幕間:ハクの胸の内2
聖教勇者連盟のとある転生者の視点です。
ハクの正体が竜であるということは他の人にも衝撃を与えたようだ。周りに座っている仲間も話の輪に入ってこそ来ないが聞き耳を立てているのがわかる。
「彼女はとても緊張していたみたい。嫌われたらどうしよう、仲良くなれるかなとしきりに心配していたようね」
「嫌われたくないなら、なんで隠し事なんてするんだ?」
「そりゃ隠すでしょ。どうやらまだ竜のことを認められない人もいるようだし?」
確かに、仲間の中には未だに竜の事を嫌っている連中もいる。最近考えが変わったが、俺も前はそうだった。
そもそも、聖教勇者連盟は竜と敵対していると公言している。そんな組織を相手に自分は竜だなんて言ったら嫌われてしまうかもしれないっていうのは容易に想像できるだろう。
「なら、転生者っていうのも嘘か?」
「いえ、それは本当みたい。竜の転生者なんてレアなんてレベルじゃないわね」
リナの報告だと、竜人の転生者っていうのは目撃されているらしい。だけど、竜人は一応人族なわけだし、人族ですらない竜に転生するっていうのは正直ちょっと考えられない。
だってそうなると、下手したら魔物に転生している人もいるかもしれないってことだろ? 俺達が倒した中にそういった魔物に転生した転生者がいたかもしれないと考えると悪いことをしてしまったと思う。
まあ、みんな知性の欠片もなさそうなのばかりだったから違うと信じたいけど……。
「でも、転生の特典としてもらったって言っていた魔法の才は嘘ね。あれは恐らく、竜としての力のはず。だから、彼女は自らの能力を明かしていないのよ」
転生者は皆特別な能力を授かっている。あの魔法の才であれば、それが特典だと言ってもおかしくはないが、どうやら違うらしい。
仲間になるというのなら、そういう隠し事はいただけない。俺達は皆お互いに能力を明かし合っていて、それはすなわち信頼の証でもある。
まあ、まだ距離を測りあぐねていると言えばそうなのかもしれないが。
「だから、安易に信じるのはどうかと思うわ」
「んー、まあ、確かにハクちゃんが色々隠し事してるっていうのはわかったけどさ、だからと言って信じない理由にはならないんじゃない?」
「……どういうこと?」
彼女の発言に対し、一人が反論する。
どうやら彼はハクの事を信用しているようで、何かと反論してくる。相手もそれをわかっているので強く言い返すことはないが、面白く思っていない人もいそうだ。
かくいう彼女も自分の意見に反論されて少し眉をひそめている。彼女は心を読むから、心の底からそう思っていないと説得力はないのだが、どういう理由なのだろう?
「だって、ハクちゃんの正体が竜だとして、何か不都合ある?」
「それは……」
「ハクちゃんがどれほどの竜かは知らないけど、少なくともあれだけの大群がハクちゃんを助けるために来るくらい溺愛されているってことでしょ? 僕達の事が気に入らないのなら、それこそ力づくでくればいい。けれど、ハクちゃんはそうはせず、むしろ嫌われたくない、友達になりたいと思ってくれているんでしょ? 見た目もただの女の子だし、何も不都合はないと思うんだけど」
確かに、ハクが竜だとして、変わるのは第一印象くらいなものだ。
ハクがその気ならここは再び火の海と化しただろうし、むざむざやられはしないとしても大きな被害が出たのは確実である。
なのに、ハクはそれをせず、俺達との友好を望んだ。俺達と仲良くなりたいと思っていた。
確かに、隠し事をするのはよくないかもしれない。けれど、それを言えば明らかに不利になるのにわざわざ言いふらすのはただの馬鹿でしかない。だったら、ばれるかもしれないというリスクを負っても、秘密にした方がいい。
それに、竜として接するよりも人として接してくれた方が親しみやすいしな。
「でも、能力について隠すのはどうなのよ」
