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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第十二章:竜人の少女編
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幕間:いつもお世話になっているお礼

 エンシェントドラゴン、ホムラの視点です。

 竜の使命は世界各地に広がる竜脈を整備し、この世界のバランスを保つことだ。

 誰に言われたというわけでもないが、ほとんどの竜はこの考えを持ち、その使命に誇りを持っている。

 まあ、やんちゃ盛りな子供竜や下位種族であるワイバーンなどはこの限りではないようだが、それは別にどうでもいいだろう。

 そんな竜達をまとめ上げるリーダー的な存在がエンシェントドラゴン。ハーフニル様を筆頭に存在する数千年以上の時を経た竜達は各地の竜脈を整備する竜達を管理し、逐次拠点である竜の谷へと報告している。

 俺様もそのエンシェントドラゴンの一匹であり、ここトラム大陸の管理を任されてはいるのだが、言うほど忙しいわけではない。

 なぜなら、トラム大陸は竜の谷があるいわば本拠点であり、そこにはリーダーであるハーフニル様がいるからだ。

 俺様が何かしなくても、その時にはハーフニル様が動いている。もちろん、何もしていないというわけではないが、大抵の場合はそこまで本気を出さなくても管理は行き届いているのだ。

 だから、俺様は基本的に暇だ。ちょいちょい仕事をすることはあるが、それ以外は気ままに周囲の散策をしている。

 だが、この散策も無意味と言うわけでもない。なぜなら、その時見つけた土産話を喜ぶ奴がいるからだ。


〈ハク、今日は来てくれるかね〉


 ハーフニル様の娘で、特殊な竜であるハク。子供竜に対して話すこともあるが、大抵の場合は土産話の相手はハクだ。

 最近ではユーリと言う竜人を助けるために色々無茶したって話だが、リヒトがちゃんと治したと言っていたし、エルも付いているから無事であることに違いはないだろう。

 あれからまた人間の町に行って帰ってきていないが、俺様の勘では今日か明日にでも来るはずだ。

 勘と言っても、一応根拠はある。と言うのも、ハクが来るタイミングはだいたい決まっているのだ。

 大抵は一月に一回か二回くらいの頻度ではあるが、たまにその頻度が上がる月がある。で、今はその頻度が上がる月に入っていると思われる。

 最近はユーリと言う竜人を助けるために色々奔走していたおかげであまり話すこともなかったが、それもどうやら終わったようだし、そろそろ遊びに来てもいい頃だ。

 一応、前回ハクに会ってからも色々と各地を回って土産話を仕入れていた。と言っても、流石にヒヒイロカネのような凄い発見はなかったが、それでもハクの興味のありそうな話はあると思っている。

 エルが常に一緒にいるのが少し面倒だが、ハクが俺様の話を聞いてくれるって言うなら些細な問題だ。


〈む、この気配は〉


 そんなことを考えていると、ハクの魔力を感じた。

 転移魔法を使う際には出現場所にも魔力が漏れる。だから、それを感じ取れば竜が転移してきた時にある程度誰かを把握することが可能だ。

 俺様はすぐさまハクの転移した先へと向かう。ハクは決まって竜の谷から少し離れたところに転移するので迎えに行ってやるのだ。

 竜の翼でひとっ飛び。あっという間に辿り着くと、そこにはエルと共に宙を漂っているハクの姿があった。


〈よう、ハク。お帰り〉


「ホムラ。うん、ただいま」


 ハクは背中から翼を出した人状態で宙を漂っている。ちなみに俺は竜姿だ。

 ハクは人の下で暮らしているから人の姿がデフォルトだと言っていたけど、たまに少し窮屈そうにしているのを知っている。

 竜の谷に来た時くらい別に竜の姿で過ごしてもいいとは思うんだけどな。まあ、最近まで竜の姿になることができなかったようだから、今は慣れさせている段階なのかもしれない。

 別に全く竜の姿にならないというわけではないし、特に無理をしているというわけでもなさそうだから何か言う必要はないだろう。

 そういうのは、本当に辛そうな時に言ってあげたらいい。


〈今日はどうした? ヒヒイロカネの研究か?〉


「まあ、それもいずれはやりたいんだけど、今日は別の用事だよ」


 以前、俺が見つけてきたヒヒイロカネが取れるダンジョンでハクは大量のヒヒイロカネを持ち帰った。

 ヒヒイロカネって言うのは神金属と呼ばれる特殊な金属の一つで、地上では滅多にお目にかかれない希少な金属だ。

 その希少性は各国が鱗一枚にも満たないようなボロくずを白金貨数百枚~数千枚で取り合うような代物だ。当然、そんなものを数百キロ単位で持っているのだから知られたら大惨事ではあるが、俺様は別にそれでもいいと思っている。

 元々そんな希少なものがキロ単位で存在しているなんて信じる奴はいないだろうし、仮に【鑑定】なりで調べられたとしてもハクがそこらの雑魚に後れを取るはずもない。

 仮に後れを取ったとしても、その時は俺様が報復する。竜に喧嘩を売るんだ、国が滅んでも文句はないよな?

