第四百四十話:やってきた移送隊
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翌日、私は檻に入れられた状態で城の門の前に置かれていた。
目の前には年若い青年達が数人並んでいる。その後ろには青年と同じ数の神官の男性が数人おり、皆こちらを蔑んだような目で見ている。
彼らは聖教勇者連盟の一員であり、今日私達を移送するためにやってきた人達である。
このメンバーの顔役なのか、ひときわ豪奢な装飾の施されたローブを着た老人が前に立ち、こちらに立つ王様に対して大仰な態度で話しかけていた。
「ふむ、出迎えご苦労。儂は聖教勇者連盟枢機卿のナーゼル・フォン・オブリチュアである。この度は貴様の国民が我が組織に対して楯突いたことが原因でわざわざ迎えに来てやったのだ。感謝するがいい」
相手は一国の王様だというのに全然媚びない。
確かに、聖教勇者連盟は世界を股に掛ける大組織ではあるけど、だからと言ってその幹部が国の王様より偉いというわけではない。偉い可能性があるとすれば、それはボスである教皇だけだろう。
それなのにこの態度。どうやら自分達が有利だからと調子に乗っているらしい。
枢機卿と言うからには幹部だから転生者達を育ててきた人材なんだろうけど、上がこんなんじゃ転生者がああいう態度を取るのも頷ける。もっとちゃんとした常識を教えてほしいものだ。
「……この国の国王、バスティオン・フォン・オルフェスです。この度は我が国の国民が迷惑をかけたようで申し訳ない」
「まったくだ。多少反抗するだけならまだしも、その場にいた組織員全員に大怪我を負わせ、あまつさえ一人は殺してしまっている。儂らは貴様らの平穏を守ってやっているというのに、飼い犬に手を噛まれた気分だ」
そう言ってこちらを睨みつける。
今の私達は隷属の首輪をつけた上で、服もボロ布のような服を着ている。
流石に、さっきまで牢屋にぶち込まれていたのに上等な服を着ていたらおかしいと思ってわざわざ変えたのだけど、よく考えれば捕まえたそのまま牢屋に入れたのなら別におかしくもなかったかなと思い直した。
まあ、ボロ布と言っても別に寒いわけではないし別にいいんだけどね。
いざとなれば【ストレージ】に服が入っているし、エルにいたっては魔力で作ってるだけの見せかけの服だしね。
「罪人共、貴様らは本国に移送したのちに裁判で裁かれる。せいぜい、今のうちに最後の晩餐でも考えておくんだな」
それ、殺すってことだよね? 裁判で有罪になるのが確定してるよね?
と言うか、弁護士もいないのに裁判なんて何の意味もない。裁判するっていうのならきちんと弁護士を付けてほしいものだ。
「一応隷属の首輪がついているようだが、なんと命令している?」
「魔法を使うな、攻撃をするな、です」
「そうか。ではついでに喋るな、も付け加えておけ。移送中にギャーギャー喚かれては面倒だからな」
「……わかりました」
喋るのも封じられたか。まあ、別に問題ない。
会話に関しては【念話】を使えば問題なくできる。【念話】は魔法ではないからね、魔法を使うな、には当てはまらない。
一番怖かったのはずっと寝てろ、とかだったけど、なくてよかった。それされると寝ることに全意識を持っていかれるから何も考えられなくなるんだよね。
「よし、では馬車に積み込め。すぐに出発するぞ」
王様に追加で制約を加えられた後、用意されていた馬車に積み込まれる。
喋るな、と言われてしまったから私はただ眺めているだけだ。
馬車は完全に檻を乗せるためだけのもののようで、見張り役なのか神官の男性が一人乗り込んでくる。
他の面々は別の馬車に乗り込んだのだろう。馬の嘶き声が聞こえてきた。
「貴様らも馬鹿なことをしたものだな。俺達に楯突こうなんて」
しばらくして馬車が動き出し、町の中を闊歩する。
この馬車、馬車と言っているけど幌はなく、中身がむき出しになっている。そのため、私達の姿は街の人達に丸見えで、見物人が何事かと集まって私達の事を見ていた。
