第四百三十三話:迷った末の答え
ユーリさんの言葉を頭の中で反芻する。しかし、時間をかけてもその言葉をうまく飲み込むことができなかった。
え? 私の事が好き? 付き合って? 一体どうしてそうなったんだろう。
いや、確かに私はユーリさんの事を救った恩人なんだろう。でも、だからと言ってその人を好きになるかと言われたら微妙なところだ。
確かに好意は抱くかもしれないが、それは恩人としての気持ちであり、恋愛的な意味合いではないと思う。まして、前世ではユーリさんは大学生だったはずだ。対して私はその時29歳。かなり年が離れているし、特段顔がいいというわけでもなかったのだから恋愛的に好かれる理由がわからない。
でも、ここでユーリさんの言葉を思い出す。
確か、ユーリさんは私のために生涯を捧げると言っていた。それは死なせてしまったことによる罪悪感からくるものかと思っていたが、まさか本当に言葉のままにそういう意味なのか?
私の事を色々調べたとも言っていたし、ユーリさんの性癖はわからないが、年上好きなら可能性もなくはない?
いやいや、だとしても今の私は7歳くらいに見える幼女だぞ。しかも今や同性だし付き合うというのは無理がある。
いや、百合と言うのもありなのか? ユーリさんの元の名前は結理だし、結理だけに百合だって? いやなにを言ってるんだ私は。
「え、えっと、それは、友達的な意味で?」
「恋愛的な意味です!」
確認したけどやっぱりそっち系だった!
えー……どうすればいいのこれ。
いや、確かにユーリさんは可愛いよ? まだ幼いとはいえ、成長すればとんでもない美女になってくれるだろうし、好みか好みでないかと言えば好みだろう。
でも、だからと言って付き合うかと言われたらどうなんだって話だ。
見た目の問題は……まあ、私も容姿が容姿だしつり合いは取れているのかもしれないけど、一応女同士だよ?
私はまだしも、ユーリさんはそれでいいんだろうか。と言うか、年上好きだというなら今の容姿的にストライクゾーンは外れていそうなものだが。
「最初は罪悪感から償いのためにこの身を捧げようと思ったんです。だから、能力も白夜さんを助けられるようなものを願いました。どんな怪我をしても、どんな病気になっても助けられるように」
「それは……」
「でも、途中からだんだん考えが変わっていったんです。白夜さんを幸せにしてあげたい、一緒にいたい、その気持ちが日に日に強くなっていったんです」
想い続けるあまりにその気持ちがいつの間にか恋へと変わっていったってことなんだろうか。
私の事を色々調べたと言っていたし、前世の頃からその兆候はあったのかもしれない。
でも、まさか恋心にまで発展するとは……恋愛っていうのは本当によくわからない。
「だから、もし白夜さんに会ったら告白しようって決めていたんです。たとえどんな姿になっていたとしても、白夜さんなら愛せると思ったんです」
「姿どころか性別が変わっていますが……」
「関係ありません。恋に性別の壁など無意味です」
なんかこじれたこと言ってる……。
愛さえあれば、なんていう台詞を聞いたことがあるけど、それは本の中だけかと思っていたよ。
以前、この世界の同性同士の結婚について考えたことはあった。だけど、結局詳しく調べることもなく放置していたんだよね。そんなことにはならないと思ったから。
だけど、こうして告白されてしまうとその考えも変わってくる。
いや、仮に恋人になったとしてもそのまま結婚するかまではわからないけど、仮にするとしたらどうなるのかなって。
なんかこんなこと考えていると乗り気なんじゃないかって思われそうだけど、私自身どうしたいかはわかっていない。
ユーリさんにとっては数十年越しの片思いなわけだし、その想いに応えてあげたいという気持ちもある。でも、そう言う結婚問題をどうしようかという気持ちもある。
さて、どうするべきか……。
「ダメ、でしょうか?」
ユーリさんが不安そうに聞いてくる。
せっかく記憶が戻り、恋焦がれていた探し人も見つかったというのに、ここで断ったらと思うと胃が痛い。
ここは自分の気持ちに正直になるべきだろうか。私は結局どうしたいんだろうか?
そう考えると、私はユーリさんとはこれまで通り親しい関係でいたいと思っていると言える。
同じ転生者と言うのもあるが、前世の私の関係者でもあるし、転生者では珍しい竜人と言う種族の関係上、守ってあげたいという気持ちが強い。
ただ、この気持ちは恋愛的な意味合いではなく、あくまで庇護対象的な意味でだ。強いて言うなら、友達でいたいという感情だと思う。
では、友達のままでいるにはどうすればいいだろう? もしここで断れば、少なくともその関係は望めないだろう。竜として世話を焼くことはできるかもしれないが、よそよそしい反応になるのが目に見えている。ユーリさんもそれでは辛いだろう。
じゃあ受け入れるかと言われたら、それはどうなんだろう? 親しい関係にはなれるし、友情に亀裂が入ることもない。守るべき対象が一緒にいたいと思ってくれるならそれに越したことはないだろう。
あれ、そう考えると受け入れるのは意外とアリでは?
同性同士なら間違いが起こることもないだろうし、ユーリさんとて女性同士で子供が欲しいとか言い出すことはないだろう。
言うなればいつも一緒にいるサリアやエルのような関係だと思えばいいのではないだろうか。
うん、なんだかんだで行けそうな気がする。
「……いや、そんなことはありませんよ。これからよろしくお願いします、ユーリさん」
私がオッケーを出すと、ユーリさんはぱぁっと顔を輝かせ、私に抱き着いてきた。
よっぽど嬉しかったのだろう、頭をぐりぐりと擦りつけながら目に涙を浮かべている。
腐っても竜人だけあってその力はかなり強いが、私も少し竜の力を解放して支えてあげる。ここで倒れてしまったらなんか情けないし。
ひとまずはこれでよかっただろう。ただ、よくよく考えると、これからユーリさんをどう扱おうかという問題もあることに気が付く。
サリアとかと同じだと言ったが、それだとサリアと同じように学園に入学させなければならないのではないだろうか。確かにオルフェス王国は多種族国家だから竜人でも学園に入学することはできるかもしれないけど、目立つことこの上ない。
サリア以上に問題を呼び込む可能性を考えると、王様に無理を言うわけにもいかない気がする。
では学園には通わせずに竜の谷に置いておくというのも考えたが、それでは会える日が限定されてしまうし、ユーリさんがそれで納得してくれるかどうかがわからない。
流石にユーリさんは転移魔法は使えないだろうから、私が一方的に会いに行くだけになりそうだし、それは可哀そうだよね。
一番いいのは、王都に連れて行った上で学園には通わせず、普段は隠蔽魔法を使って翼や尻尾を隠しておく、と言うのが無難だろうか。
それでも学園がある間は寮暮らしになるため普段は会えないが、同じ王都に住んでいれば向こうから会いに来ることだってできるし不安は少ないだろう。
そうなると、ユーリさんがどれほど魔法を使えるかと言うのも重要だな。使えないってことはないと思うけど、光魔法か闇魔法が使えるか否かでだいぶ変わってくる。
……まあ、その辺は後で考えよう。
先の事を不安に思いつつも、今はユーリさんの背中を撫でてあげるとしよう。
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