第四百九十二話:洗脳の可能性
「神代さん、他の人達は今どこに?」
「大会議室にいると思うよ。ルナさんが竜の谷に攻め込むのは悪手だって説得してるみたい」
私はそれを聞いてチャンスだと思った。
と言うのも、一つの可能性である転生者が洗脳されている説だが、これは治すことができるものだからだ。
カムイの時のように心が揺らいでいる時に何か衝撃的な事が起これば、もしかしたら治るかもしれない。ただ、今ならばそれよりもっと簡単な方法で洗脳を解くことができるかもしれないのだ。
洗脳と言うのは一種の呪いだ。彼らがかかっているのは、竜を悪だと思うように仕向けられていると言ったところだろう。あるいは、自分達の言うことを無条件に信じろ、と言うものだったのかもしれない。
いずれにしても、呪いならば解呪すればいいだけの話。本来なら解呪は教会でしかできないことだけど、私にも解呪はできる。以前、テトにかけられた呪いを解いたこともあるしね。
「なら、ちょっと試したいことがあるから行ってきますね」
「行くって、大会議室に? それはやめておいた方がいいんじゃないかな……」
「会議室ではないですけど……どうしてですか?」
「ハクちゃんは竜の巫女として過激派の抹殺対象になっているみたいだから」
おう、そんなことになってたのか。
まあ確かに、あの時はコノハさんの口から私が竜を呼んだということは聞かされていたはずだし、それが伝わっているのなら私は竜を操ることができるとんでもない人物として要注意リストに載っていてもおかしくない。
まあ、私の正体が竜であるということはばれていないようなので別に構わないけど、姿を晒すなら少し気を付けた方がいいかもしれないね。
「なら、気を付けていきます」
「だ、だったら僕も行くよ。ハクちゃんに何かあったら困るし……」
「そうですか? ではお願いします」
別に会議室に突貫して何かしようってわけではないんだけど、別についてくる分には問題ない。
私が今からやろうとしていることは、洗脳と言う呪いの解呪だ。もちろん、洗脳などされておらず、素で竜の事を嫌悪しているという可能性もあるけど、やってみるだけの価値はある。
元々から組織に反抗的だったカエデさんのように、洗脳にかかっている様子がない人がいることを考えると、この洗脳もそこまで万能ではないと思う。ただ、知り合いすら使命だからと殺そうとするくらいには命令権が強いようだから、呪いの部類としては結構強い部類なのではないだろうか。
とりあえず試しに一人、会議室に人が集まっている今、会議に参加していない少数を狙うのは簡単だろう。まずは孤立していそうな人で試してみよう。
「一番近いのは……あそこの建物の影ですか」
目標を確認し、私は時計塔から飛び降りる。
それを見て神代さんが何かを叫び、私と共に飛び降りたかと思うと空中で私を抱きかかえて衝撃を殺しつつ地面に着地した。
そういえば、神代さんは私の身体能力についてあまり知らないのか。竜と知り合いなことや、魔法が使えることは言ってあるけど、特段ぶっ飛んだ動きを見せた覚えはない。
一応、ここに来る時にジャンプして飛び乗ってきたんだけど、あの時は神代さんは何か考え事をしていたようだし、気づいていなかったのかもしれないね。
「だ、大丈夫? 怪我してない?」
「あ、ありがとうございます。どこも怪我してませんよ」
「よかった……。もう、気を付けないとだめだよ?」
「いや、大丈夫ですからね?」
この際だから私のことについて少し教えておく。
私は普通の女の子とは違う。精霊であり、竜である人間擬きだ。
人間の時の素の身体能力は低かったけど、今なら竜の力が解放されたおかげでそこそこ無茶な動きもできる。当然、時計塔から飛び降りた程度で怪我なんてしない。
それに仮に身体能力が低くとも、その時は身体強化魔法を使えばいいだけの話だし、着地するだけだったら浮遊魔法でも使ってやれば比較的安全に降りることができる。どうあっても、この場面で私が怪我をする要素などないのだ。
それを伝えたのだが、神代さんはそれでも心配なようで、せめて一声かけて欲しいと言ってきた。
前から思ってたけど、神代さんって私のこと完全に子供だと思って接してるよね。いや、確かに子供なんだけどさ、なんか納得できない。
「ハクお嬢様をお姫様抱っこなど……私がやりたかったのに」
エルはエルでジト目で神代さんの事を見つめている。
いや、エルは私が無事に着地できること知ってるでしょ。どこに対抗意識を燃やしてるんだ。
まあ、私もどちらかと言えばエルにやってもらいたかったけども。普通の女子なら男性にこういうことされたらときめくのかもしれないが、私は元々男性なのでね。男性と女性だったら断然女性にやってもらいたい。
「さて、それじゃ行きましょうか」
気を取り直して、さっき見つけた反応の方へと歩き始める。
すぐ近くだったので、その人物が壁に寄りかかって本を読んでいる女性だというのはすぐにわかった。
年は14、5歳ほどだろうか、黒を基調としたセーラー服のような服を着ており、その白い髪と対照的でなんとも印象に残る。本を持っている左手を始め、右足や右目など至る所に包帯を巻いていて、どことなく中二病な雰囲気がする。
なんか、少し話しかけづらい雰囲気だけど、ここまで来た以上別の人を探すのもなんだか面倒だし、とりあえず話しかけてみるだけ話しかけてみよう。
「あの、少しよろしいですか?」
「……?」
私の呼びかけに、女性は本に落としていた目線を上げ、こちらに視線を向けてくる。
私とエル、そして神代さん、その組み合わせが珍しいのか少し訝しげな表情を浮かべたが、それもすぐに引っ込み、仮面のような無表情で小さく一言だけ返した。
「なに?」
「いえ、少しお話がしたくて」
どう見ても話が得意そうな感じではないけど、まあこういう人の方が無駄な会話をしなくて済むことだろう。
私が聞きたいのは、まず竜の事をどう思っているか。これは恐らく多くの人が悪い奴だ、世界の敵だと答えることだろう。
その先、教皇についてどう思っているかも聞いておきたい。もし、洗脳されているとして、その内容がこちらの言うことを無条件に信じろ、のような類だった場合、抱いている感情がかみ合わない可能性がある。
普通、嫌いな人から教えられたことを信じることはないだろう。もし、教皇などに対して悪感情を持っていながら、それでも信じなければならないと思っているなら、洗脳されている可能性は高いと思われる。
後は竜を絡めた簡単な質問だろうか。例えば、友達が竜によって救われたらその竜をどうするか、とかね。
まあ、答えは何となく予想できるけど、むしろ予想通りであってほしい。そうであれば、私の仮説は合っている可能性が出てくるから。
「ふむ……ちょうど退屈していたところだし、語り合いに興じるのも悪くはないわね」
「それは何よりです」
思ったよりも積極的で少しびっくりした。
ただまあ、いきなり質問攻めにしても怪しまれるだろうし、ここは少し普通に話をしてから質問に移るべきだろう。
私は隣の壁に背を預けながら、当たり障りのない会話を始めた。
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