいな。
「戻ったら、まずは秘蔵のワインを開けるとしよう。まさか、城まで破壊されているということはあるまい」
あの後どうなったかは詳しく知らないが、転生者に追い返されるくらいなのだから竜の大群も大したことはなかったってことだろう。
所詮はただの空飛ぶトカゲ。強い力を持っていても、それを効率的に使う術を知らなければ意味がない。
私のように頭を使って生きていかなければな。
食事の友に出てきたそれなりのワインを飲みながら、帰った時の極上の一杯を夢見ていた。
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