表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
559/1677

第四百九十三話:揺れる心

 女性の名前はシュピネルと言うらしい。聖教勇者連盟に所属する転生者の一人で、本部を拠点に活動する戦闘グループの一員。

 先の襲撃ではコノハさんに諭されて避難していた一人であり、現在勇者と共に竜の谷へ攻め入る計画に賛成している過激派のようだ。

 【鑑定】で見る限り、どうやらこの人も竜を狩ったことがあるらしい。そんな人があの襲撃の時に素直に避難したというのは意外だったけど、どうやら友人の護衛のためにあえて一緒に避難したようだ。

 と言うのも、聖教勇者連盟が集めるいわゆる勇者の補佐は500名あまりいるが、その中でも転生者と呼ばれる存在なのは100名ほどしかいないらしい。しかも、その大半が各地に散っているため、接触の機会は意外に少ないようだ。

 まあ、大半は自由な場所に行くことができるので、学生時代に仲良くなったグループで集まってと言うのが多いようなのだが、だからこそ仲間意識が強い、らしい。

 数少ない同郷の人であり、学生時代を共に過ごした仲なのなら確かに友情が芽生えてもおかしくはない。

 だから、シュピネルさんもそういった友人を守るために戦うことではなく守ることを優先して身を引いた。

 そして同時に思ったらしい。これ以上竜を野放しにしていたらいずれ大切な人を奪われるかもしれない。だからこそ、そうなる前に討伐してしまいたいと。


「では、竜はやはり倒すべき悪だと?」


「その通りよ。アイリーンのためにも、世界の平和のためにも、生かしておくわけにはいかない」


 割とすんなり話してくれるのはいいんだけど、これはどっちなんだろうか。

 竜を憎んでいるともとれるし、友達を守るために仕方なく、ともとれる。

 ちょっと、これだけだとまだわからないかな。


「そのアイリーンさんとは学生時代に出会ったんですか?」


「そうよ。同時期に組織に保護され、同じ学び舎で学んだ。まあ、今は少し喧嘩中だけどね」


「喧嘩? 何かあったんですか?」


「さっき、竜は討伐すべきだって言ったでしょ。でも、アイリーンは反対しているの。せっかく勇者様が場を収めてくれたのにそれを破る様な事をしてはいけないってね」


 どうやら件の会議にはアイリーンさんとやらも説得する側で参加しているらしい。だから、顔を合わせづらいのもあってすっぽかしているのだとか。

 今のところ優勢なのは過激派の方で、止めようとしているのはほんの十数人らしいけど、勇者である神代さんがうんと言わないからいつまで経っても勝負がつかないらしい。

 まあ、神代さんとしては竜と戦いたくなんてないだろうけど、それだけ周りから持ち上げられて、勇者様頑張れと応援されていてはそれに応えないのもどうなのかと考えてもおかしくはない。

 実際、今もどうしたらいいかは答えが出ていないようだし、下手をすると無理やり連れだして強行軍を取るという可能性もなくはない。

 早めに対処しないと大変なことになりそうだね。


「シュピネルさんは、アイリーンさんの反対を押し切ってでも討伐に向かうべきだと思いますか?」


「わからない。実際に見たわけではないけど、同じチームの仲間が歯が立たなかったと言っているのなら、私でももしかしたら歯が立たないかもしれないし、無駄死にするだけかもしれない。だけど、いつまでも竜の影に怯えながら暮らすというのも違う気がする。それならいっそ、ダメ元でも討伐に赴いた方がいいのではないかとも思う」


 これは、割と揺らいでいる?

 本当に洗脳されているのなら、友人のことなど無視して竜は討伐すべきだと声を上げていそうなものだ。だけど、シュピネルさんは迷っている。

 これはつまり、聖教勇者連盟の命令と友人を思う気持ちが拮抗しているってことだ。

 カムイの時と少し似ているかもしれない。あの時のカムイも、葛藤しながらも結局使命を優先することを選んだ。今のシュピネルさんも最初に話した内容が竜を討伐すべきと言う話なのだから、恐らく考えとしてはそちら寄りなんじゃないかと思うし、最終的にそちらを選びそうな雰囲気がある。

 これで洗脳されているって決めつけるのはあれだけど、だいぶ可能性は出てきたんじゃない?


