第四百二十四話:襲撃者と仲間割れ
背中に走った痛みにとっさに探知魔法を確認する。すると、この周辺に数人の反応が見て取れた。
まさか、ユルグさんの仲間? でも、お母さんの話だとユルグさんは一人で行動していたはず。なら、盗賊の類だろうか。
いや、盗賊なら私を真っ先に撃つのはおかしい。誰も武器は持っていないとはいえ、まずは一番年長のエルを狙うはずだ。
状況が飲み込めない。ただ、わかることはどうやらこの集団は私達を殺そうとしているということだった。
「エル、結界を張ってあげて。その後は適当に散らしてくれると助かる」
「承知しました」
「アリア、ユーリさんの護衛をお願い。まだ魔力は大丈夫?」
『今回は転移魔法使ってないから平気だよ。任せておいて』
私はそれぞれに指示を出し、立ち上がる。
不意打ちを受けはしたが、私はもはや人状態でも竜に近い性質を持っている。だから、多少の攻撃では痛みはあまり感じないのだ。
背中に刺さったからとっさに抜けないのが残念だけど、仮に盗賊が相手ならエルが暴れれば事足りる。でも、もしかしたらユルグさんの仲間と言う可能性もあるし、まずはその確認をしないといけない。
「ユーリさん、ここを絶対に動かないでください。必ず守りますから」
「せ、背中に矢が……!」
「これくらいは大丈夫です。言ったでしょう? 私は竜だって」
驚愕に目を見開くユーリさんをその場に残し、私はユルグさんの下へと向かう。
これがただの盗賊ならばユルグさんも同じく襲われているはずだが、果たしてどうだろうか。
できれば味方であってほしいと願いつつユルグさんの元に戻ってみると、そこにはユルグさんがフードを被り、弓を背負った何者かと話している姿があった。
うん、仲間で確定みたいだね。
「おい、貴様。これは何の真似だ」
「そう怒らないでよ。私達はただ、君の探し人を保護しようってだけさ」
「協力は不要だと言ったはずだが?」
「だって、それで探し人が見つかったら君はそのまま組織を抜けるつもりでしょう? だったら、相手を保護してそのまま居座ってもらった方が得じゃないか」
「そんなことでこの絶好の機会を邪魔したというのか?」
仲間ではあるみたいだけど、仲はあんまりよくなさそう?
聞く限り、恐らく奴らは聖教勇者連盟の連中のようだ。そして狙いはユーリさんらしい。
ユルグさんは一応聖教勇者連盟の一員ではあるけど、その実態はユーリさんを探すためだけに利用しているような関係だ。だから、もしユーリさんが見つかれば聖教勇者連盟にいる意味はなくなるし、その後多分ユーリさんと一緒に暮らしたいだろうから抜けることになると。
でも、それだと聖教勇者連盟としては面白くない。だから、ユーリさんも聖教勇者連盟に置いて、二人一緒に手を貸してほしいということか。
と言うことは、これ多分初めからユルグさんに監視がついていたっぽいね。ユルグさんは協力を拒否していたようだけど、そうでもなければこんなに早く仕掛けてこられるわけないし。
ユルグさんは一人で行動しているという情報を鵜呑みにして探知魔法を怠った私のミスだ。ちゃんと注意を払っていれば、不審な動きをする人くらい見破れただろうに。
後悔してももう遅い。とにかく、奴らを倒すことが先決だ。
「あ、でも、見たところ彼女は竜人のようだし、聖教勇者連盟にはいらないかな。殺した方が世界のためになりそうだ」
「……貴様、今結理を殺すと言ったか?」
「言ったけど? あー、でもそうなると結局ユルグは出て行っちゃうか。ま、元々忠誠心も低かったみたいだし、両方まとめて始末した方が楽かな?」
「貴様……!」
流石にこの距離でユーリさんの事を人間と見間違えるはずもない。やはり転生者と言えど、竜人は聖教勇者連盟とは相いれないようだ。
だが、これはむしろチャンスかもしれない。この状況であれば、ユルグさんも戦わざるを得ない。聖教勇者連盟が相手なら転生者も混ざっているかもしれないし、ここで一時的にとはいえ戦力が増えるのは好ましい。
