幕間:娯楽を作ろう7
主人公の友達の転生者、アリシアの視点です。
この話は前章の幕間『娯楽を作ろう』の続きです。読んでいなければ、読んでいただけた方がわかりやすいかと思います。
俺はいつも通りに俺の家にハクとテトさんを招いてカードゲーム開発に勤しんでいた。
と言っても、今回は新しいカードの原案を考えようとかそういうわけじゃない。それに関しては先日ついに第三弾を発売したし、少し休憩してもいいだろう。
今回話し合いたいのは販路についてだ。
「と言うわけで、現状では私の家の本店と王都のみで販売しているわけだけど、人気も結構出てきたことだし、そろそろ他の町にも拡大していきたいと思うのよ」
「まあ、一理あるが、必要あるか? 別に売り上げは気にしていないんだろ?」
元々、このカードゲーム事業は身内間で行う暇つぶしのために作り出したものだ。
それをテトさんが販売しようと言い出した結果、こうして多くの人に楽しんでもらう娯楽となったわけだが、身内で楽しもうという考え方は今も変わっていない。
もちろん、多くの人が触れた方が楽しいのはわかるが、わざわざ事業拡大してまで他の町で売る必要はあるのかと言う話だ。
そりゃ、販売や製造はテトさんの伝手で専門のところにお願いはしているが、大本である俺達はたった三人しかいない。
名目上はテトさんの実家が開発者になっていることになっているとは思うが、広範囲に販路を広げて捌き切れるかどうかは未知数だった。
「それはそうだけど、やる以上は徹底的にやった方がいいかなって。お父さんも、商売で手抜きはするなっていつも言ってるし」
「そりゃまあ、手が余ってるならやってもいいとは思うが……当てはあるのか?」
「一応……行商人に売り込めば広げられるかなって」
なるほど、確かに行商人に頼めば結果的に多くの町に届けることができる。
テトさんの実家はそこそこ大きな商会だから各地に支店を持っているけど、それだけでは限定的になってしまうし、多くの行商人が手に取ってくれれば宣伝と言う意味では得かもしれない。
ただ問題があるとすれば、行商人が娯楽を商品として扱ってくれるかどうかだ。
行商人と言うのは基本的に巡回ルートを持っている。それは弟子に代々受け継がれていくものだから大事なものだし、今日から行商人を始めますとか言う新参者でもない限りルートを外れることはない。
そして、ルートが決まっているということは仕入れる品物も当然決まってくる。そうなると、新しい商品を扱ってくれるかどうかがわからないのだ。
「扱ってくれるかな」
「一応、王都では結構な人気だし、話題性としてはかなりありだと思うから見てはくれると思うよ」
商人って言うのは基本的に金にうるさい。だから、今話題の娯楽と聞けば興味を持ってくれる可能性はある。
ただ、そこでネックになるのがこのゲームのルールの複雑さだ。
今でこそ王都では、と言うか学園では多くの人がルールを理解しているが、最初はその説明も大変だった。
実際にやらなければわからないことも多いし、今だってこの場合はどうすればいいのかという質問が絶えない。
一応ルールブックは作っているが、それを数回読んだだけで理解できる人はそういないだろう。本格的に広めるなら、やはりルールを説明できる人材が必要だ。
そうなってくると、結局こちらから誰かを派遣しなくてはならない。そして、当然三人しかいないのにそんな人材を用意できるわけもなく、行商人が行く先でこれが広まるかどうかは微妙なところだった。
「でも、今なら学園の生徒達が各領地に戻っているし、そこからルールを広めてくれる可能性はあるんじゃない?」
「まあ、確かに……」
ハクの言う通り、現在学園は夏休み。多くの生徒は自分の領地に帰っている。
しかし、当然ながらその領地ではまだそこまでこれは広まっていない。そうなれば、生徒は自分の領地でも遊びたいがためにそれを広めようとするだろう。
確かに生徒が完全にルールを理解しているかと言われればまだ微妙なところではあるが、ただ遊ぶだけだったら出来る可能性は高い。
貴族ならパーティとかを開く可能性もあるし、その場で宣伝してくれれば一気に広まる可能性もある。
「なら、まずは学園に通っている生徒がいる領地を中心に広めていくのはどう?」
「それが一番手っ取り早いか。少しずつでも広められればいずれ周りにも伝播していくだろうし」
多くの地域に行き渡れば、それだけ多くの人の目に触れる。そうすれば、いずれ知らなかった地域にも広まるだろう。
身内で遊ぶためだけに作ったものがそんな風に広まっていくのは少し恥ずかしいけど、誇らしくもある。
確かにテトさんの言う通り、商売するなら手を抜くなと言うのは間違っていないようだ。
「そうなるとさらに量産しないとだな。テトさん、製造の方はどうなってる?」
「第三弾のを中心にすべてのラインを稼働中よ。第一弾と第二弾のもまだまだ作り続けているわ」
「そのうちその工場も広げないといけなくなりそうだな」
「まあ、ぶっちゃけ今でも足りてないんだけどね」
現状では作った分は即座に店頭に並べているらしい。王都支部のみだが、その売れ行きは相当なもので、売り切れが続出しているのだという。
本店ではそうでもないらしいのだが、やはり王都の売り上げが凄まじい。少なくとも、今やっているようにテトさんの領地で作って運んで売るというのでは到底間に合わないのだとか。
この調子なら王都に工場を建ててもいいかもしれないな。
「資金は十分あるし、本気で王都に製造工場建てたいかも」
「なら、色々聞いてこようか? 王様なら色々知ってるだろうし」
「いや、王様に頼るのはまずいだろ。普通に不動産屋に聞いとけって」
「そう? まあ、そうか」
ハクは気軽に王様とか偉い人に頼りすぎだと思う。
いや、そんな人に気軽に相談できるって言う人脈が凄いけど、商人ですらない俺達が工場建てたいんでいい場所教えてくださいって王様に言うのはおかしいだろ。
ハクはもう少し自分のコネの凄さを自覚した方がいいと思う。王様を始め、王子、学園長、ギルドマスター、Aランク冒険者数人と、国外まで行けば皇帝にエルフの国の王女様もか? そして極めつけは竜と。
いくら転生者が特別な能力を持つとは言っても、ここまでのコネを持っているのはハクくらいなものだろう。ハクがその気になればコネだけで何でもできる気がする。
まあ、そんなハクと友達って言うのも周りから見たら凄いことなのかもしれないが。
「それじゃあ、量産ができ次第行商人の方にも声をかけてみるね」
「うん。あんまり無理しすぎないようにね」
「もちろん。でも、もし倒れちゃったら看病してくれる?」
「するけど、やらないでね?」
「ふふ、はーい」
テトさんは相変わらずハクにでれでれだ。
今思うと、ハクって意外とハーレムしてね? サリアにエルさんにテトさんにサフィさん、カムイさん、それに最近ユーリって言う人を連れてきたし。
これでハクが男だったら殺意の波動に目覚めていただろうが、女性だからかあまりそんな感情は浮かんでこない。
ま、別にハクが誰と仲良くしようが俺の親友と言う立場が揺らぐわけではない。別に恋人になりたいとか言うわけでもないし、そこまでの嫉妬はしないさ。
仲睦まじい様子の二人を眺めながら、そんなことを思っていた。
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