第四百三十五話:夏休み明け
第十三章開始です。
夏休みも終わり、再び学園に通う日がやってきた。
夏休み中はユルグ関連で色々疲れる思いをしたが、結果的にはユーリさんと言う前世の関係者を迎えることができ、仲間が増えてよかったと言ったところか。
ただ、ユーリさんの献身ぶりは身に余るものがある。
例えば、ご飯を作っていればほぼ毎回手伝うと申し出て来たり、中途半端だった掃除に関して自分がやると買って出てくれたり、買い出しに行こうとしたら一緒について来たり、とにかく色々なことを手伝いたがるのだ。
別にそれが嫌とかそういうわけではない。むしろ、今まで人手が足りていなかった状態なので助かっている。
ただ問題があるとすれば、ユーリさんは本当に自分の身を顧みないってところだ。
それが一番顕著なのは外出中だろう。ひとたび怪我をした人を見たり具合が悪そうにしている人がいたら即座にその場に駆け寄ってその能力でその怪我や病気を自分に移すのだ。
当然、そんなことをすればユーリさんの方が怪我や病気になるのですぐに倒れるし、何より目立つ。せっかく翼と尻尾を隠していてもこれではあまり意味がない。
確かに、困っている人を助けたいって気持ちは私にもわかる。わかるけど、何でもかんでも助ければいいってものでもない。あくまでも自分のできる範囲での偽善であり、その範囲を超えてしまったら待つのは破滅だ。
元々私を探している間にも各地で人助けをしていたようだし、初めからそういう性格なのかもしれない。ほんと、いつ死んでもおかしくないよこの人。
そういう意味で多少注意したこともあったのだが、一応ユーリさんにはユーリさんなりの基準と言うものがあるらしい。
直感的に相手が善人かそうでないかを見極め、前者の人のみに手を貸しているとかなんとか。それと、この方法で自分に移した怪我や病気によって死ぬことはないらしい。
なんか普通に騙されそうだし、死なないって言うのも本当かどうかわからないけど、心配だから少しは自重してほしい。
「ハクさんがそうおっしゃるなら、我慢してみます」
せめて一目で重症とわかるような怪我を即座に引き受けないでほしいと説得すると、少し不満げな顔をしながらも頷いてくれた。
せっかく二度目の生を受けたのだから本当に命を大切にしてほしい。私のため以外で死ぬつもりはないと言っていたけど、傍目には十分死に急いでいるように見えるんだよ。
そういうわけで非常に不安なのだけど、私も学園があるので寮に戻らなくてはならない。後のことはお姉ちゃん達に任せることになった。
「ハク、顔色悪いぞ? 大丈夫か?」
「あ、うん。大丈夫……」
サリアが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
ユーリさんを王都に連れてきたのは失敗だっただろうか。これほどまでに能力を使いまくるとなると、竜の谷で大人しくしていた方が安全だったのでは? あっちにはリヒトさんもいることだし。
でも、一応はユーリさんも本当の目的は私と一緒にいることだと思うし、私が本気で止めればちゃんと自重してくれるはずだ。だから、もうしばらく様子を見ようと思う。
頬を叩いて気持ちをリセットし、教室へと向かう。
後期に入り、授業も実践的なものが増えてきた。私にとって学園で使う魔法は相当手加減しなければならないものだけど、それが逆に練習になって割とありだと思っている。
だって、手加減なしで放ったらそれこそ普通の水球でも風穴が開きそうだもん。それでは相手を無力化する時に困るし、手加減の練習は必要だ。
「ハクさん、お久しぶりですわ」
「こんにちは。夏休みはいかがでしたか?」
「シルヴィアさん、アーシェさん。こんにちは、お久しぶりです」
教室に入るとシルヴィアさんとアーシェさんが出迎えてくれる。
二人とも二か月ぶりだが、変わりはないようだ。
三年生も残り三か月ほど。魔法の実戦練習も増えてきたので、より魔法を使える人が好成績を残しやすい環境になってきた。
一年生の頃は筆記だけでも上のクラスに上がることができたが、今はそれも難しい。
サリアの実力次第ではあるが、四年生も一緒のクラスになれるだろうか。少し心配でもある。
「ハク、久しぶりね。休み中姿が見えなかったけど、どこ行ってたのよ」
と、そこにカムイが割って入ってくる。
姿が見えなかったというのは恐らくユーリさん関連で出かけていたからだと思うけど、別に言うほど家を空けていたわけではないんだけどな。
闘技大会までは普通に家にいたし、九月からはほとんど家にいた気がする。会おうと思えばいつでも会えたような?
と言うか、私としてはカムイの方がどこにいたか気になる。
聖教勇者連盟から派遣されてきたとは言うけど、拠点はあるのだろうか。一応、シンシアさん達とは協力関係にあるようだけど、あの人達もずっと宿暮らしだから新たに人を入れるのは難しそうだし。
「カムイの方こそ、どこにいたの?」
「私? 私は普通に寮にいたけど。と言うか、だからハクがいないことに気付いたんだけど?」
「あ、そうか」
よくよく考えたら寮暮らしの生徒は帰る予定がなければ普通に寮にいてもいいんだった。
私は家を手に入れてそこに帰るようになったからすっかり忘れてしまっていた。
なるほど、と言うことは私の姿が見えなかったというのは寮にいなかったという意味なわけか。それなら納得だ。
「で、どこにいたのよ」
「家に帰ってましたよ」
「え、ハクって家持ってるの?」
「それは私も初耳ですわ」
「いつの間に買いましたの?」
カムイの疑問にシルヴィアさん達も突っ込んでくる。
そういえば言ってなかった気がする。パーティとかで知り合いを呼んだからてっきりとっくに知っているものかと思っていたけど、よくよく考えたらここにいるメンバーは呼んでいなかったね。
いや、決して忘れていたというわけではない。シルヴィアさん達は領地に帰っていたし、カムイは……まさか寮にいるとは思わなかったし。
「前回の冬休みの時に。ごめんなさい、言うのを忘れてました」
「それは構いませんが……ちなみに家はどちらに?」
「中央部の端っこの方です」
「まあ、よく買えましたね」
まあ、中央部っていうのは基本的に貴族が住む場所だし、外縁部と比べて値段も高いからたとえ端っこでもおいそれと買えるような場所じゃないからね。
私は一応平民だし、驚くのも無理はないか。
「ちょっと臨時収入があったもので。それに闘技大会の賞金も残ってましたし」
「なるほど、それなら確かに納得ですわ」
「ハクさんは生徒とは思えないほど強いですからね」
本当は優勝賞金の金貨1000枚くらいでは買えなかったんだけど、まあそこは別に言わなくてもいいだろう。
「なら、後で遊びに行ってもいい? どんな家か気になるし」
「いいよ。シルヴィアさん達もどうですか?」
「まあ、いいんですの?」
「それではお言葉に甘えますわ」
「では、今度の休みの日に」
急遽私の家に来ることが決まってしまった。
まあ、見られてまずいものは特に置いていないし、みんなが着く前にユーリさんに隠蔽魔法をかければ問題はないだろう。このメンバーなら竜人だとばれても大丈夫な気はするが、まあ一応ね。
友達を家に招くというのは妙に気分が高揚するものだ。
私は早くも次の休みが楽しみになってきた。
感想ありがとうございます。