「確かハクちゃんはこう言っていたよね。『何かを授かったという気はしないけど、多分魔法の才だと思う』って。それってつまり、僕達と違って何も願わずに来たってことじゃないかな」
「どういうこと?」
「だってそうじゃない? 僕達は記憶はおぼろげだけど確実に神様らしき人から何かしらの能力を受け取ったっていう認識がある。けれど、ハクちゃんにはそれがなかった。つまり、何も願わなかったから答えようがなかったてことだよ。それとも、あの発言は嘘だった?」
「……いいえ、あれは本当の事だったわ」
「でしょ? だから、ハクちゃんは能力を明かさないんじゃなくて明かせないんだよ」
なるほど。普通、記憶を持ったまま転生でき、その際に何でも能力を一つ授けると言われたら、何かしら願うものだ。
アニメや小説の中でしかなかったファンタジーの世界に行けるのだから、魔法が使えるようになりたいとか最強の剣士になりたいとか、堅実な人だったら丈夫な体が欲しいとか、どんなに夢がない人でも何かしらの能力を考えそうなものである。
しかし、願わない人もいた。ただただ、転生だけを望んで……いや、もしかしたらそれすらも望まずにこの世界に来たのかもしれない。
竜に転生したのは神様の慈悲かなにかだろうか。あまりに欲がないから、せめて生きるのに不自由しない体を与えたのかもしれない。
「元々ハクちゃんってセシルのチームにいきなり命を狙われる形で襲われたんでしょ? でも、セシル達はおろか、その後に行ったカムイでさえ無傷でここにいる。それって、事を荒立てないように説得したってことだよね。本来なら突然襲い掛かられて反撃してもいいところを相手を殺さないようにして。それだけでも、相当慈悲深い性格してると思うよ」
「ふむ……」
「まあ、どうしても信用できないって言うなら、今後の働き次第で決めればいいんじゃないかな? 僕達だって、会ってすぐに仲良くなったわけじゃないでしょ? 仲良くなるには時間が必要なんだから、少し時間をおいて見極めればいい」
話を聞く限り、ハクがもたらした犠牲はあまりに少ない。こちらの問答無用で竜人を殺し、それに与した人までも殺す大雑把なやり方とは大違いだ。
ないわけではないと思うけど、それでもハクの性格からしたら、だいぶ葛藤してから手にかけていそうだ。
第一印象は確かに悪かったかもしれない。けれど、仲間として迎え入れた以上、多少なりとも歩み寄る姿勢は大事だ。
まだ出会ったばかり、焦る必要はない。これから少しずつ知っていけばいい。
「……そうね、少し疑心暗鬼になっていたのかもしれないわ」
「そうだな、まだ会ったばかりなんだし、これから知っていけばいいんだ」
「そういうこと。まあ、納得できない連中はハクちゃんに直接言ったらいいんじゃないかな? そうしたら、少しはハクちゃんの人となりが見えてくるかもしれないし」
竜の事を嫌っている連中はハクのことを認めないだろう。でも、認めないからといってすることと言えば、せいぜい嫌がらせをするくらい。
だけど、ハクはそれくらいじゃ多分へこたれない。きちんと話をして、自分の力で解決していきそうな気がする。
聞き耳を立てていた奴らは気まずそうにそっと目線を逸らした。
「多分、僕がこういうのはコノハの計算通りだったんだろうなぁ……」
ぼそりと呟く言葉に、確かにそうかもしれないと納得してしまった。
なぜなら、コノハは心が読める彼女の存在も知っていたはずである。その上で、隠し事をしたってことは、ハクの本心を探らせるのが目的だったに違いない。
ハクの本心、俺達と仲良くなりたい、嫌われたくないという感情。あれを彼女の口から言われれば、誰もが信じる。
だからこそ、あえて隠し事をしたんじゃないだろうか。そう考えると、コノハはやはり頭が回る奴だなと思う。
ハクは確かに得体が知れないし、俺よりも強いかもしれない。けれど、それに怯えて関わり合いにならないのは少し違う気がしてきた。
機会があったら、話しかけてみようかな。
感想、誤字報告ありがとうございます。