とりあえず、気づいていないみたいだし、あいつを倒してしまおうか。
私は木の陰に隠れながら水球を放つ。しかし、その人物は軽くバックステップをすると簡単に避けてしまった。
「気づいていましたか」
「おや、まだ生きていたの? 確実に心臓を射抜いたと思ったんだけど、案外頑丈なんだね」
フードを目深にかぶっているせいかその表情は見て取れないが、どうも笑っているように聞こえる。
他の仲間がどれほどかは知らないけど、少なくともこの人は転生者っぽいな。試しに【鑑定】してみると、その名前が見て取れた。
『リナ(才川明美)』
うん、間違いなく転生者だ。フードのせいで性別がはっきりしなかったけど、どうやら女性のようだった。
「おい、ハク、手を貸せ。こいつは殺さなくちゃならない」
「どうやら敵は一緒のようですし、手伝いますよ」
「おやおや、ただの脳筋に死にぞこないが揃ったところで何ができるのかな? まあ、やるって言うなら相手してあげよう。私を見つけられるといいね」
そう言った瞬間、リナさんの姿が消える。とっさに探知魔法を見たが、どうやら隠密魔法を使っただけのようでまだその場にいることがわかった。
転生者だから何か特殊な能力を持っているんだろうけど、どうやらそれは隠密能力ってわけではなさそうだ。これなら、すぐにでも当てられる。
私は再び水球を作り上げると、即座に姿の消えた場所に打ち込んだ。
「かはっ!?」
まさか隠密中に攻撃が飛んでくるとは思わなかったのか、避けようともしなかった。攻撃を食らったことにより隠密が剥がれ、その姿が露わになる。
軽く撃った水球ではあるけど、その威力はショットガン並だ。まともに食らえば骨の何本かは折れるだろう。
ユルグさんは突然消えた女性が再び現れて蹲っていることにぽかんと口を開けて呆けていた。
まあ、あんな自信たっぷりに言っておいてこれじゃあ呆然とするのもわかる。
「な、なぜわかったの。闇魔法の隠密は見破られないはずじゃあ……」
「ああ、確かに普通の探知魔法じゃわかりませんね。でも、私の魔法は特別製なものでして」
光魔法で行う隠密魔法と違い、闇魔法の隠密魔法はその隠蔽度がかなり高く、普通の探知魔法では感知されないほどだ。
しかし、そんな明確な弱点を私がそのまま残しておくはずもない。そもそも、それでサリアに攫われたわけだし、弱点を埋めようとするのは当然のことだ。
今の私の探知魔法は闇魔法だろうが空間魔法だろうが貫通する。場合によっては風の流れすら必要なく、その場に空気さえあれば完結する完全無欠の探知魔法だ。
だから、隠密魔法で隠れている気になっている相手を探すことなんて造作もないことである。
「そんな、馬鹿な……」
「さて、そろそろお仲間も倒されてる頃でしょうし、観念していただけますか?」
探知魔法を見る限り、他の仲間もエル、あるいはアリアによって殲滅させられている。どうやら転生者はリナさん一人だけだったようで、あっさりと決着はついた。
あちこちから聞こえてくる悲鳴でリナさんも察したのか、がっくりと項垂れる。
戦闘になりそうな気がしたけど、今更弓が得意程度の能力で私は止められない。もし止めるとしたら、それこそ概念でも弄らなければ無理だろう。
ただ、神様がどの程度まで願いを叶えているのかは知らないけど、本当にそんな能力を持った奴がいたらと思うとちょっとぞっとする。
でも、今まで見た感じそこまでぶっ飛んだものはなかったし、最強であるはずの勇者もあっけなく死んだことを考えるとそこまでの物はないのかもしれない。
さて、とりあえずユーリさんに無事を伝えようか。背中の矢も抜きたいことだし。
そう思って、念のためにリナさんに結界を張ってからユーリさんのいる木の影へと戻っていった。
感想、誤字報告ありがとうございます。