第四百四十五話:聖教勇者連盟の使命
「聖教勇者連盟の使命、それは世界中の魔物の根絶」
コノハさんが語った聖教勇者連盟の使命は一見すると不可能にも思えることだった。
なぜなら、魔物は魔力から生まれる。正確には魔力が結晶化して魔石となり、それに様々な要因が重なることによって生まれるのだ。
この世界には魔法が当たり前のように存在しており、魔石を用いた魔道具と言う道具も存在していて、その存在は生活と切っても切れない関係で結ばれている。
そんな世界から魔物を消せば、首都などの大きな町はともかく、末端の小さな村などは到底生活していけないだろう。魔物は害獣であると同時に資源でもあるのだから。
それ以前に、魔物を根絶するということは魔力を絶つということでもある。そんなこと、竜だってできない。人間の手でそれを行うには知恵も技術も何もかもが足りないのだ。
「馬鹿な考えだって思うでしょ? でも、それに関する研究も行われているらしいよ」
聖教勇者連盟が魔物の根絶を願う背景には昔から苦しめられてきた魔王の存在があるらしい。
魔王は、時折現れる強力な力を持った魔物であり、強い扇動力で周囲の魔物を率いて町を侵略する厄介な魔物だ。
どこぞのRPGのように城に住んでいるというわけではないが、いるだけで災害を誘発する迷惑な魔物である。
今までは一応何とかはなっていた。魔王が現れる度に数十年単位で苦しめられるとはいえ、その時代の逸材が勇者として討伐に名乗りを上げ、討伐してきたからだ。そうでなくても、一定の周期で魔王はいつの間にか消えているというのもあって、一応生活することはできる、という水準は保たれていたのである。
しかし、ある時竜の魔王が現れ、事態は一変した。圧倒的な力を持つ竜を倒せる者などおらず、かといって自然消滅する気配もない。このままではまずいと踏み、人はある力に縋った。
それが現在の召喚勇者であり、聖教勇者連盟が発足したきっかけである。
聖教勇者連盟は、今後もこのような魔王が現れることを危惧し、魔物の根絶を願った。逸材を探し、時には育て、戦力を揃えて魔物の討伐に当たる。
それがどんどん広がっていき、今の聖教勇者連盟となったのだ。
まあ、その問題となった魔王は人族が勝手に魔王と呼んだだけなんだけど、偶然でもなんでもできてしまったのだ。
世界の警察としての役割を持つ聖教勇者連盟の存在は大きいし、その理由であれば勘違いとはいえ魔物の根絶を願うのはわかる。
でも、それを実行した時に起こる問題をどうするかまでは考えられていない。というか、実行すらできない状態だ。
「その研究と言うのは?」
「意図的に魔力の流れをいじって魔物を特定の場所に出現させるように誘導する、って感じだったかな」
「えっ!?」
魔力の流れをいじる。私はその言葉に嫌な予感を覚えた。
魔物が生まれるのは魔力が魔石化するくらい濃密な場所か、あるいは単純に魔物同士の生殖から生まれるが、魔力が濃密な場所と言うのは主に竜脈と言うことになる。
なぜなら、星の魔力は竜脈から供給されるものであり、その支流の上に国が作られ、繁栄していくのだ。
通常は、そう言った国が作られている竜脈は竜達が介入し、適度に調整を行っているから魔物が頻繁に溢れ出すということはない。ただし、その均衡が崩れるタイミングがある。
それは人が勝手に竜脈をいじくった場合だ。これをやると、竜脈の魔力の流れがめちゃくちゃになり、過剰に魔力が溢れて魔物を生んだり、逆に魔力が少なくなりすぎて土地が弱ってしまう。
もし聖教勇者連盟がやっているのがその竜脈の操作だとしたら、割と看過できない問題となる。
「……一つ聞きたいんですが、その研究によって魔物が増えたり、逆に減ったりしたことはありませんか?」
「そりゃもちろん。最近は国の周辺の魔物の数が減ってきて、逆に近くにある山に魔物が集まっているっていうから、実験がうまくいってるって喜んでたよ」
「なんてことを……」
セフィリア聖教国の立地は知らないが、それは恐らくセフィリア聖教国の竜脈をいじくった結果だ。
多分、適当にいじくっているうちに魔力が流れる管が狭まり、せき止められた。その影響で本流である山の竜脈を圧迫し、魔力が溢れたからそこに魔物が出現してるんだと思う。
実験がうまくいったって、馬鹿じゃないの?
