第五百一話:学園の影響
ほどなくして、解呪魔法の開発は終わった。
元から基盤はできていたし、形にするだけだったら一日もいらない。その後、色々と調整を加え、より効率的に魔力を運用するように作り出したのが今の解呪魔法だ。
これならば、理論上は一定の範囲内にいれば魔力が足りれば何人でも同時に呪いを解くことができる。
まあ、普通はそんな大量に呪い持ちがいるわけないのだけど、実際にいるのだから仕方がない。
「さて、ようやく試せるね」
すでに休みは終わり、学園で新たな生活が始まってしまった。
私も今年で四年生。折り返し地点までやってきた。
授業も中級魔法を扱うようになってきて、より高度な技術を学ぶことになっているが、クラスはCクラスに転落と幸先の悪いスタートであった。
まあ、これは仕方がない。サリアも私がいなくなった影響で授業に身が入っていなかったようだし、成績が落ちるのもやむなしと言ったところだ。
ただ、この現象はサリアだけでなく、他の多くの生徒にも影響を及ぼしていたらしい。
シルヴィアさんやアーシェさんはもちろん、ミスティアさん、キーリエさん、ヴィクトール先輩、それにエリートである王子までもがワンランク転落し、それ以外の生徒も軒並み転落という前代未聞の事態が起こったらしい。
何でも、私がいなくなったことによって多くの生徒の士気が減少し、授業をまともに受けられる生徒がいなかったことが原因のようだ。
私はそれを聞いた時、そうはならんだろと思ったけどね。
そりゃ、私は一応王都では有名人だし、学園でも闘技大会の件とかカードゲームの件とかで割と有名ではあるけど、だからと言って私がいなくなったら勉強に身が入らないくらい気にしちゃうっておかしくない?
中には、私をむざむざ引き渡した王様に対して非難を浴びせる人までいたのだとか。
それは学園長が諭してなんとか収まったらしいけど、暴動一歩手前まで行ったこともあり、先生方も私についての話題は極力出さないように配慮していたようだ。
そりゃ、心配してくれる人がいるのは嬉しいことだけど、だからと言ってそこまで気にせんでも……なんか申し訳ない気持ちになる。
まあ、そんな風にめちゃくちゃ心配されていたわけだから、私が学園に顔を出した時はそれはもう騒がれた。
真っ先にキーリエさんが騒ぎ立て、そこから続けざまに拡散していき、あっという間に学園中の注目の的だ。
心配していたと手を握ってくる者、よく無事だったと涙ぐむ者、信じていたと肩を叩く者、様々な反応があったけど、概ね私に好意的だった。
一時はサリアと共に学園を追放されかけていたこともあったのに随分と様変わりしたものだ。
そんなわけで、私はそれらの対応に追われることになり、魔法が完成した後もしばらくの間は学園から出られなかった。
でも、しばらく経ってそれもようやく落ち着いてきたので、やっと試しに行けるというわけだ。
「うまくいくといいんだけどね」
王様にはすでに許可は取ってある。様子を聞いてみたが、以前の威圧が効いたのか、割と大人しくしているようだ。
中央部の道を通って、彼らが軟禁されている屋敷へと足を延ばす。
門には甲冑に身を包んだ兵士の姿。ヘルムはしていないから顔は見えるけど、見たことある顔だね。
「ご苦労様です」
「これはハク様、お久しぶりです」
「変わりはありませんか?」
「はい、あれからと言うもの、特に騒ぎ立てることもなく大人しくしております」
私は彼らに聖教勇者連盟の教えは間違っていると告げた。彼らが洗脳されているのなら、その言葉は空虚なものになっていただろうが、彼らは皆一度死の危機に瀕している。
ルナさんがトラウマへの恐怖から洗脳を脱したように、彼らもまた多少なりとも洗脳の枷から逃れているはずだ。
だからこそ、私の言葉を聞いてどうすべきかを悩んでいるのだろう。
あれからかなり経つが、その考えに変化はあっただろうか? もし、揺れているようなら洗脳を解くことによって決定的になるかもしれないね。
「少し彼らと会いたいのですが、よろしいですか?」
「はい、ハク様ならば問題ありません。どうぞお入りください」
私は兵士達に許可を貰ってから屋敷のノッカーを鳴らす。すると、しばらくして扉が開き、ドレスを纏った金髪の女性が姿を現した。
「はい、なんでしょう……って、あなたは!」
「お久しぶりです、プラーガさん。あれからお変わりありませんか?」
プラーガさんは私の姿を見るなり緊張したように身を強張らせる。しかし、それも一瞬の事ですぐに平静を取り戻していた。
プラーガさんはある程度時間を操れるらしいけど、もしかして能力使った? いや、こんなことに使うわけないか。
「え、ええ、ちゃんと大人しくしているわ」
「それは何よりです。なら、私の言ったことも少しは理解してくれましたか?」
「それは……」
プラーガさんは視線を逸らして言い澱む。
まあ、いくら洗脳が揺らいでいるとはいっても、いきなり自分達の所属する組織が世界の破滅をもたらすものだと言われても納得することはできないだろう。
竜人を殺すことが悪いこと、くらいはわかるかもしれないけど、それを認めてしまえば自分達は犯罪者と言うことになる。
今まで聖教勇者連盟の権力を使って好き放題してきたことだろうし、いくら自分で考える力があったとしても認めたくはないよね。
だけど、プラーガさんはここにいる三人の中では比較的ましな方だ。時間を操るという、この三人の中でもひときわ突出した能力を持ちながら、大人しく軟禁されているのがその証明である。
他の二人と違い、プラーガさんなら解呪なしでも自力で洗脳を解くかもしれないね。
「……人を殺すのは悪いことだわ。だけど、魔物を殺すことは正義であると教えられた。竜人は魔物なのだから、殺すことは正義なんだと思っていた。だけど……やっぱり少しおかしいとは思う」
「竜人が人族と変わりないことに気付きましたか?」
「……はい」
なるほど、竜人を人族だと認め、一般的な倫理観から殺すことはおかしいと気づいた。
まあ、そんなの当たり前と言えば当たり前だけど、元々竜人はおろかそれに加担する人族まで容赦なく殺していたような連中なのだからそのことに気付けただけでも大きな前進である。
他の二人がどうかは知らないが、プラーガさんはやっぱりまだ良心的な方だね。
「他のお二人の様子はどうです?」
「アーネもミラもいつも愚痴を言っています。こうなったのは竜人のせいだって」
「そちらは反省の色なしですか」
そうなると、大人しくしているのは単純に私が怖いからか。
まあ、元々あの二人はこの扱いに納得いっていなかったようだし、私さえいなければとっくの昔に脱走していることだろう。
むしろ、さっさと逃げて私がいないところまで逃げればいいのにとも思うが、助けが来るとでも思っているんだろうか?
まあ確かに、聖教勇者連盟の一員を不当に監禁しているとあれば本部が黙っていないだろうけど、彼らはすでに本部からは死亡扱いされている。だから、どこからか情報が漏れない限り助けが来ることは一生ない。
というか、今はすでに聖教勇者連盟の上層部は解体されてしまっているし、仮に伝わったとしても助けが来るかは怪しいね。
それはともかく、今回はまだ反抗的なのはいいサンプルになる。解呪魔法で心境の変化が現れれば、これはかなり有効なことだということになるだろう。
私は三人共に解呪魔法をかけるべく、屋敷の中へお邪魔することにした。
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