第四百四十四話:探り合い
「さて、じゃあ早速聞きたいんだけど……そうだね、まずどんなふうに知り合ったのかを聞きたいかな」
コノハさんはそう言って再度座り直す。
どかりと隣に置かれたロケランが凄い存在感を放っているけど、一体どんな能力を持っているんだろうか。
まあ、今はそれよりも会話に集中しないと。私は少し思案してから話し始めた。
「私はその時兄を探しに行っていました。その途中で、任務中だったカエデさんに出会ったんです」
「もしかして、その兄ってラルドのこと?」
「……はい、そうです」
「なるほど、あの事件の当事者ってわけか」
兄と言っただけなのに、それだけでそれがラルドと言う名の男性だと見抜いてきた。
流石に一年近く聖教勇者連盟に抵抗し続けていただけあってお兄ちゃんの名前は知られているらしい。
本当ならそんな聖教勇者連盟にとっての敵と関係があるなんて本人を前に言いたくはないけど、他に言い訳も思いつかないので素直に頷く。
コノハさんがどこまで聖教勇者連盟の事を崇拝しているかわからないのが少し辛い。カエデさんのように組織の方が間違ってる、って思ってるならいいけど、いくら姉妹とはいえそこまで考えが同じとは限らないし。
「なら、お姉ちゃんが組織を見限ったのはあなたのせいなの?」
「……そうかもしれません。私がカエデさんに竜の在り方についてを吹き込んだから、考えが変わったのかもしれません」
実際には、鳥獣人の討伐をやめるように部隊を無力化する際、そのことを説明したら私の考えに賛同してくれたってだけだけど、コノハさんから見たら私がたぶらかしたようにも見えるだろう。
実際、それもあながち間違ってはいない。カエデさんに竜の在り方についての情報を渡したのは偶然みたいなものだけど、それによってカエデさんが元々持っていた組織の不信感を確信へと変え、それが結果的に裏切りに繋がったのだから私が原因と言って差し支えない。
姉を裏切らせた私の事をコノハさんはどう思っているのだろうか。顔を見るのが少し怖いので若干俯き気味になる。
しかし、コノハさんは特に怒りも見せることなく淡々と次の質問へと移る。
「あなたは竜ととても親しいようだけど、なんでなの?」
「それは……」
コノハさんはエルの方をちらりと見ながら言う。
エルが竜であるということはすでに知っているようだ。しかし、私が竜であるということまでは知らない様子。
まあ、私が竜であることを知っているのは限られた人だけなので知らなくても無理はないけど。
しかし、これはどう答えたものか。なんで親しいのかと言われたら、それは私の正体が竜であり、王であるお父さんの娘だからだっていうのが理由だけど、それを正直に話していいものかどうか。
カムイには竜の翼を晒したけど、あれは話を信じてもらうために仕方なくであって、本来なら聖教勇者連盟に見せるべきものではない。
竜だとばれれば粛清の対象になるわけだし、さらに苛烈な攻撃を受けるかもしれない。だから、迂闊に見せるわけにはいかないのだ。
「(あれ、でも今も殺されそうになってるよね?)」
と、そこまで考えて今の状況と大して変わっていないことに思い至る。
正体が竜だとばれれば聖教勇者連盟から執拗に狙われることになる。でも、今こうして連れていかれている時点で敵対しているのだから、別にもう隠す必要もないのでは?