中には知り合いの姿もあり、どういうことだと混乱している様子。
これはちょっと想定外だったなぁ。
お姉ちゃんを始め、アリシアやリリーさんなど私の知り合いには伝えたけど、流石にギルドや町の知り合いにまでは伝えていない。せいぜい町を歩いていたら挨拶する程度の仲だし、そこまで大事にしたくなかったので伝える人には制限をかけていたのだ。
でも、これじゃあ意味がない。これ、無事に戻ってきても絶対後で聞かれる奴だ。
まあ、仕方がない。なんかもう扱いが奴隷のそれになっているけど、聖教勇者連盟にとってはまさにそんな感じだろうしね。
「そんな力があるなら聖教勇者連盟に拾われてもおかしくなかったってのに、本当に惜しいことをしたもんだ」
ただ、周りが見えているおかげで多少なりとも安心するものもある。それは同行する人の中に紛れているカムイとシンシアさん達の姿だ。
元々、カムイは私を殺すために来たわけで、その目的が果たされる今、もはやこの町にいる必要はない。一応腕利きと言うこともあり、そのまま護衛として一緒に帰ることになったのだ。
シンシアさん達は私の事を心配して追いかけてきてくれたらしい。
あの時はルナさんもセシルさんも心をバキバキに折ってしまったが、今ではその傷も癒えてきていてあの時の行動を反省しているらしい。
そんな時、私がセフィリア聖教国に連れていかれることを聞いて、何か力になれるかもしれないと駆けつけてくれたのだ。
もちろん、表向きは私達を逃がさないための護衛としてだけど、彼らはもう味方と言っても差し支えないだろう。
多少なりとも味方がいるというのは安心できる材料である。
ただ問題があるとすれば、向こうで私達についているような発言をすれば、同じように罪に問われてしまうのではないかと言うこと。
弁護士として期待するのは無理があるだろう。それをやったら彼女らまで殺されかねない。
出来ることなら、いざという時にばれない範囲で力を貸してほしいものだね。
「おい、何とか言ってみろよ……っと、喋れないんだったな。哀れなもんだ」
それにしても、さっきからこの人は暇なんだろうか。ずっと私達に話しかけている。
私達が喋れないようにされているのは見ていただろうに、その目は節穴なのだろうか。
まあ、実際はただ優越感に浸りたいだけだろう。
聖教勇者連盟の根幹にあるのは教会であり、創造神を祀っているようだ。ただ、その中身は真っ当な教会と違って泥にまみれており、聖教勇者連盟としての地位と権力を使って好き放題やっているらしい。
この一か月の間にちょっと調べただけでそんな情報が出てきたのだから、もはや信仰心があるのかどうかすら怪しいものだ。
神の名の下に、と平気で竜人を殺しているけど、そもそも竜人の親である竜は神が遣わせたものだと思うんですが?
ちょっと考えればわかるだろうに、腐った教会の考え方には賛同できないよ全く。
「ま、運が良ければ助かるかもしれないぜ? せいぜい気に入られるように媚びる練習でもしとくといいさ」
そう言ったのを最後に、神官の男は喋らなくなった。どうやら飽きたらしい。
さて、これから約一か月くらいこんな旅が続くのか。初めての船旅、と言うのは少し興味あるけれど、すでに竜の翼による大陸横断をしてしまっている身としてはあまり興奮はない。
むしろ、この世界の航海は魔物や天候の崩れによって容易に転覆してしまうものだし、あまり乗りたくないかもしれない。
でも、今回は逆にそっちの方がありがたいのかな? 船が転覆して、みんな死んでしまいました、って筋書きなら私も死んだことにできて万々歳では?
あ、でも、生き残って王都に帰ったら結局ばれるのか。それじゃ意味ないな。
結局、大人しく連れていかれてどうにかするしか道はないというわけか。
もう何度吐いたかもわからない溜息をつきながら流れていく景色を眺めていた。
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