第四百四十三話:魔法少女の妹
船旅は意外と快適だった。いや、快適と言っても相変わらず寒いし、船揺れによって多少気持ち悪くはなったりするのだが、馬車の道中よりはよっぽどましだ。
カムイ達が何か言ってくれたのか、食事の質も多少は改善されたし、掃除に関しても定期的にしてくれている。ちょくちょく話にも来てくれるし、そこそこ精神的に安定してきたと思う。
さて、そんな船旅だが、馬車旅の時と違うことが一つある。それは、カムイ達の他に、話しかけにくる人がいるということだ。
「……命令、話していいよ」
それは今目の前にいる少女。
年の頃は12歳程度だろうか。薄紫色の髪を肩口で切り揃え、伏し目がちな青い瞳でこちらをじっと見つめている。
寒いのだろうか、いつもコートのような地面にずりそうなほど長い服を着ており、手には巨大な筒状の物体を持っている。
あれ、私の思い違いでなければロケットランチャーでは? なんでそんな現代兵器を持っているんだ。
そんな疑問を持ったこともあったが、特段敵意のようなものは感じられず、それどころかこうして命令で話せるようにもしてくれる。
隷属の首輪の命令権を持ってるってことは割と偉いんだろうけど、この子もやはり転生者なのだろうか。流石に、この世界の技術でロケランは作れないだろうし、何かしらの能力で作り出した可能性が高い。
シンシアさんも似たようなことはできそうだけど、彼女が作ったというわけではないよね?
「……何か御用ですか?」
「別に。ただの暇つぶし」
少女はいつもそうやって檻の傍に座り、私達を眺めている。
話に来た、と言う割にはそこまで話すこともないし、私達のことを笑いに来たという風でもない。
別に何もしないならそれでいいけど、彼女が来ると竜の翼を出せなくなるから寒いんだよね。
何もすることがないなら来ないでほしいものだ。
「……」
「……ねぇ」
「……なんでしょう?」
「あなたは、お姉ちゃんのことを知ってる?」
いつもなら繋がらない会話を数度した後出ていくのだが、今日は違った。
不意に聞かれたのはお姉ちゃんなる人のこと。もちろん、私はそんな人知らない。と言うか、少女の名前すら聞いたことがないから想像できるはずもない。
ピクリと眉を動かすと、少女はぽつぽつと語り始めた。
「……お姉ちゃんは組織の考え方に疑問を持っていた。なぜ竜は悪なのか、なぜ竜人は悪なのか、なぜ殺さなければならないのか、いつもそのことを指摘しては周りと対立し、徐々に居場所を失っていった」
聖教勇者連盟にはいくつかのグループが存在し、少女とそのお姉さんは戦闘グループ、つまり魔物の退治を行うグループに所属していたらしい。
しかし、そんな姉の性格が災いし、そのグループから追い出されることになった。妹である少女はなんとか姉を諭そうと努力したが、結局そのまま仲違いし、姉だけが別のグループに移ったらしい。
少女には姉の考えは理解できなかった。助けてもらった恩義ある組織に対してなぜ反発するようなことを言うのかわからなかった。だから、それっきり姉と会うこともなく、時間が過ぎていったらしい。
しかし、一年ほど前、そんな姉が任務中に死亡したという連絡を受けた。
「お姉ちゃんは竜人達が住む里を滅ぼすためにいくつかのチームを伴って向かっていった。でも、その途中に竜が乱入し、お姉ちゃんは殺された」
「それって……」
捜索はされたが結局遺体は見つからず、聖教勇者連盟はそれ以上の捜索を打ち切って任務に参加していた人達を全員死亡した扱いにした。
疎遠になっていたとはいえ、突然の凶報に少女は驚き、そして悲しんだ。そして、せめてその死の真相を探ろうと個人的に調査を始めたらしい。
その結果、死んだと思われていた姉が町で歩いているのを発見した。
最初は目を疑った。死んだはずの姉が目の前で歩いているのだから。即座に声をかけると、姉は驚きながらも別人を装った。バレバレの演技で、すぐにこの人が姉だと確信し、そのことを突きつけると、姉は観念したかのように苦笑を浮かべ、こう告げた。
もう組織に戻るつもりはない、と。
少女は混乱した。なぜ、生きているのに組織に戻ってこないのか。姉が生きていることに喜びこそしたが、それ以上に姉の行動がわからなかった。
手がかりとなったのは姉から聞き出したたった一つの情報。「竜は悪ではない、世界の管理者だ」と言うこと。
意味がわからなかった。それが本当だとするならば、聖教勇者連盟のやっていることは正義でもなんでもなく、むしろ悪であると言っているようなものだから。
いや、実際にそう言っていたのだろう。だからこそ、そんな組織には戻らないと言っていたと考えられる。
でも、常日頃から竜人を殺すことに対して異を唱えていた姉とはいえ、いきなり竜が世界の管理者だ、なんて発想になるはずもない。必ず、その発想に至らせた人物がいるはずだ。
そうして調べていくと、とある人物の名前が浮かんでくる。
それは、竜を従える不思議な少女。竜は世界を管理する存在だと吹聴し、聖教勇者連盟に敵対する人物。そう、それは……。
「ハク、あなたなら、お姉ちゃんのことを知ってるよね?」
私は確信した。彼女の言う姉とはカエデさんの事だ。
カエデさんは鳥獣人事件の時に鳥獣人を竜人と強引に解釈して殺そうとしてきた聖教勇者連盟の一員であり、私の考えに賛同して組織を裏切った人物だ。
なるほど、確かに年は近いかもしれない。カエデさんの妹と言われると少々雰囲気が違うが、目元なんかは似ている気がする。
でもそうなると、姉妹揃って転生したということか。凄い確率だな。それとも、前世では別人同士? だとしても凄いけど。
「……そのお姉さんがカエデさんの事を指すなら知っていますよ」
「やっぱり、ようやく見つけた」
少女は私の事を睨みつける。
カエデさんが見つかってしまっていたとは思わなかった。連絡でも何も言ってこなかったし、恐らく何事もなかったんだろうけど、少し危ない賭けをしていたな。
下手をすればこの少女からカエデさん達の存在がばれ、色々とまずいことになっていたかも知れない。
少女がなぜ組織にそのことを報告していないのかは疑問だが、恐らく少女にとってそのことはどうでもいいのだろう。知りたいのは姉を変えた私の事だ。
「あなたには聞きたいことがいくつもある。答えてもらうよ」
「……私に答えられることでしたら」
「……聞き訳がいいね。もっと渋ると思っていたのに」
「そこまで隠すことでもありませんから」
私がカエデさんに言ったのは、鳥獣人は竜人とは違うということ、竜は世界の管理者であり、世界のバランスを保っているということくらい。
これに関しては別に隠すことでもなんでもないし、むしろもっといろんな人に言ってやりたいくらいだ。
「……なら、聞こう。でもその前に、名乗りくらいはしておいた方がいいかな」
少女はそう言って立ち上がる。ロケランを杖のように置き、それに身を預けるように寄りかかると、変わらぬ平坦な声で名を言う。
「私はコノハ。よろしく、ハク」
少女の身体に似つかわしくない重厚な金属の武器を持つ少女、コノハ。
私は彼女に少し期待を抱いた。
もしかしたら、この人も味方になってくれるのではないかという期待だ。
そしてそれは、今から話す内容にかかっている。
カムイやシンシアさんといった仲間がいるとはいえ、この状況では仲間は多ければ多い方がいい。
私は気を引き締めて慎重に言葉を選んだ。
感想ありがとうございます。