 まあ、ハク自身が優しいから報復を望まないだろうし、恨まれるにしろ祭り上げられるにしろハクが平穏な生活を望んでいる以上はばれないようにした方がいいのは間違いないけどな。

 まあ、それはともかくとして。


〈なんだ、竜人の様子でも見に来たのか?〉


「ううん、用があるのはホムラだよ」


〈俺様に?〉


 いつもは俺様の方から誘っているのに、向こうから誘ってくるとは珍しい。

 まあ、ハクもまだまだ子供だし、遊び相手が欲しいこともあるだろう。

 前にリヒトとやり合ったらしいが、竜の姿を取り戻したハクがどれほどの実力なのかも少し気になる。前は封印のせいかかなり弱体化していたからな。

 いつものように散歩に出かけるのもいいが、たまにはそういうじゃれ合いでもいいだろう。

 少しワクワクしていると、ハクは不意に空中へ手を伸ばし、そこから何かを取り出した。

 【ストレージ】を使ったらしい。亜空間に物を収納しておける便利なスキルだ。

 俺様も持っているけど、あんまり使ったことはないな。若い竜共は宝石やらなんやらをため込むのが趣味の奴もいるようだが、俺様はそんな趣味ないし。


〈それは?〉


「硬めのブラシ、かな。ここだとやりにくいから、一旦降りよう?」


〈お、おう〉


 ブラシ、まあ、ブラシだな。

 ブラシは大抵の場合動物や魔物の毛を使って作られると聞いたことがあるが、あれは見た感じ金属で作られているようだ。

 確かに金属の毛を使ったブラシも存在するが、あまり流通はしていなかったように思える。なんでそんなものを持っているんだろうか。

 よくわからないが、ひとまず降りようと言われたので適当な草原に降下する。

 なんかエルがジトッとした目で見つめているような気がするが、何か気に障ることでもしただろうか。


〈で、何するんだ?〉


「ちょっと動かないでね」


 そう言ってハクは近づいてくると、手に持ったブラシで俺様の身体を擦り始めた。


〈お、おう? ど、どうした?〉


「ホムラってあんまり水浴びしないよね? だから、汚れを落としてあげようと思って」


 確かに俺様は火竜だから水はあまり得意ではない。だが、湖に体を沈めたところで体が疼きだすとかそういうわけじゃないから定期的に水浴びは行っている。

 だからそこまで汚れているというわけではないのだが、ハクは一生懸命に体を伸ばして俺様の身体を擦っていた。


「いつもホムラにはお世話になってるから、少し恩返しがしたかったんだ」


〈別にお礼をされるようなことはしちゃいないと思うが……〉


「この前ヒヒイロカネも見つけてくれたでしょ。それにいつも一杯お話ししてくれるし」


 俺様としてはただ暇つぶしを兼ねた土産話の調達なんだが、それでハクが喜んでくれているというなら嬉しい限りだ。

 それに、なんだかんだ言ってこうして体を擦られるのは気持ちがいい。

 たまに竜同士で体の舐め合いをすることがあるが、それに近い何かを感じる。


〈そんなことで喜んでくれるなら、俺様はいくらでも話をしてやるよ〉


「うん、ありがとう。これからもよろしくね」


〈おう〉


 その日は数時間にわたって体の隅々まで磨かれた。

 竜の鱗はかなり硬いのでブラシの方はボロボロになってしまったが、それと引き換えに俺様の身体は輝かんばかりである。

 時折エルが恨めしそうに俺様を睨んでいたが、多分嫉妬してたんだろうな。

 普段はいつもしてやられてばかりなので少し優越感に浸ることもできた。

 今日はいい一日だったと、しばらくの間上機嫌は続いたのだった。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] そのうちエルさんにもやってあげないとね
[気になる点] 安易に〈国が滅んでも文句はないよな?〉なんて思考になるホムラはエンシェントドラゴンのなかでも若手だからだろうか?こういった瞬間湯沸かし器の若竜が聖教勇者連盟の大陸に配置されたらハルマゲ…
[良い点] 体いっぱい使ってブラッシングするハクちゃん可愛い [一言] いずれブラシが、アダマンタイトかヒヒイロカネ製になりそうな予感
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