第四十七話:大会が終わって
しばし三人で話していると、アリアが何かを感じ取ったのか隠密魔法で姿を隠した。
その後すぐに入り口の扉が開かれ、一人の女性が入ってくる。
どうやら彼女は大会の医療班のようだ。私の容態を確認すると、治癒魔法をかけてくれた。
魔力切れからくる怠さだからあくまで気休め程度にしかならなかったけど、しばらく休憩できたこともあって体は動くようになってきた。
「そろそろ表彰式が始まるので、動けるようなら参加してくださいね」
医療班の女性はそう言って部屋を出ていく。
そういえば、決勝戦からどれくらい経ってたんだろう。まだ表彰式が始まってないってことはそんなに経ってなかったのかな。
私はベッドから立ち上がってみる。まだふらふらとするが、歩けないほどではない。
お姉ちゃんに支えられながらフィールドへと向かうと、すでに多くの選手たちが入場していた。
しばらくして表彰式が始まると、大会運営からの挨拶があり、優勝者であるミーシャさんにトロフィーが贈られる。観客からは大きな喝采が上がった。
それで終わりだと思っていたのだけど、どうやら三位までは表彰されるらしい。
まあ、言われてみればそうか。前世でも銅メダルまであったしね。
一位のとは比べて少し小振りなトロフィーを渡される。トロフィーには煌びやかな装飾が施されており、これだけでも結構な価値がありそうだった。
ちなみに三位は準決勝でミーシャが戦った男性。
本当は三位決定戦があったのだが、お姉ちゃんがすっぽかしたので不戦勝となり、この座に着けたらしい。
まあ、お姉ちゃんはその頃あいつらのアジトを潰してただろうからね。そんな暇はなかった。
無事に表彰式が終わり、続いて閉会式もつつがなく終了した。
大会中はアリアの事で気が気じゃなかったけど、闘技大会に参加するという経験はなかなか面白かったかもしれない。
結果だけ見れば準優勝だしね。自分でもこんな好成績を取れたことが信じられないよ。
アリアは数日間会えなかった穴を埋めるようにずっと私にくっついている。
その晩はお姉ちゃんも含めて三人で寄り添うように眠りについた。
お姉ちゃんが壊滅させた組織は意外と構成員が多かったらしく、その多くは今も見つかっていないらしい。だが、捕まえた者の情報から別のアジトも見つけ出すことに成功したので捕まるのは時間の問題だそうだ。
私も被害者の一人として情報提供を求められ、呪いの件も含めて話すことになった。
まあ、そのままじゃ何も喋れないから先に教会に行って呪いを解いてもらってからになったけど。
教会というのは初めて行ったけど、巨大な像やらステンドグラスやらやたらと装飾が豪華だったのを覚えている。
教会は多くの貴族が出資しているし、お布施も結構高いからああいうことになっているんだろう。
今回呪いを解いてもらうにもそこそこな料金を取られたしね。
カラバにいた頃だとちょっと痛かった出費だけど、今回は闘技大会準優勝に当たって賞金がもらえたのでそこまでの痛手はなかった。
賞金って一位だけかと思ってたんだけどね。表彰式の後手渡されたのにはびっくりした。
ちなみに金額は金貨300枚。優勝の1000枚と比べたら少ないけど、それでも結構な金額だ。
ギルドに行くと、ゼムルスさんと、あの時の脅されていた青年がいた。そして、その隣には私と同じくらいの身長の男の子が寄り添っている。
青年の名前はサク、男の子、青年の弟はルアというらしい。
ギルド側はわざわざギルドマスターが直々に話を聞いてくれた。
それほど今回の事態を重く見ているのだろうか、とも思ったけど、どうやらこの事件の犯人、以前からちょくちょく悪さをしていたらしい。
今まではほとんど尻尾を見せてくれなかったが、今回お姉ちゃんがアジトを襲撃したことで一部が明るみになり、一気に光明が差したのだという。
ギルドからはお姉ちゃんに報奨金を出すとのことで、私としてもお姉ちゃんが褒められて悪い気はしなかった。
事件の様相を語り、粗方説明が終わったところで解放される。
ずっと座ってたからちょっとお尻が痛い。
「あ、あの!」
ギルドの休憩スペースで休んでいると、同じタイミングで解放されたサクさんに話しかけられた。隣にはルア君もいる。
二人はお姉ちゃんに向かって頭を下げ、助けられたことに対するお礼を言った。
「今回は助けていただいてありがとうございました。あなたがいなかったら、俺も弟もどうなっていたことか」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
「可愛い妹のためだからね。無事でよかったよ」
「そっちの、ハクさんもありがとうございました」
「え、私?」
お姉ちゃんが褒められると私も嬉しい。上機嫌で様子を窺っていたら私にまでお礼を言われて少し困惑する。
確かに私も二人を助けるために闘技大会に参加したわけだけど、結局負けてしまったわけだし、実際に助けたのはお姉ちゃんなのだから私にお礼を言うのは違うのではないだろうか?
「ああ。あの時俺はせめて君だけでも助けたいと思って、逃がすためにあんなことを言ったけど、まさか本当に闘技大会に参加して助けようとしてくれるとは思わなかったから」
「結局負けちゃいましたけどね」
「いやいや、君が頑張ってくれたから俺達は助かったんだ。本当にありがとう」
うん、まあ、いいか。お礼は素直に受け取っておこう。
私が闘技大会に参加していなかったらあいつらは早々に二人を殺していただろうし、お姉ちゃんが助けに入るまでの時間稼ぎをしたと思えばそういうことになるだろう。
去っていく二人を見ながら私は今回の事を振り返る。
今回の様なことは稀だと思いたいけど、これから先も何かしらの事件に巻き込まれることはあるかもしれない。そうなった時、私はあまりにも無力だということを思い知った。
ある程度魔法が使えようともどうにもできない場面もある。
呪いとか、時間があればなんとかできたかもしれないけどあれのせいでかなり苦しめられたしね。
探知魔法の改良も必要だと思う。魔法を弾くなんてアイテムがある以上、それを貫通するくらいの高威力が欲しいところ。
今回のような危機的状況に陥らないためにも、魔法の研究は必要不可欠だろう。
より一層魔法の研究に力を入れようと心の中で決意した。
「ハク、今日の夜は外食にしようか」
「いいけど、なんで?」
ご飯に関してはいつも宿で取っていた。良心的な値段だし、味も悪くないしね。
もちろん、せっかく王都に来たのだからいろんなお店に行ってみたいというのはわかる。というか行ってみたい。
カラバに比べて結構高いから少しお金を貯めてからと思っていたけど、思いがけない収入もあったし今なら行ってもいいのでは?
あ、だからか。
「無事にアリアを救い出せたってことと、後はハクの準優勝のお祝いにね」
そう言うことなら断る理由もない。私は二つ返事で了承した。
その後やってきたお店は中央部にあるお洒落なお店で、私はそこで初めてコース料理というものを目の当たりにすることになる。
テーブルマナーとかからっきしなのでお姉ちゃんに教えてもらいながら、それでも最後には楽しく食事をできたのでいい思い出になったかな。
ようやく体調が戻ってきました。ご心配をおかけして申し訳ありません。