「……もし迷うなら、自分の心に従えばいいと思いますよ。使命とか約束とかそれらを全部抜きにして、自分が何をしたいのかを選ぶんです」


「……そうね。その時が来れば、自分で選ぶとしよう」


 多分、この人も強い心を持っている。元々洗脳に屈しないくらい強靭な心を持っていたから、聖教勇者連盟への忠誠と友人への想いでぐらついている。

 でも、もう聖教勇者連盟はなくなった。今更、聖教勇者連盟の一員だからと使命感に囚われる必要はないと思う。

 もちろん、なくなったというのは今までの腐った体制がなくなったという意味で、本当の意味での聖教勇者連盟はむしろここから始まっていくわけだけど、それを考えるのは後でもいいだろう。

 特別な力を持ったからと言って、必ずしもその力を振るわなくてはいけないわけではないのだから。


「あなたと話しているとどうにも調子が狂うわね」


「え?」


 不意に、シュピネルさんが小さく笑いながら呟いた。

 私としては普通に話しているつもりだけど、何か気に障ることでもあったんだろうか。

 少し不安になっていると、突然体の自由が利かなくなった。


「うっ!?」


「あなた、ハクと名乗っていたわね。あなたの事は聞いているわ。この地に竜を呼び寄せた厄災の巫女。竜に育てられた少女だと」


 これは、糸か? すぐさま周囲を見回してみると、私の身体に極細の糸が絡みついているのが見えた。

 かなり強靭なようで、ちょっと力を入れた程度ではびくともしない。どこに繋がっているかは見えないけど、タイミングからして恐らくシュピネルさんの仕業だろう。

 確かに、私の事は過激派にとっては悪い形で伝わっているのは神代さんから聞いていた。竜を操る巫女として、抹殺対象になっていると。

 だけど、私はそんなに深刻に考えていなかった。なぜなら、私の容姿はごく一部の人にしか見られていないはずだからである。

 しかし、流石に名前を出すのは軽率すぎたか。少し反省しなければならない。

 一応、この状態でも【竜化】すれば糸も千切れるだろうけど、出来れば竜の力は晒したくない。そんなことをしたら、余計に命を狙われる理由を増やしてしまう。

 幸い、糸が極細のせいか神代さんもエルもまだ異常に気付いていない様子。どうにか会話で宥めなければ。


「気づいていましたか……なら、私を殺しますか?」


「初めはそのつもりだったんだけどね、今は少し気が変わったわ」


「……?」


「私もね、少し疑問に思う時はあるの。なんで私はここにいるんだろうって。なんで、竜を敵対視しているんだろうってね。でも、その度にそんなことは考えなくていい、教えられたことを忠実に守っているだけでいいって声が聞こえるの」


 シュピネルさんは今まで戦闘グループとして多くの魔物を相手にしてきたらしい。

 最初は確かに怖がっていたはずだった。でも、育て親である神官達に褒められたくて懸命に頑張っていた。

 最初こそ褒められていた時もあったけれど、それがいつの間にか娯楽になり、仕事になり、当たり前のことになっていった。

 魔物を殺すのは当たり前、竜を殺すのは当たり前、それがいつしか常識になり、シュピネルさんの脳裏にこびりついていた。

 だけど、そうじゃない。それは間違っているという声がどこからか聞こえてくる。その声に耳を傾けてもすぐに遠ざかってしまうが、それでもいつまでも消えることはなかった。


「でも、あなたと話しているとその声が強く聞こえる気がする。その声はこういうの、『お前は何のために戦っているんだ?』ってね」


 それはきっと、シュピネルさんの本当の気持ち。聖教勇者連盟によって汚染されながらも失わなかった心の輝き。

 彼女はまだ戻ることができる。元の自分へ、元の心へ。

 気づけば私は真剣にシュピネルさんの事を見つめていた。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  すでに手を血に染めた者が己の行為を振り返る。ハクさんも善性で良かれとやってんだろうけど(´Д` )よくよく考えるとエグい。竜殺しが娯楽や仕事の感覚にまでなった人物が果たして「その竜は潰すべ…
[一言] 最近はそれどころじゃなかったけど ハクちゃんは度々ノーガド戦法で挑んでしまうから やはり防御系の魔道具を作った方がいいですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