そりゃ、魔物が山から下りてこないんだったらそれでもいいだろうけどさ、許容量を超えた魔物が人里に降りてくるのは容易に想像できる。そうなれば、山の近くにある村から順番に蹂躙されて行き、いずれは首都まで食らいつくされるだろう。
それまでには討伐隊が出る? 果たして止められるかね。豊富な魔力によって強化された強力な魔物を。言うなれば、まだレベルが低いのに終盤エリアに迷い込んでしまったようなものだ。
そんな状態で勝てるとは思えない。下手をすれば、すぐにでも魔物が押し寄せてくるのではなかろうか。
頭を抱える私にコノハさんは首を傾げている。どうやら事の重大さに気付いていないようだ。
「まあ、だから、この方法を応用すれば、いずれすべての国で魔物を一か所に集めることができる。そうすれば、広域魔法で薙ぎ払うなり、対軍兵器で蹂躙するなり、結界で閉じ込めるなりすればいい。根絶、は無理でも、世界に平和をもたらすことができる、って今のところは考えてるようだけど」
「……それ、本気で言ってます?」
「まあ、詳しくは知らないけど、私は結構いい案だなと思ったけど? 何かおかしかった?」
「……さっきの私の話を聞いたのなら、その可能性に気づけませんか?」
「……? ……あっ」
しばらく考え込んだのち、コノハさんは何かに気付いたように小さく声を上げた。
私が話した竜の使命の中には竜脈の整備も含まれている。そして、その竜脈の性質についても軽く説明はした。
であれば、魔物が減っている原因増えている原因は容易に想像がつくだろう。
確かに、自国の魔物を減らして人のいない場所の魔物を増やすのは間違っていないかもしれない。端から見たらいい作戦のように思える。
でも、それは定期的に駆除できればの話だ。
竜脈の魔力をより濃くした状態で生まれた魔物なら相当強いだろう。少なくともAランクに相当するのは間違いない。下手をすればSランクやそれ以上なんてこともあるだろう。
それらが大量に犇めいている場所に誰が討伐に行くのだろう。例えAランク冒険者のパーティでも、下手をすれば即死するような場所、誰も行くはずがない。
では駆除しなければ? そんなことをしたら、いずれ溢れ出す。竜脈の魔力は尽きることはない。星が死なない限り、永久的に魔力は流れ続ける。つまり、魔物も延々と増え続ける。
そうなれば、いずれAランク相当の魔物が溢れ出し、町を蹂躙する。
討伐しようにも、強くて討伐するのも骨が折れる。しかも、相手は何十何百の軍勢となるだろう、勝ち目があるわけない。
集めたところに広域魔法や対軍兵器で薙ぎ払う? それはどこから撃つんでしょうね。まさか近くに寄って行って、そこから放つことを想定しているわけでもあるまい。そんなことをしたら殺されるのがおちだ。
そもそも、それで一撃で倒せるならまだしも、そんな強力な魔物が一発や二発で死ぬはずもないだろう。ヘイトを集めて誘導する羽目になるに違いない。
せっかく竜が適度な強さや量に調節しているのに、それをわざわざいじくるなんてどうかしてる。それも、碌にやり方もわからないのに、だ。
隣を見れば、エルがわなわなと震えている。相当お冠のようだ。
「……これ、結構まずい?」
「いつからその状態になっているかにもよりますが、かなりまずいかと思います」
「うーん……」
聖教勇者連盟の使命とやらを語っていたらとんでもない事態になっていることに気が付いた。
もちろん、これは私の話を信じればの話ではあるが、もし本当だとしたら大惨事である。
コノハさんはどうしたものかと頭を悩ませていた。
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