私が竜ではなく人間だと思われていることで都合がいいとすれば、ワンチャン裁判の際に話を聞いてくれるかもしれないという点だけど、その可能性はほぼ零に等しいし、場合によっては戦うことすらあるだろう。その時に正体を隠してまで戦う理由はないし、私の人間設定は今さら無意味なものだ。
うん、いいや、話してしまおう。私は覚悟を決めて顔を上げた。
「なに? 答えられないの?」
「……いえ、答えますよ。その理由は……これです」
そう言って、私は背中から翼を出す。
檻が狭いので結構窮屈だが、畳めばなんとか収まるくらいにはなる。
ちらりと様子を窺ってみれば、流石のコノハさんも驚いたのか目を見開いていた。
「……なるほどね。あなたも竜だったってわけね」
「はい。竜の在り方についても、竜が本能的に感じている使命のようなものです」
「それで世界の管理者ってわけね。色々と納得がいったわ」
驚きこそすれ、その場から動こうとはしない。片手がロケランに伸びていたが、すぐに敵意がないことを悟ったのか、あるいは攻撃できないようにしていることを思い出したのかその手を引っ込めた。
「なら、竜に皆殺しにされたっていうのも嘘なの?」
「いえ、それに関しては半分本当です」
あの場で生き残った聖教勇者連盟の面々はカエデさん達を含めて全部で六人。それ以外は勇者も含めて全滅している。だから、全部嘘と言うわけではない。
ばれてしまっている以上、もはや隠す意味はないし、保護している三人のことも話してしまった。
だが、コノハさんはその三人には興味がないようで、特に反応は示さなかった。
「まあ、お姉ちゃんが無事ならそれでいいや」
どうやら姉のことが本当に好きらしい。
その割には疎遠になったままだったようだし、カエデさんの方も何にも言ってこなかったけど、カエデさんの方はコノハさんが苦手なんだろうか。
「それじゃあ、その竜の使命とやらを私にも聞かせてくれる? もしかしたら、私も共感できるかもしれない」
「ほんとですか?」
「私も組織に恩義は感じてるけど、魔物とか竜を殺すことは別にどうとも思ってないし」
コノハさんは完全に姉が組織に入ったから、と言う理由で組織に与しているようだ。もちろん、姉ともども救ってくれたという恩義は感じているようだが、それ以上の感情はなく、仕事も最初に入った部署だったから漠然と続けていた、と言う感じらしい。
戦闘グループっていうと特に恩義を感じている人が入るグループって認識だったんだけど、実際には違うのだろうか。いや、積極的に戦いに参加しない自由グループだって組織の命令を受けて動くのだし、どのグループでも大差はないのかもしれないな。
「それでは、話させてもらいます」
私は竜の使命について語りだす。
竜の仕事、人に対する感情、竜人の存在、聖教勇者連盟が提唱する竜の姿とはかけ離れた竜の在り方。
竜が魔王だった、という点にも修正を加える。あれは魔王になったのではなく、魔王にされたのだ。詳しくは聞いていないが、お父さんはほぼ何もしてないと思う。
竜が魔王だという風潮が広がり、その結果竜に対して苛烈になり、攻撃を仕掛け、その結果返り討ちに遭った。あまりに目に余るような国は滅ぼされた、ただそれだけの事。
コノハさんは静かに話を聞いてくれた。
私ほどの無表情と言うわけではないが、コノハさんも結構な無表情だと思う。さっき驚いた時以外はほとんど感情の変化がなかったように思える。
相手にしていて思うけど、感情が読み取れないって結構怖いな。相手が良く思っているのか悪く思っているのかがわからないと不安になる。
話を終え、恐る恐ると言った体で顔色を窺うと、平坦な声で言葉が返ってきた。
「なるほど、なかなか面白い話だ。それが本当なら、竜を駆逐しようとしている聖教勇者連盟は悪になるね」
「信じていただけますか?」
「さあ。でも、少なくともお姉ちゃんが信じているなら私も信じてもいいかなとは思う」
完全に信じたという風ではないが、少しは信用してくれたようだ。
ほっと胸を撫で下ろす。他の人に話した時は悪魔だなんだと蔑まれたから少し心配していた。
私の正体が竜だと知れても、都合のいいことを言っていると取られても不思議はない。ひとまず聞き入れてくれただけでも運がよかったと言えるだろう。
翼を戻し、息をつく。流石にずっと出しておくには狭い。何もしていない時ならいいけど、話している時には邪魔だ。
「でも、そっちもこちらの話を聞いてみた方がいいかもね」
「こっちの話?」
「そう。聖教勇者連盟の使命、とでも言えばいいかな。聞く気はある?」
「……ぜひ」
竜に使命があるように、聖教勇者連盟にも使命がある。
世界の平和を守る、と言うのが使命かと思っていたんだけど、もっと詳しく決まっているということだろうか。
こちらが話しておいて向こうの言い分を聞かないというわけにもいかない。
私はそっと耳を傾けた。
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