第四百九十七話:説得すべき相手
校舎の中は私が通う学園とは少々様相が違っていた。
まあ、国が違うのだから当たり前かもしれないけど、より懐かしい気分にさせてくれるというか、私が学生の時に通っていた学校と似たような雰囲気を感じる。
これも転生者達の案なのだろうか。それに合わせて改築したのだとしたら、だいぶ転生者に対して優しいと思う。
探知魔法を頼りに進んでいくと、一つの教室に行きついた。中には、整然と並べられた机と椅子、黒板に教壇など教室らしい雰囲気を感じる。
特に、黒板があるのはいい。私の通う学園では黒板がないから、ぜひとも採用してほしいものだ。
「む、ハクか。久しぶりだな」
「お久しぶりですルナさん」
そんな教壇の前にルナさんはいた。何やら、資料を片付けているようである。黒板にも何かしら書かれていた形跡があるから、さっきまでそれを使って説得してたんだろうな。
「ルナさん、この方は?」
「ああ、ハクだ。例の竜の巫女だよ」
「この方が……初めまして、アイリーンと申します。よろしくお願いしますね」
どうやらこの人がアイリーンさんのようだ。
白を基調としたセーラー服に頭に白のリボンを付けている小柄な女性。
どことなく、シュピネルさんと似たような格好だが、色的に対と言うか、二人合わせて一つみたいな雰囲気がするね。
これで髪色が黒だったら完璧だったけど、どうやら私と同じ銀髪らしい。その髪色に白のリボンは合わないような気もするけど……まあ、本人の自由だし別にいいか。
「あ、アイリーン、その……」
「あら、シュピネル、どこへ行っていたの? もうとっくに会議は終わってしまったわよ?」
「ご、ごめんなさい……」
アイリーンさんはシュピネルさんを見るや否や少し頬を膨らませて少し砕けた口調で話しかける。
友達と言うのは本当らしい。と言うか、格好を見る限りもっと深い関係のように思える。
顔は似てないけど、姉妹と言っても差し支えなさそうだ。その場合、どちらが姉になるのかわからないけど。
「アイリーン、私が悪かったわ。今すぐにでも竜を討伐すべきと言うのは軽率だった」
「まあ、わかってくれたの? ええ、ええ、せっかく勇者様が竜を諭してくださったのに、また喧嘩を売りに行くなんてどう考えてもおかしいですもの、気づいてくれてよかったわ」
アイリーンさんは嬉しそうに何度も頷いている。
まあ、シュピネルさんは今すぐに行くのがまずいと言っただけで、場合によっては討伐しなければならないと考えているようだけど、それは些細なことか。
とりあえず和解できたようで何よりである。このままずっと二人で引きこもってくれたら嬉しいね。
「……何かやったのか?」
「ええ、まあ。そのことでルナさんに少し相談したいことがあったので来たんですよ」
「ふむ、話してみてくれ」
私はシュピネルさんにかけられた呪いの事を話す。
私の予想が正しければ、聖教勇者連盟に所属する多くの人々がこの呪いをかけられているはずだ。
シュピネルさんにかけられた呪いを解いたことで心境の変化が生まれたことから、これが恐らく洗脳に関係するものだと判断した。だから、これを解けば、多少なりとも過激な思想をする者は減るのではないかと考えられる。
「なるほど、洗脳と来たか。確かに、あいつらならやってもおかしくはなさそうだな」
「ルナさんは恐らく大丈夫と思いますけど、一応見ておきましょうか?」
「そうだな、後で見てくれるか?」
「わかりました」
ルナさんはすでに竜のことなど特に興味はないように見える。それは恐らく、あの時のトラウマが原因だろう。
カムイの時と同じように、闘技大会で起こったあの出来事はルナさんにとって相当衝撃的なことだっただろう。だから、それによって洗脳が解け、自分の考えを持つことができるようになったと思われる。
セシルさんは同じくトラウマから、シンシアさんとエミさんは元から敵に対する慈悲が強く、それらの意思が強かったから洗脳が効きにくかったのだと思われる。
そうして、自力で洗脳の手から逃れた人ならば、恐らくすでに呪いは解けているのではないかと思う。いや、呪いとしては残っているかもしれないが、一度洗脳の情報がリセットされたとでも考えるべきか。
洗脳をかけたのは恐らく上層部の人間だろうし、彼らの命令が新しく下されない限り恐らく害はないはずである。そして、上層部の人間は多くが死亡、残りは逃亡しているので今のところ心配はない。
「それで聞きたいんですが、今ここに残っている神官の中で洗脳をかけるような人はいますか?」
「そうだな……」
ルナさんはしばし考えた後、いないと答えた。
神官と一口に言っても、色々な役職がある。今ここに残っている神官はまず侍女。転生者達に宛がわれた召使いのような立場であり、厳密には神官ではなくただのメイドである。彼女らは転生者達が身の回りで苦労しないように配置されたただの雑務担当であり、とても呪いをかけるだとかそういう重要な役目を任せられるとは思えない。
次に戦闘神官。主に魔物退治に向かう転生者達に付き従っている神官であり、その名の通り戦闘ができるため転生者のサポートをする立場にある。ただ、サポートと言ってもほとんどの転生者は戦闘神官より圧倒的に強いので、実質ただの監視のようなものだ。危険な場所に何度も行くことになるので、使い捨てのような扱いを受けており、これも呪いをかけるとは思えない。
最後に教育神官。学び舎で色々と知識を教える係であり、竜が悪だと説いたのも彼らである。転生者達の思考を誘導した張本人ではあるが、彼ら自身は本気で竜を悪だと信じているようだ。転生者に対する態度もかなり柔らかく、まるで我が子に接するようにしていることから、そんな卑劣な手段を進んでやろうとは思っていないと思われる。
その他の上級神官や幹部達は軒並み蒸発しているので、ここに残っている神官の中で呪いをかけそうな人はいないと結論を出したようだった。
「もし、転生者達を洗脳によって操っているなんてことが知れたら一気に信用を失うだろう。そもそも呪いは禁忌とされているし、それを禁止すべき教会がそんなことやっていたらいくら勇者がいるとはいえ反発する国は大勢あるはずだ。だから、もしやるとしたら、幹部連中だと思うぞ」
「なるほど。確かにそうですね」
いくら世界的に信用されている大国家だとしても、流石に呪いを大っぴらに使っていると知れたら大問題だ。
だからこそ、取り扱いには十分注意しているだろうし、恐らくこれを知っているのは幹部などのごく少数に限られると思う。
であれば、今ここにいる下級や中級の神官なら呪いをかけてくる心配はないと言っても差し支えないだろう。もしかしたら、呪いがあるという事実すら知らない可能性もある。
問題は神官達は本気で竜は悪だと思っているってところかな。いくら転生者の洗脳を解いたとしても、幼少期から接している先生に諭されたら靡いてしまう可能性が高い。根本的に竜の意識を変えるなら、神官の説得も必要かもしれない。
「なんか、かなり大変そうだなぁ……」
せっかく、洗脳を解けば転生者を引き込めると思ったのに、神官をどうにかしなきゃいけないことを考えると憂鬱で仕方がない。
それこそ、根気強く説得を続けてわかってもらうとかしか方法はないだろう。
さて、どうしたものかな……。
感想、誤字報告ありがとうございます。




