幕間:娯楽を作ろう8
主人公の友達の転生者、アリシアの視点です。
「そういえば、アリシアはデッキ作れたの?」
そろそろ話し合いもお開きと言うタイミングでハクがそう聞いてきた。
デッキに関してはいつも初心者用のビートダウンデッキを使っていた俺だが、今回第三弾の発売によってついにマイデッキを作れるようになったのだ。
俺が前世の時に愛用していた【ホーリーナイト】というテーマ。
これはその名の通り騎士がモチーフの召喚獣で、その見た目のかっこよさと普通に強い汎用性からよく使っていたのだ。
今までは召喚獣と言う関係上、魔物がモチーフの召喚獣ばかりだったのだが、今回ようやく人型を採用することができ、組むことができたのだ。
もちろん、まだ最初の段階なのですべてのカードを出すことは難しかったためまだキーパーツとなるカードは足りていない。それでも、ある程度戦えるデッキには仕上げることはできた。
俺は見せてやろうと部屋の棚にしまってあったデッキを取り出す。
「この通りちゃんとできてるよ。まあ、完成にはまだまだ遠いが」
「そっか。作れたのなら何よりだよ」
元々、この【ホーリーナイト】というテーマは収録する予定はなかった。それを、俺がハクに頼んだことによって無理矢理入れてもらう形になったのだ。
まあ、ハクだって自分のお気に入りである【ドラグーン】というテーマを最初から作っていたわけだから別に少しくらい我儘を言ってもいい気はするが、描いてもらう手前なかなか言えなかった経緯がある。
でも、こうして作ってもらえたのだから、結果的にはよかったな。
「勝率はどれくらい?」
「いや、このデッキではまだ戦ったことはないんだ」
このテーマが収録された第三弾は夏休みに入ってから発売された。なので、戦おうにも学園の生徒達はほとんど帰省してしまっているため相手がおらず、まだその戦力を見ることはできていなかった。
まあ、やろうと思えばサリア辺りは協力してくれそうだけどな。サリアもサリアで自分なりのデッキを模索しているようだし、ついこの前まで初心者だったとは思えない成長ぶりだ。
「なら、相手になろうか?」
「いいのか?」
「まあ、私も最近遊べてないんで」
そう言ってハクはポーチからデッキを取り出す。
確かに、ハクが遊んでいるところはあまり見たことがない。まあ、学年が違うので見る機会がないだけかもしれないが、色々と忙しそうにしているのでなかなか暇がないのだろう。
俺としてもハクと戦えるのは都合がいい。サリアに頼もうと思っていたけど、ここでこのデッキの初戦を飾るのも悪くない。
「それじゃあ、お相手願おうか?」
「もちろん。手加減しないからね?」
「ふふん、新しくなった俺のデッキを見せてやるよ」
「二人とも仲いいね。それじゃあ、私は観戦させてもらおうかな」
テーブルに置いてあったお茶菓子を片付け、スペースを作る。
テトさんは観戦すると言っていたが、せっかくなのでライフ計算係を任せることにした。
暗算でできなくもないけど、集中してると案外忘れちゃうからな。電卓がない以上、紙にメモするかそれ専用の係が必要になるのだ。
「それじゃあ、やろうか」
「おう、んじゃ……」
「「交戦!」」
お互いにデッキをシャッフルし、初期札を引く。お決まりの宣言をして、戦いは始まった。
「俺の先攻で行くぜ」
【ホーリーナイト】というテーマは素で攻撃力が高いのに加え、冥界にいる【ホーリーナイト】と名のつく召喚獣の種類の数だけ攻撃力が上がるという特徴がある。また、その種類によって使える特殊能力も変化していくと言う少しややこしい能力を持っている。
なので、特殊能力を十全に使えるようにするには冥界送りという、自分から召喚獣を捨てていくギミックが必須となる。
【ホーリーナイト】自身にもそういう特殊能力を持つ召喚獣はいるが、汎用支援魔法の中にもそう言ったものはいくつかある。
「俺は【受け継がれる意志】を発動。手札の召喚獣を冥界送りにし、捨てた召喚獣と同じ分類の召喚獣をデッキから手札に加える」
今使った支援魔法がまさにそれだ。デッキから新たに召喚獣を持ってこれるので実質ノーコストである。
この調子で冥界の召喚獣の数を増やし、早々に効果を使えるようにする。この手札なら、もう少し増やせそうだ。
「……最後に【ホーリーナイト・リフティ】を召喚して終了」
粗方冥界のカードを増やした後に壁を立ててターンを渡す。
壁と言っても、すでに冥界に数種類の【ホーリーナイト】が落ちているので攻撃力は結構高い。
もちろん、ハクの使う【ドラグーン】にはその攻撃力を超える召喚獣は多数いるが、初手からそう簡単に並べられるほどハクのデッキは軽くない。
案の定、攻撃力の低い召喚獣を場に出して盾にして終了した。
この調子でどんどん冥界のカードを増やして取り返しのつかないことにしてやろう。
「今日こそは勝つ!」
試合は俺の有利で進んでいった。
いくら壁を並べようと、それを超える数の召喚獣を出せば問題ない。
素の攻撃力が高いのもあって並大抵の召喚獣では壁にはなれないし、特殊能力で除去も可能だ。
ハクのライフは見る見るうちに削られて行き、今や俺のライフと十倍くらいの差がある。
流石にこれは勝っただろう。そう思ってハクの顔を見たら、ハクはあろうことかにやりと笑ってみせた。
いや、笑ったと言ってもちょっと口角を吊り上げただけだったが、ハクからしたら笑ったのだろう。
まさか、ここから逆転できるとでも? 確かに冥界のカードは増えてしまったが、ハクの手札はたった一枚。流石にどうすることもできないと思うんだけど……。
「……アリシア、宣言しようか」
「な、なにをだ?」
「アリシア、次のターンは回ってこないよ」
「え……」
まさかの宣言。それはつまり、このターンで勝負をつけるという意味だ。
いや、それは流石に無理だろう。俺の場には召喚獣が三体。いずれも攻撃力はかなり高いし、うち二体は戦闘以外による破壊耐性を持っている。仮にハクが場の召喚獣を全滅させるような支援魔法を持っていたとしても一掃するのは不可能だ。
それに、仮にそれを手札に持っていたとしても、それだけではライフを削ることはできない。次に一枚デッキから引けるとしても二枚しかないのだし、どう考えても無理なはずだ。
一体何をするつもりなのか、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「じゃあまず、【欲望の対価】を発動。ライフを半分にしてデッキからカードを四枚引く」
なるほど、それで手札を増やすのか。でも、引けるカードが悪かったら意味がないのでは?
さらに、ライフを払ったことでライフ差はかなり開いている。まあ、使わなければそのまま負けだろうから使わざるを得ないんだろうけどさ。
「そして、【古の魔法陣】を発動。冥界にいる特殊能力を持たない召喚獣を復活させる。さらに【竜の目覚め】を発動。冥界から分類がドラゴンの召喚獣が復活した時、冥界にいるドラゴンを一体復活させる」
ハクの場にどんどん召喚獣が並べられていく。
この光景はどこかで見たことがある。いわゆるソリティアと呼ばれる戦い方だ。
カード同士の特殊能力が噛み合い、それがどんどん連鎖していって次第に場が凶悪な召喚獣で彩られていく。
気が付けば、ハクの場にはこちらの場の召喚獣の攻撃力を超える召喚獣が五体。攻撃されればあっけなく勝負はつく状況になってしまった。
「まさか、これほどとは……」
確かにハクはプレイングに関しては相当うまい。何度か戦ったことはあるが一回も勝てたためしはない。
だから、今日こそはと思ったけどやっぱり駄目だったようだ。
妨害する手段もないし、この勝負は負けである。俺ははぁと溜息をついてハクに握手を求めた。
「参りました」
「ふふ、どうも」
【ドラグーン】というテーマが強いというのもあるが、それを使いこなすハクが強いというのもあるんだろうな。
負けたとはいえ、思うようにデッキを動かせて楽しかったのは事実。ここは素直に負けを認めよう。
だけど、いつかは必ず勝って見せる。そしてハクをぎゃふんと言わせてやろう。
お互いに笑い合いながら、決意を新たにするのだった。
感想、誤字報告ありがとうございます。